第11話 暴かれた陰謀

この、謎の人物―――名も王と同じ『リリア』を名乗る者が証言した事実。

しかし、未だにいまだに信じられる事ではない……イセリアも、どことなく理解している感じに見えるものの、やはり理解しきれない様にも見える……


けれど、時間と言うモノは無情―――午前中の会議のときとなり、あの謎の人物はそのまま出席したのです。


「では―――会議を始める、皆、忌憚ない意見を述べてくれ……」


このお定まりの、王による開会の宣言……

けれど今回は、“いつも”のでは、ない―――


「―――以上が、今回の議題となります。」


「そうか―――……」


宰相であるゼンウが、今回決めるべき議題を総て提出させ……滞りなく終わらせた―――後は、王がその承認を言い渡すだけ、本来ならば終了おわりでした。


だ・が―――


「宰相ゼンウ、それでは些かいささか足らぬのではないか?」

「―――は? 何を仰います……今回の議題は、これだけ……」


「いいや―――私は、聞いてもいないし、してや承認すらしていないぞ。」

「はあ?何を―――……」


「この国の軍備増強の件だ。 言わば、魔族との戦争の準備……だ―――」

「(……)これは妙な事を―――確かその議題は……」


「ああ、そうだ―――先週、先送りにした議題のハズだ。

だがな、おかしなことに、この私の知らぬ間に、そうした準備がなされているそうではないか。」

「それは困った事ですな~~~~一体何者が~~~~」


「本当になww お前に心当たりはないのか?」

「異な事を仰る……なぜ私が……そのような事を…………」


「では―――はなんだ……」

―――は……???」


「お前の字の様にも見えるが……私の見間違いか? ならば、お前を失脚させる為に謀略に陥れようとした不届き者を探さねばならんな……。

 探せ―――その不届き者を……そして、そやつの首を我が眼前に備えさせろ! で……あれば、今回の事は一応不問に処しておいてやる。

感謝するんだな―――」


まるで強引―――まるで、あたかも今回の首謀者を、誰であるかを決めつけたかのような、威圧的な発言。

珍しく心底しん、そこから怒っている様に見受けられる王の姿を諸臣は見、さながらにして震え上がったものでした。


それはもちろん、宰相自身も……まるで、龍の前に立たされ、その者の機嫌次第で奪われる、軽々しいまでの生命―――その雰囲気を、嫌と言うほど味わわされた……

未だ止まらぬ冷や汗や脂汗―――今、自分が奇蹟的に生き……いやのは、偶々たまたま王の機嫌が良くなったから……?



むむう……それにしてもいつ―――

そう……いつなのだ―――

あの小娘が気付かぬよう、策謀を巡らせてきたと言うのに……

いつ私の策謀に気付き、また急に威圧的になったというのだ……

いや―――今その事は考えまい……今はほとぼりが冷めるまで大人しくしているべき……

さても―――この私に降りかかった火の粉を、誰になすり付けたらどう振り払えばよいか……



最早生きた心地さえしなかった宰相ゼンウ―――でしたが……

処世術には心得があった為、すぐさま自分の身代わりを見つけ、その者の首を王の御前ごぜんに披露し、どうにか事なきを得ることが出来たのでしたが……


咽喉元過ぎればなんとやら―――時間が経つにつれ、今までいいように操って来た人形からの反抗に、次第に怨みを募らせつのらせ始めたのです。


        * * * * * * * * * *

その一方―――こちらでは……


「お前は大した奴だ―――」

「は? 何が??」


「いや、あの宰相をあそこまで追い詰めるとは……な。」

「だからあ~~w 私がプレイしてた「ゲーム」の“クエ”の“イベ”そのまんまなんだってww」


「今一つ判らないのですが―――その“げえむ”とやらの“くえ”とか“いべ”は、皆あんなのかな?」

「まあ―――あれ以外に、似た内容はあるんだけどね。

それより、あいつ……宰相ゼンウってヤツを知った時点で、気に食わない奴だと感じてたから、必要以上のプレッシャーを与えてやった事実はあるんだけどねw」


しきりに、『ゲームのクエのイベと同じ』事を声高に主張する、不思議な感じのする者ではありましたが、イセリアにセシルにしてみれば何の事やらさっぱり判らなかった……それもそのはず、この世界には『ネットゲーム』と言う概念はあるはずもなく、この不思議な感じのする者が言う様に、ゲーム内でのクエストの進行上で発生するイベントの数々は、説明しても理解できないことだらけだった……だから、必要最低限の説明だけで切り上げていたのです。


