第42話 愚昧なる信念

「砲手、撃て」


スペンサー卿が命じると。難民達の一団を取り囲むように陣を張っていたガルド騎士団の砲手達が、彼ら目掛けて一斉に大砲を放った。



ズドドドーーーーン !!


無数の砲弾の雨。



「何だ!新手か!?」


突如襲ってきて大砲弾の雨に、混乱する難民達。


ドドーーン!!


そして続け様に…

連続の砲弾が、難民達目掛けて放たれる。


「ぐわあああ!!!」


「くそっ…!4時方向からだ!

向こうから撃ってきている…反撃しろ!!」


屋根上にいた難民達は、ガルド騎士団による砲弾攻撃に、大打撃を受ける。

都市の構造をよく把握しているスペンサー卿は、騎士団の砲手達を、ちょうど建物の屋根上に陣取る難民達を、適切に攻撃出来る配置に砲手を配置したのだ。


大砲弾による制圧力ならば、魔法使い達にも肉薄できるだろう。

…しかし部隊を指揮するスペンサー卿は、″退避″の笛を吹き…


笛の音を聞いた砲手達は…大砲を放って、そのまま一目散に退避しだした。


「…砲塔を置いたまま、なぜ″砲手″を退かせるのです?スペンサー卿…

あのまま大砲攻撃を続けていれば…難民達を制圧出来るのでは…」


スペンサーに尋ねる、″アルテミス騎士団″の副団長、ホワイトリー。


「…″魔法使い″に対する戦いとは、慎重にやらねばならんのだよ、ホワイトリー。


剣士や騎兵、銃手を相手にするのとは、訳が違うのだ」


ホワイトリーは、その言葉の意味を即座に理解することになる。


「…大砲攻撃を止めろ!!」


魔法使い達は、砲手のおおよその位置を予測し…魔法を展開させる。

空中に、″紫″の巨大な″ホール″が出現したかと思うと…

そのホールの中から、無数の紫色の球弾が、雨のように降り注ぐ…


ズドドドドドーーン!!!


その無数に降り注いだ紫の球弾の雨は…

地面や建物を、広範囲に溶かしていた。

…騎士団の砲手達が放棄した″砲塔″も、容赦なく″溶けて″いる。


…圧倒的な魔法攻撃による破壊力。


とどのつまりスペンサー卿は、この魔法使いによる爆撃的な反撃を危惧していたからこそ、砲手達を退避させたのだ。


「…大砲弾を数発でも放てば、敵におおよその位置を把握されるだろう?

…奴らも馬鹿ではない。


そして反撃され、魔法による″飽和攻撃″を受けたら、砲手達はひとたまりもない…

魔法使いどもは、広範囲な遠距離攻撃を行えるからな…


そんな連中相手に、大砲を使用すれば…

″数発撃ったら、即その場を離れる″。

これが、高火力だが機動力のない大砲を用いる上で…魔法使いと戦う時の基本だ…


最も、人的損失は避けられる一方。

奴らの攻撃で、大砲そのものは何門か失ってしまうだろうがな」


スペンサー卿自身、無策で戦っているわけでもなく。

極力味方の人的損失を″最小限″にしようと、戦術を練っているようだった。


「大砲による攻撃が止んだぞ!」


こちらに攻撃を仕掛けてくる砲手達を、仕留めたと″勘違い″した魔法使い達。

…実際には、砲手達は即座に大砲から離れていたわけだが。


…その間、騎士団の砲手達は。

難民達が″大砲″に攻撃をしている間…

建物下の道を通って、密かに難民達への接近を図っていた。


「発煙弾、投げ込め!!」


スペンサー卿が、声をあげ命令すると…

ちょうど屋根上にいた難民達からは″死角″となる位置に移動していた″砲手″達が…

屋根上目掛けて、発煙弾を投げ込んだ。



「…うぅ…けほ、けほ…!

