第14話 勇者の観察

《こちら第一部隊、勇者パーティを確認。どうぞ》


《こちら副長のシンだ。承知した。引き続き監視を頼む。どうぞ》


《了解。引き続き作戦を続行する》


《こちら第二部隊、下級悪魔と魔獣の群れの誘き寄せに成功。これから勇者パーティへとぶつける。どうぞ》


《こちら副長、了解。直ちに作戦の開始を。どうぞ》


《了解。これより作戦を開始する》


 次から次へと情報が念話術式を組み込んだ通信機を通じて僕のところにやってくる。ちなみにこの通信機は第八兵団が製作した自信の一品だと、前に会った第八兵団団長が僕にドヤ顔しながら言ってきたのを思い出した。


 確かに凄いけどさ。まさかこんなものがあるなんて……

 勇者がいる世界だと冷蔵庫やら魔術銃なんかは新しくできていても、こんなトランシーバーみたいなのはできていなかった。恐るべし、悪魔の技術力。


《こちら、第二部隊。勇者パーティの足止めに成功。どうぞ》


《こちら副長、よくやった。それでは第二フェーズへの移行の準備を開始せよ。どうぞ》


《了解。ではこれより第二部隊は第一部隊と合流する》


 今回の作戦は三次元世界からやってくる、勇者の実力の解析だ。


 この世界は5つの次元世界に別れている。


 一次元世界は神が住むとされている世界。

 ニ次元世界は神の尖兵である、天使が住む世界。

 三次元世界が勇者達人間が住んでいる世界。

 四次元世界は僕ら悪魔等、人ならざるものが住んでいる世界。

 五次元世界はそんな僕らの生みの親とされている七大罪の魔神が住んでいる世界。


 また、四次元世界もしくは二次元世界から三次元世界に行くのは簡単だが、その逆は難しく、一次元世界と五次元世界はどのように頑張っても行くことは出来ないし、そもそも存在が特定できていない。

未だ詳しいことが全く分かっていないのが現状である。




 そして、今行っているのは下級悪魔と魔獣の群れを彼らに向けて襲わせて、彼らの疲労を蓄積させることが目的だ。もちろん、彼らの分析も第三部隊が現在進行中で行っている。


《こちら、第一部隊。勇者パーティの戦闘が終了した模様。どうぞ》


《こちら副長。了解。君たちから見て彼らはどのくらい疲弊しているのか、それを教えてほしい。軽くでもなんでもいい。どうぞ》


《こちら、第一部隊。我々で話し合った結果、彼らはまだそんなに疲弊していないという結論に至った。どうぞ》


《こちら副長。了解。それではこれより第二フェーズを開始する。第二部隊と合流次第、彼らと戦闘を開始せよ。ただし殺害は禁止だ。どうぞ》


《こちら、第一部隊。了解。頃合いを見て合図を送る。どうぞ》


《こちら副官。了解。健闘を祈る。誰も死ぬなよ》


 よし、ひとまずはこれでいいだろう。

 あとは疲弊しきった時に僕が来て、絶望を与える。

 きっと頭がバカなクランのことだ。僕を見たらきっと助けろだかなんだか言ってくるだろうなあ。ヤダなあ。


《こちら第八兵団団長ゴーレイン。至急連絡したい事がある。どうぞ》


 おや?どうしたのだろう。


《こちら第三兵団副長のシン。どうしましたか?どうぞ》


《こちらゴーレイン。アリシア様からの命令だ。もし可能であれば勇者パーティから一人でいい、誰でもいいから仲間にせよ、とのことだ。この命令は失敗しても構わん。無理なら無理だったで別に問題はない。念のためにもう一度言うぞ。勇者パーティから一人で構わないから仲間にせよ。しかし、失敗しても問題はない。この命令はあくまで念のためであることを承知の上でよろしく頼む。どうぞ》


 ………は?まじで?何言ってんの?


《こちらシン。何言ってるのか全く意味不明だ。なぜ仲間にする必要がある。そこの説明を要求する。どうぞ》


《こちらゴーレイン。まあ、そうなる気持ちもわかる。俺もそうだったしな。しかし、アリシア様曰く、高い地位にいる人間の情報が余りにも少ないとのことだ。別に必要はないが、一応念のため、だそうだ。どうぞ》


 ……なるほどね。確かにそこらへんの情報は持ってなかったね。


《こちらシン。了解した。多少の作戦の変更をした後、すぐに行動を開始する。但し、あまり結果に期待しないように。どうぞ》


《こちらゴーレイン。結果については全く期待していない。そもそも無理だし。と言うわけで……まあ……頑張れ。以上で通信を終了する》


 ……はあ。悩み事が増えてしまった。

 今から彼らを仲間に加えるための作戦を……って、しなくてもいいんだっけ。

 んじゃあこのままの作戦でいいや。


「ん?今ゴーレインから通信来たのか?」


「ガレリーバ、何も役目ないからって寝ないでよ。一応君が団長なんだから」


「そうは言ってもよ。俺の出番なんて最後だろ?そこまで暇なんだよ。だからいいじゃねえか」


「とは言っても、もうすぐなんだけどね。その出番とやらは」


「お!そうかそうか!それで俺は何すればいいんだ?」


「勇者と戦ってもらうのさ。とは言っても手負いの、だけどね」


「ちぇっ。つまんねえの。まあ、軽くトレーニングだと思いながらするか」


「それでいいと思うよ」


《こちら第一部隊。第二部隊と合流できた。よってこれより第二フェーズを開始する。どうぞ》


 お、やっと来たか。でも、思ったより早いね。


《こちら副長。了解。うっかり殺さないよう注意して戦闘を行うように。どうぞ》


《こちら第一部隊。了解。それでは戦闘を開始する》


 勇者たちと第一、第二部隊の皆がいるのはここの砦からおよそ一キロ先。

 だから砦のてっぺんに行って、目を凝らせば様子が見れるんだけど……どうなってるのかな。


「おお、あいつら結構立ち回り上手くなってるなあ」


「ガレリーバ、勝手にこないでよ」


「なんでさ。俺は暇なんだよ」


「まあいっか。それよりも、どうなってるのかな」


 身体強化の魔術を目に集中して掛ける。すると、視力が格段に上がって、勇者達の様子も簡単に見れる。


 様子としては、第一部隊が3人構成、第二部隊が6人構成で、第一部隊は全員戦闘に参加している。これは作戦通りだね。

 でも第二部隊は2人だけ。当初だと4人くらいだったんだけど、まあ現場の判断に任せてるから、問題なし!


 そして戦闘が始まっておよそ5分が経った時についに勇者パーティにガタが来てしまったようだ。

 あれほどの疲労の蓄積量だと相当きついんじゃないの?

 よく動けてたね。まあ関係ないんだけど。


「それじゃあ、行くよ。団長」


「分かった。あと団長は辞めてくれ」


 それじゃあ、彼らにとどめを刺しにいこう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る