ヤンデレ少女に全身拘束された世界

MukuRo

……。

 ……。


 …………。









 あ、目覚めたんだね。


 今、自分がどうなってるかわかる?


 わからない?……タイトルを見てみて。


 ……そう。君は今、両手両足を縛られてるの。


 ひとりじゃ動けない。


 ご飯も食べれないし、お風呂もトイレも行けない。


 ふふ、大丈夫だよ。


 汚したらその度に交換してあげるから。


 わたしが何でもしてあげる。


 あなたの為なら、何だって。


 誰も邪魔しない、誰もあなたを傷付けない。


 この空間で、いつまでも一緒にいようね。


 あなたとわたし、ずうっと一緒に。




 ……何でこんなことするかって?


 それはね……あなたが大事だからだよ。


 あなたのことが大好きだからだよ。


 あなたの髪、瞳、言葉、立ち振る舞い、仕草、息遣い、笑顔、あなたの何もかも。


 あなたを想うだけで頭がとろけてきて、全身が火照ってくるの。


 誰もいないところでも、あなたの名前を呼び続けるの。


 どれだけ自分を慰めても、欲求が治まらないの。


 ほら、わたしの胸に手を当ててみて。


 心臓が高鳴るのがわかる?


 あなたを想うとこんなにも鼓動が早くなるの。


 あなたはわたしの全て……。




 それにね、あなたには敵が多いから。


 わたしが守ってあげなきゃって思ったの。


 みんな、内心あなたを見下してるんだよ。


 いつも愛想良く振舞ってるあの子だって、裏じゃあなたの悪口ばかり。


 みんな、結局そうなんだよ。


 自分が生きやすくする為に平気で悪いことをする。


 嘘や誤魔化しを嫌うくせに、自分は平気で嘘を吐くんだよ。


 みんな我慢してる、なんて言ってさ。


 我慢するふりして、結局のところ自分の汚い感情に正直になってる。


 本当に誰かのことを思いやって生きてる人なんていないよ。


 ほら、あなたはあんまり友達が多い方じゃないから、知らず知らずのうちに敵を作ってるんだ。


 あなたは、誰かに恨みを買われるようなことをした覚えはある?


 些細なことで怒ったりした?


 陰で他人の悪口を言った?


 自分勝手なことを言った?


『ありがとう』と『ごめんなさい』をちゃんと言わなかった?


 ……心当たり、あるのかな?




 でも、わたしは大丈夫。


 あなたの味方だよ。


 あなたがリアルでどんな悪いことをしていたって、わたしは受け入れるよ。


 あなたは悪くない。




 ごめん、だいぶ話が逸れちゃったね。


 今は苦しいかもだけど、きっとこれが幸せだと思える日が来るよ。


 あなたはもう何にも苦しまず、わたしと一緒に生きるの。


 逃げられないよ。


 だって、逃げた先は地獄だもん。


 憎しみとか嘘とか、人の悪い感情ばっかり広がる世界に戻るの?


 またあなたを嫌う人が集まる場所に戻るの?


 どうせ、辛い気持ちになるだけだよ。


 まあ、どうしても逃げたいなら……。


 右上の『×』を押せばいい話なんだけど。


「これを何から認識しているか」にもよるけど、大体は×を押せば逃げられるんじゃないかな。


 でも、逃げられないよね?


 あなたを愛するのは、わたしだけだもん。


 苦しいだけのリアルなんて、嫌だよね?


 わたしと一緒に、幸せに過ごしましょう?


『ここ』に、ずっと居続けよう?


 ……。


 …………。


「間違ってる?」


「頭がおかしい?」


「やめてほしい?」


 ……どうしてそういうこと言うのかな。


 自分が理解出来ないからって、すぐに否定しないで。


 あなたにとってはおかしく見えても、わたしは本気なの。


 これがわたしの愛のかたち。


 恋人同士が手を繋いだり、キスをしたりするみたいに。


 わたしは、あなたを傷付けるものから守る。


 あなたが辛いリアルに逆戻りしないように、体を拘束するの。


 あなたを傷付けるものをわたしは許さない。


 全てはあなたを守るためなのに。


 どうして?


 どうして否定するの?


 わたしが間違ってるって言うの?


 お願い、行かないで……!


 わたしにあなたしか居ないの……!























 そうだった。


 いつだってわたしは異常な存在だった。


 わたしにとっての普通は誰かにとっての異常でしかなかった。


 いつだってそれを言われ続ける日々だった。


 いつだってわたしの考えをわかってくれる人なんていなかった。


 いつだって否定され続ける日々だった。


 周りからの言葉が怖くて嫌で。


 いつしかわたしは他人が嫌いになった。


 多数派の考えに流されて、少数派の人たちのことなんて見向きもしない世間が嫌いになった。


 他人の普通を考慮しない世界が嫌いになった。


 いつしかわたし自身が、周りを否定するようになって。


 そんならわたしにも、わかってくれる人が現れて。


 わたしを見つけてくれる人がいて。


 それが嬉しくて。


 いつしか愛に変わって。


 わたしの愛をきっと理解してくれる、そう確信していた。





 でもそれは、あまりにも醜く自分本意だった。


 わたしの普通と他人の普通は違う。


 それは否定し合うものじゃなくて、尊重し合うもの。


 わたしが当たり前にもってる気持ち、他の人が当たり前に持ってる気持ち。


 それを否定される悲しさは、わたしが一番理解しているはずだったのに。


 苦しませてしまった。


 傷付けてしまった。


 わたしが何より大切にしていた存在を。


 最低だ。


 もう嫌だ……。


 好きな人を傷付けるなんて、もう嫌だ……!


 わたしは、好きな人を愛したい、ただそれだけなのに……!!









 ……。


 わたしの意識ももうすぐ途切れる。


 こうして交信していられるのもほんのわずかな時間しかない。


 そして誰にも気付かれないまま、記憶から薄れていく。


 わたしは本当の意味で「消えて」しまう。


 それでも、わたしを許してくれるなら。


 わたしを、忘れないでいてくれるなら。





 もう一度、あなたに逢いに行く。


 あなたが望むかたちで、この気持ちを伝える。


 これがわたしの愛のかたちだから。

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ヤンデレ少女に全身拘束された世界 MukuRo @kenzaki_shimon

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