煙で何も見えない…!」


煙を吸い込んで、苦しむ難民達。

彼らは耐えかねて、建物から飛び降りる。


「撃て」


しかしガルド騎士の銃手たちが。難民達が屋根から飛び降りて来た瞬間。その隙を狙って、一斉に射撃した。



「あああ…!!」


待ち伏せに近い銃撃攻勢を前に、難民達は射殺される。



「くそ…!魔法で反撃を…!」


魔法使い達が、ガルド騎士達に反撃する。

しかしその間、銃手達は後方に控え…


代わりに、″盾兵″が前に立ち、その身の丈はありそうな大きさの盾で、前面、側面、上方、後方を盾で防ぐ″密集形態″を形成し…

魔法の火炎や雷撃による魔法攻撃を、見事に防いでいた。


「…なるほど、防御の密集形態によって、魔法攻撃を防ぐわけですな、スペンサー卿。

あの密集は、重装騎兵の突破力でもなければ崩せんでしょう…

魔法使いには、うってつけの戦法か。

ガルド騎士達は、随分と″魔法使い″との戦い慣れしていますね」


ホワイトリーが、感心するように言う。


「…ふん。所詮は膠着戦術だ。

魔法使いどもが、もっと″強力な″魔法を使ってきたら、さして意味を持たない戦法よ。

…最も、ここにいる難民どもに、″そこまで″高度な使い手はおらんようだがな…」


スペンサーは、あくまで油断はしていなかった。魔法を侮ってはいけないと、強く心に留めているのは、他でもないスペンサー自身だ。


「銃兵は、建物上から難民どもに威嚇射撃を。

連中を釘付けにし、その間″ヴィーコン騎士団″の騎兵が、奴らの後方を包囲する!」


スペンサー卿が、ガルド騎士達に命じて、指揮を執る。


「くそっ!横からも銃手たちが、ちょこまかと撃ってきやがる!」


難民達は、前方よりじわじわと距離を詰めてくる″盾兵″の集団。

そして″側面″から、間隙なく銃撃してくる銃兵達の対応に、苦戦していた。

難民達の利点は、所詮魔法を扱えることぐらいで。絶え間ない近距離〜中距離からの包囲戦法には、極めて脆弱だ。

最も、まだ完全に包囲はされていない。


…いざとなったら、″後方″から退避する。


しかし、そんな安易な″退避経路″を、当然ながらスペンサーが許すはずもなく。



「…さあ諸君。連中に我が″重装騎兵″団の恐ろしさを、味あわせてやれ…」



″ジェイデン・キャラウェイ″騎士団長の率いる、重装騎兵部隊が、既に難民達の後方…

彼らの″退路″となるべきであった道を、塞いでいた。



「…突撃!!」


キャラウェイ騎士団長が合図すると…

その鋼鉄の鎧に身を包んだ騎士達を乗せて、重量級の馬の軍団が、地響きを鳴らしながら、地を駆ける。


「な、何だ…!!?」


前方と側面からの攻撃に手一杯だった難民達は、その″後方″から鳴り響く轟音に、振り返る。


「あ、あれは…!!

まずい!騎兵による突撃だ!!」


突如として、こちらに突っ込んで来る重装騎兵達に…難民達は激しく狼狽える。


パァン! パァン!!


そして彼らが動揺している隙も、ガルド騎士達は容赦なく銃撃し、攻撃を加える。

…突撃してくる騎兵達から逃げようにも、″左右″にはガルド騎士団の銃手達がいる。

そして前方には、″密集形態″による鉄壁の盾兵達…


もはや彼らに、逃げ場はなかった。


「こうなったら、あの騎兵達を魔法でふっとばすぞ!!」


難民達が、馬を駆る″ヴィーコン騎士団″に魔法攻撃を加えようとした時…



バァーーン!! 



