第12話 決戦前夜

セシルも、この国では5指に入る武の練達者ではありましたが……そんなセシルをも呑み込んだ、リリアの闘気―――。


未だ止まらない……身震い―――


それに、リリアのげんに思う処があったセシルは。


「そなた―――先程、人を殺めあやめたことがないと?」

「ああ、そう言った。」


「嘘だろう……? そんなの、私には信じられない―――」

「どう言う事ですかな? セシル殿。」


「あの時……私が剣を構えられなかったのは、この者により総ての“死点”を衝かれていたからなのです。

あれはどうにもならない―――……私はあの時、死を覚悟したものです。

それでもそなたは、人を殺めあやめ経験コトがない……と?」


「『ない』―――これだけは確実に、はっきりと言える事だ。

それに、何かの間違いで私が人を殺めあやめてしまったら、私は立ち処に犯罪者だからな。」


「犯罪者?しかし―――相手も合意の上での果し合いなのだろう? ふぅーーーむ……なのだとしたら―――。

一つ聞くが、それがそなたの“現実”での『法』なのか?」


「ああ、そう言う事だ。 そこの処もあるんだけれど、常々私の武術の師匠からも言われて来たんだ。


『お前が修めたモノは、他の者より一線を画す―――ゆえに、他の者……殊の外“武道ためしあい”を口にする者と渡り合う事はゆるさん。

それが、我ら“武術ころしあい”に身を置く者の宿命さだめと知るがよい。』


…ってね。

だけどさ―――折角体得したのに、披露する場がないの……って、つまんないじゃない? だから―――」


「ふうむ……それがいつか言っていた、『現実ではない創造つくられた世界』だと言うのだな?」


「おお~~理解が早い♪ まあ~~~そこでも“PK”やりすぎちゃって、調子に乗ってたところもあったんだけどねw」



この者がまた、判らない事を述べているのはともかくとして……

強い―――純粋に……一人の武人として、ここまで実力の差と言うものを、まざまざと見せつけられるとは……



セシルは、この『リリア』を名乗る者からの、『リリア』自身の武を形成させた経緯を知り、さながらにして驚嘆するとともに、その凄まじい生き様に心惹かれたものでした。

そしてこの先、王の身辺を護るため、その者についてそのすべを学ぶことにしたのです。


        * * * * * * * * * *

そんな、ある日の一コマ―――


「うん? 何者だ、お前は―――」


「(……)判り切ったたことを言うもんじゃないよ。

なあお前達……私は“誰の差し金”―――って、聞く気はさらさらない。 肚括って来たんだろ、お前達の生命を賭けて……な。」


そう、言うが早いか―――“あの時”感じたモノより数倍も強いモノに襲われる感覚に陥るセシル……



私の時でさえ、手加減されたものだと言うのか―――?

この者は……どこまで底を見せないのだ―――



その時、セシルが感じたモノこそ正真正銘の“殺意”……確かなる“澱み”―――しかしながら、その者は更なる宣告をするのです。


「この私も次の段階へと進みたいからな―――丁度いい……“実験”―――いや“稽古台”になってくれ……。

もちろんお代は、お前達の生命―――だ。」


不敵な言葉を漏らす王に、一斉にとびかかる刺客達……しかしセシルは―――イセリアは……今まで自分達が目にしたことのない光景を、見せられたのです。


王の生命を……と、謀臣より依頼された刺客の数―――“10”

その悉くことごとくが……


「吹き……飛び―――倒された……? それに、起き上がってこられない……?」

「(信じられない……この私ですら、その総てを眼で追えたわけではないが―――)