「それよりも―――先程のは確かに見ていて胸が透きました……。

けれど―――です……」

「ああ―――だろうな……私があいつでもするよ。」


「何を……言ってるのです? 二人とも……」

「セシル殿、この者が今回したこととは、結果としては正しくはある……のですが、その事により当然面白くないのはゼンウの方なのです。

今まで自分のいいなりにしかなってこなかった哀れで愚かな人形が、諸臣・諸侯の居並ぶ中でゼンウ自身に恥を掻かせた―――確かにその時には生きた心地さえしなかったのでしょう……が、時が経てばそうした恐怖心は和らぎ、却ってかえって湧き上がるのは……」


「怨み」……この場合では『虎の尾を踏んだ』と言っても差し支えないのか―――

いずれにしろ、宰相ゼンウはこの後良からぬ企みを考えているに違いない―――と、イセリアに説明をされ、さながらにして唸るうなるしかなかったセシル。



この方々は、私でさえ及びがつかなかったことを、こうまで達観していたものとは……いやはや、当初は不審な者でしかなかったが、なかなかどうして、こうまで王の事を慮っておもんばかってもらえるものとは……

敵わかんわないな―――この私の忠義など、この2人には……到底……



最初に出会った当時は、不審の何者でもなかったのに、折に触れてみるに従い次第に見えてき始めた……この、不思議な感じがする謎の人物―――『リリア』なる者の、その性根。

それに、この『謎のリリア』なる者の行動原理には、一本の筋が通っていた―――誰にも曲げられない、鋼の信念が……


しかし、それはそれで驚くべきところだったのですが―――


「それよりセシル―――少し付き合ってくれないか。」

「はあ? 付き合う……とは、何を―――」


「少しでも私が培ってつちかってきた武を伝授しておきたいと思ってね。」

「は……はあ―――? 武の伝授……?」


「この人も、その腕は確かだ……だけど、一人だけじゃどうにもならない事態に巻き込まれる可能性は十分にある。

その時、この人の身を護れるあんたに、そうした場合での対処法を覚えておいてもらいたいんだ。」


ふとしたことから、自分が招いてしまった“わざわい”―――

しかし、そのままにしておいたら、どうしたところで悪い方向性にしか行かない……そうした事から、リリアは今回の行動に至ったのです。


その結果として考えられる出来事に、必ずや謀臣ゼンウからの「刺客」が来る―――そうした時に、自分で対処しきれるところは対処しようとは思うのですが……今、自分がこの世界へと居られるのは、所詮が“仮初め”―――

いつ自分の現実に引き戻らされるか判らない……つまり、自分が王の身に宿れなくなった時、誰が王の身を護れるのか……その為の所作でもあったのです。


それに―――


「(……)なんだ?は―――また私と……今度は「素手」で―――?」

「ああ―――だからと言って、別にあんたをバカにしているわけじゃないよ。 それじゃ―――始めようか……」


その瞬間―――刹那……

言い知れない恐怖に襲われるセシル……



なんっ……なのだ??

この……っ、感―――覚……

私は今……?!!



の王と対峙した時と同様、一刀のもとに斬り捨てよう……とはしたものの、セシルは、剣を構える事すらままなりませんでした。

しかし相手は、徒手空拳での「ある構え」をしたまま―――

そう……、その体勢から“微”たりとも動かない―――ままだったのです。

しかし、そんな2人を見て、さすがに不審に思ったイセリアは―――


「どうされたと言うのだ?セシル殿……剣を構えもせず―――」

「いや……正常な判断だよ―――少しでも動けば、生命はない―――そうした動きを、私がしているからね……」


「リリア……? そなた―――もしや……!?」

「そう……私が体得したのは『殺人拳』―――そのなかなかでも、『戦場の拳』とも言われている流派さ。

だけど安心しな―――私はこの拳で、人を殺めた事など一度たりともない……大抵が、この段階で戦意を挫かれるからね……。」


リリアが修めた流派―――それこそ、殺人拳(剣)としても名高い「流派」……しかもこの流派は、同時に『戦場の拳』としても知られていたのでした。


『戦場の拳』―――それは、ただ単に相手を殺すすべ非ずあらず……

戦場に於いて、相手を制するすべ―――

武器を―――防具を破壊し、“戦う”すべを……

攻撃を―――防御を―――人を殺められる手段の悉くことごとくを封じ、無意味なものとするすべ


けれどそれは、最早「殺人拳」などではない―――リリアが武術の師から伝授されたものこそ、「活人拳」だったのです。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る