第13話 間話:アリシア

 ようやく我が愛しのシン様が帰ってきました。

 彼がいるだけで私は幸せなのだけれども、彼はそうでないみたいです。



 ***



 私の性格や感情、あらゆる私を構成していたもの全てはに全て壊れてしまいました。

 故に、シン様と一緒に旅をしていたあの頃の私は今は修復のために眠っています。

 要は私は二重人格になった、ということらしいです。

 それはシン様が今の私になった時に言ったこと。

 それと彼はこうも言いました。


「ごめんよ、アリシアがこうなってしまったのは全て僕の責任だ。僕があの時逃げなかったから。権力に怯えて従わなければ、アリシアがこうなることはなかった。だからこれからは僕が守るよ。なるべく君に負担にならないように」


 そのころの私は人格として生まれたばかりで、何もかもわからなかった時で、心苦しかった。

 そんな時にシン様は私に言ってくれた。それが何より嬉しかったのです。

 その頃からでした。彼に好意を抱くようになったのは。

 私の人生は彼のためにあると。彼とともに生きるためにあると、そう確信しました。


 しかし、その頃から彼はまさに地獄と言っていいほどに多忙さを増していきました。

 それでも彼は私に負担にならないように日々その仕事をこなしていきました。

 しかし、彼は人間ですからいつか限界はきます。

 私は辛かった。何より彼が苦しんでいるのを見るのが。

 私はどうにかして彼を苦しみから解放してあげたかった。

 でも私の力ではどうにもできない。

 私は悩み続けた。ずっと悩んでいました。

 そんなある日のことです。私は何か彼を助けられるヒントを探して、偶々自分のステータスを覗きました。その時です、私のアビリティの欄に奇妙なものがありました。


「『時使い』?」


 私は彼をどうにかしなければと焦っていて、今の私の現状など一度も調べなかったのです。そして、他にも奇妙なものをもう一つ見つけました。


「新しい欄がありますね。ええっと……これは一体何でしょう?」


 私のステータスにはスキルの下に新しく『その他』と書かれている欄がありました。私はこの二つを不思議に思ってシン様に聞いてみました。すると、


「『時使い』?なんでアビリティが変わってるんだ?それにその他の枠があるって……俄には信じ難いけど、アリシアが言うのなら本当だろう。その他の欄にはなんて書いてたんだい?」


「ええっと……魔眼という項目に、識別眼と鑑別眼の二つが書いてあります」


「……なるほど。時使いに関しては次の任務でおそらくわかることだからいいとして……魔眼か。ちょっと発動してみてくれない?僕に向けて」


「わ、分かりました。まずは鑑別眼からいきます」


 私は言われた通り、魔眼を起動させました。

 その頃の私は魔眼がなんなのか分かりませんでしたが、何故か使い方は知っていました。


 魔眼を起動させ、シン様をみてみると、彼のステータスが少し見えました。そのことを彼に伝えると、


「なるほど、全ては見えないのか。おそらくそれは使えば使うほど能力は上がってくると思うよ?そして識別眼も。これから訓練がてら魔眼を起動し続ける、なんてでもいいんじゃない?」


「分かりました。シン様のお役に立てられるよう、頑張ります!」


「う、うん程々にね……」



 ***



 あれから1000年。私の元の人格は少しずつ修復しているみたいですがそれでもまだ完全修復までは程遠いでしょう。もし元の人格が戻ってきたら私はどうなってしまうのでしょうか。恐ろしくてたまりません。

 もしかすると私が消えてしまう恐れがあるので、今のうちに私の思いをシン様にぶつけたいのですが、今は無理ですね。

 ある程度のことが終わってから彼とお話ししましょう。


 おっと、通信伝達専門の第八兵団の団長が来たようですね。


「アリシア様。対勇者パーティの第三兵団から定時連絡です」


「聞きましょう」


「はっ。現在、勇者パーティは我らの領地に向けて侵攻中。今日の夜辺りに第三兵団が待つ砦の手前辺りまで侵攻するだろうと予測しています。また、彼らの実力ですが、勇者、格闘家、剣聖の3人は第三兵団の末端レベル、聖女と賢者は不明です」


「ありがとうございます。それでは彼らにこう連絡して下さい。勇者パーティのうち仲間にできそうなら一人ぐらい仲間にして連れてこいと」


「っ!?それは本気ですか!?相手は勇者率いるパーティですよ!?そんなことできるわけ……」


「いいえ、彼らもまた人間なら、可能性はあります。それに彼らは確か……シ、シシ、シンが前に住んでいた街の出身が殆どだというではありませんか。もしかすれば、の話ですよ。無理なら無理で結構です。こちらは一応ということなので」


「わ、分かりました。一応伝えておきますが……おそらく無理ですよ?」


「まあ、それはやってみないと分からないですよ。駄目でも問題はありません。何せ、三次元世界の情報はある程度揃っています。分からないとすればそれは、貴族達の反応などですかね。結局は情報源としてです。もしかするとその情報の中に面白いものがあるかもしれませんし」


「了解です……それでは失礼します」


 そう言って彼は出て行った。

 まあ、勇者は今後何か使えそうですし、生かして置いて、問題は他の四人ですよねえ。

 彼らがどんな行動をするのか……それによっては今後の計画も多少修正する必要がありそうですね。


 まあ今は、シン様の帰りを待ちましょう。



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 アリシアはシンのことを呼び捨てするのに慣れていないのでちょっとつっかえながらよびます。でも多分それは今後も慣れることはないと思います。


 以上、作者の呟きでした。

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