あの者は一人……の、はず―――なのに、この私の眼にはあの者がもう2・3人いるかのように見えた……一体何をしたというのだ?」


「これが、今の私が会得しつつある技―――『虚実無影』。

それに、まだまだ……だ、一人しくじった―――」

「『しくじった』だと? 無事撃退出来たではないか―――」


「おい!立てるか!! こいつだけ、深く突きを入れ過ぎてしまった……イセリア、こいつの治療・回復を頼めるか。」

「そなた……最初ハナから殺す気など……」


「言っただろう? 私はこれまでにも一人だって殺めあやめた事はない―――って……。

一応、殺意・殺気を篭めこめられるまでは許可されているけれど、それ以上は師匠から禁じられているんだ。」


「そなた……言った処で優しいのだな。 それにしても、今の技―――」

「ああ、更なる上―――先程放った拳は、“虚”か“実”かを織り交ぜて繰り出したんだ。」

「“虚”か“実”―――つまり“当たる”ものと“当たらない”ものとを、それも同時に……?! 器用な事をするものだな。」


「けれど私の師匠は、まるで呼吸いきをするかのようにするけれどね。」

「(師匠……)そなたの師匠の名は―――?」


「そんなの、あんた達に言った処で判らないだろうしね。

ああ、けど師匠も例の「ゲーム」の「プレイヤー」でさ……確かその時の名が【レヴェッカ】だったかな。

それと、あと一つ別の“”を持っていてね、確かその“”が……」


この『リリア』なる者がプレイしているという「ゲーム」なるものを、「プレイ」しているという『リリア』なる者の師匠の名―――


この段階で、イセリア自身が聞き覚えのある、“ある者”に突き当たるのですが―――未だ更なる衝撃は、この『リリア』なる者の師匠の、もう一つの“”―――こそが……


               【拳帝神皇】


「なんっ……だ、と? それは本当なのか―――?」

「本当だけど……どうかしたの?」


「そなたは知らぬかもしれないが、こちらにもいるのだ……そう呼ばれる、史上最強の戦士が!

彼の者も、偶然か【レヴェッカ】を名乗っていた……しかも、そなた自身の師の通り名【拳帝神皇】を名乗っているのだ!」


イセリアは、セシルは……この『リリア』なる者の現実での事情を知らない―――

知らない―――までもが、この世界にれっきとして存在する者が、この『リリア』なる者の現実にもいようとは―――?


しかしそう―――これはある意味で、この世界が、この『リリア』なる者の世界と並行しており、尚且つ時間軸も“過去”に位置している事が知れてきたのです。


             ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


それはそれとして―――

やはり避けられない事態となってきてしまった―――あれだけ渋っていた王が、ある日の会議で、急遽『魔王討伐』の布令を発したのです。


「いよいよ機は熟した―――これより世の乱れを正す為に、魔王討伐の布令を発する!!」


あれだけ宰相からの発案に異を唱え、反発をしてきた王が、今にして何故―――急に……?


その会議での諸臣……特に宰相などは、自分達の不意を衝かれしばらくは動けないまま大きく目を見開き、王を見つめるしかなかったのです。

それに、こうした行き過ぎを止める為に、諌めるいさめる立場にあった宮廷魔術師も、制止させる動きもないまま……


この国は、いつから“独裁”の国へと変貌かわってしまったのか―――?

何の事情も知らない者達にしてみれば、そう思うしかありませんでした……が―――

そう……“事情”と言うのであれば、確かにそこに“事情”と言うモノはあったのです。


          * * * * * * * * * *

“これ”は、王が決議する『前日譚』にて―――

いつもは活動的で、疲れた様子など見せはしなかった“意識イデア”のリリアが……


「どうしたと言うのだ? いつになく眠そうだが……」


「ああ……眠いよ…………。 こちらへと来て、眠った事なんて……一時ひとときだってありはしない…………」


「(うん?)それは少しおかしくはないか? 現に王ご本人とも度々入れ替わっていたではないか。」


「ああ……あれね―――そりゃ、“慣れ”と言うもんだよ……。

コツさえ判れば、自由に入れ替わる事なんて……出来る…………けど……私は、そんな時にでも眠った事さえ……ない―――」


「(ふうむ……)もしかすると―――?」

「どうしたと言うのです? イセリア殿……何か心当たりでも―――」


「うむ、根本的に、この者と我々とでは“時間の流れ”と言うモノが違うのかもしれない……。」

「まさか―――そんな?」


「しかし、そうでもない限りは、説明の着きようがないのだ。」


「フフッ―――なるほどね……。

これはもしかすると、私がこちらへと居られる時間……タイム・リミットと言うのが近づいてきているのかも……知れない―――

まずい………なあ…………この私が、この人のなかに居られるあい――――だ……」


すると、途端に項垂れ―――た……かと思うと、疲れた様子さえ見せず王ご本人が……


「初めて読めた―――こやつの想い……こやつは、こやつ自身が魔王を討ち倒さんとしている。

その動機は、この私でも判らないが……故に私は、明日の会議で『魔王討伐』の議を発する。

だからお願いだ……どうか止めないでくれ。」


少し―――少しだけ微睡まどろんだ……それを機会に、“表”へと出てきた王本人の人格……

けれど、“意識イデア”のリリアの、そうした隙に、急に流れ込んできた意識―――

それこそが、“意識イデア”のリリア自身が、こちらの世界に居られる間に、魔王との決着を模索していた事に他ならなかったのです。


それは―――誰が為たがため……と、思いたかったけれど……。

その者の意識薄れゆく中―――ぼやけたイメージながらも、見せられた“ある者”の姿……



緋色の髪―――

焔と見紛わんばかりの緋の瞳―――



お前は……誰の為でもない―――

総てこの者の為に動こうとしているのだな―――

お前でさえ認めた者―――次代の魔王と成らんとしている者の為に……。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る