第2話 軽い笑顔が

 黄色く色付き始めた昼休み。生徒のガヤガヤという声が喧しく広がる教室の窓際の席の俺は窓の外を眺めていた。黒板を消した後の為少し粉っぽい空気を入れ替えるかのように窓を開けた。俺が思ってた高嶺の高校も案外普通の学校で面白くない。

 “首都高等防衛高質上昇高校”

 そんな名前に似つかない退屈ぶりだ。早く俺も戦場に立ちたい、銃を触りたい、この足で荒野を駆け回りたい。そして俺に勝てない奴らを笑ってやりたい。早く俺の理想を実現したい。

 そしたら今度こそ、この世界のトップに立つことができる!

「さっきから楽しそうね、貴方。」

 そう声がした。間違いなく女の声。少し高いがハスキーにも感じさせる愉快げに弾く声が俺の耳を貫いた。そっちを見ると女が俺の机に頬杖ついてこっちを見ていた。素直に驚いた。女はオレンジ色の髪を上の方で二つに結び、エメラルドグリーンの瞳が張り付くようにこちらを見ていた。少し焦げた美しい黒い肌は黄色く染まった真珠のようなハイライトを沢山浮かべていた。女は笑った。軽い笑顔が俺のラピスラズリの瞳に張り付いた。

「あたしはマリーナ・アンリ・ミテッドリーマンアンタは?」

 それは間違いなく俺に向けての言葉だった。マリーナから視線をずらすと俺は言った。

「俺は…ブラルド・エディーバウアー」

 思い出したように自分の名前を口に出した。名乗ったのはいつぶりか。

「そう、ブラルド。よろしく。」

 マリーナは俺に手を差し出した。小さくて、でも丈夫そうな黒い手。俺は溜息を吐きながらその手を乱暴にでも優しく握り返した。俺と関わって何を企んでるんだか。まだ素直にこの笑顔を信じれなかった。信じたいのは事実。でも裏切られるのは、嫌われるのはごめんだったから信じたくなかった。

 マリーナはそれをわかってるかのように微笑んで手を離した。そして俺に言った。

「アンタって足速いんでしょ?」

 俺は心臓がとまったかと思った。その通りだ。そう言いたかったが、経験上何か、からかわれる、宣戦布告された時などを思い出し、嫌気が差した。

 俺はマリーナを睨むように見た。

「それがどうしたんだよ。」

「なら、あたしとチーム組まない?」

 チーム、それはこの高校のシステム。チームを作り、年に一度の勝ち取り対戦に備え、訓練、作戦、生活をともにする。そのチームで高校最後の最終対戦に出席し、残った三組がレッドウィングと呼ばれる最高層の軍隊に入隊することができる。皆、それがお目当てだ。もちろん俺も。

 マリーナはその重要となるチームに俺を誘っているわけだ。

 なんかこいつ、面白いな。

 思わず笑ってしまった。

「俺とチームを組む?正気か?お前、俺についてこれるのかよ。」

 マリーナは笑って俺の手をぐっと握った。そして笑い返した。

「当たり前でしょ。」


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