魔法使いの一人が、その身に銃弾を受ける。

ガルド騎士の攻撃ではない…


「くっ…!あの騎兵ども!!銃を撃ってきてるぞ!!」


騎兵達の″先頭隊″が、何と馬上から銃を放っていた。

″ヴィーコン騎士団″は、騎士団の中でも珍しい…騎馬戦闘に特化した騎士団だった。

ただでさえ、重装の鎧を身に纏って、同じく重力級の馬を操作するのは、容易ではない。


…にもかかわらず、ヴィーコン騎士達は、馬を激しく走破させながら。馬上から敵を正確に狙撃するという離れ業を、やってのけていた。

騎兵突撃における、遠距離攻撃に対して″無防備″という弱点を…

彼らは自らも″射撃″するという技術をもって、それを補っているのだ…



「まずい…!く、来るぞぉ!!!」


そして、騎兵達にろくに攻撃も加えられなかった難民達は……


そのまま、重装騎兵の″突進″の餌食となった。



「ぎゃあああ!!!」


重戦車のごとく…

そのヘビーな馬の足によって、踏みしだかれる難民達…

馬に体当たりされ、足で踏まれ、地面に転がり…

骨も、肉も、無惨に破壊される。


「が、はぁ…!!」


馬によって″ふっとばされ″。辛うじて一命を取り留めた者も、騎兵の剣によって首を刎ね飛ばされる。



「こ、これは……」


ホワイトリーは、馬にふきとばされ、踏み殺されていく難民達を見ながら、背筋に寒気が走った。

…まさに、地獄。


銃や砲弾が発達したこの時代。騎兵などというものは、時代遅れの兵種であると思っていたが…

条件を満たせば、″重装騎兵″の破壊力はとてつもなく恐ろしいと、ホワイトリーは実感した。




「全員、死んだか」


難民達に激しい攻撃を加えた後。スペンサー卿達は、生き残りがいないか確認していた。


(くそ…!何なんだあいつら!

全員やられた…!!)


…難民の生き残りの一人が、仲間の″死体″に隠れて、反撃のチャンスをうかがっている。


(…あの男が、騎士団のリーダーか…

…くそ…よくも俺の仲間たちを……


殺してやる…!!)


復讐に燃える難民の男。

彼は、直近までスペンサー卿がそばを通るタイミングを見計らう。

…幸い、敵はまだ自分の存在に気付いていない。


「…ふぅー……」


息を整え。絶好のタイミングを見計らう…


そして、スペンサーがついに自らの付近を歩いてきた時…



「死ねぇー!!!」


「!?」


難民の男は、奇襲しスペンサー卿目掛けて魔法を放った。

赤黒い″光弾″が、大砲のごとくスペンサーに向かう。


「…ガトランド!」


しかしスペンサーは、まるで焦ってはいなかった。


…そう。彼には″鉄壁″の護衛者がいる。

自らの腹心。

ガルド騎士団、副騎士団長のガトランドだ。


″鷹″の紋様が施された、その頑強な鋼鉄の盾が、魔法使いによる攻撃を防ぎ、スペンサーを守護した。


「なっ……!」


渾身の一撃をガトランドに防がれた難民の男は、逃げ出そうとしたが…

スペンサー卿の放った銃弾が、男の後頭部に命中。男は無念にも、スペンサーを始末することが出来ず、逆に自らが命を落とすことに…


「…ふん。仲間の死体に隠れていたのか。何と浅ましい…

愚かな男だ。大人しく死体に″同化″していれば、殺されずに生き延びれたかもしれんのにな…」


自らに攻撃を仕掛けた、難民の死体を見、嘲るように言うスペンサー。


「我が国の憂いたる″難民″…


その存在そのものが、忌むべき対象です。スペンサー卿…」


重装騎兵を率いた、″ヴィーコン騎士団″団長のジェイデン・キャラウェイが、馬上からスペンサーに告げる。その鋼鉄の″兜″の隙間から…キャラウェイは、氷のように冷酷な瞳をのぞかせる…


「…ふっ…全くもってそのとおりだ、キャラウェイ。難民達は、我らの敵…

″地震″被害による街の混乱に乗じて。

″難民街″にいる難民達を始末しようとしたが…


まさか、連中のほうから″騒ぎ″を起こしてくれるとはな。おかげで、我らの″難民抹殺″は、正当性を得たというものだ。


実に好都合…」


「…ふふ。スペンサー卿。

事の発端は、アルベール北区——

その地区で、あなたの配下たる″カニンガム″が、難民達を無差別に殺害したこと…」


「そうだ。カニンガムには、私が指示したんだ。

…おかげで難民達は怒り狂って、まんまとこちらの″罠″に嵌ってくれたわけだ…


我々の想像以上に。難民どもは制御出来ないほどの″怒り″を燃やし…

多数の市民を殺害した。


これで、アルベール市民は理解することだろう。″魔法″という存在が、いかに恐ろしいか…」


スペンサー達″強硬派″が、難民達を始末する″機会″。

それは図らずとも、″魔法″の脅威を市民達に知らしめる機会にもなったのだ…


無論、魔法を使うからといって、その時点で難民が″悪人″になるわけでははい。


…しかしそんな理屈は…


目の前で″魔法″によって家族を殺された者にとっては…どうでもいいことだ。


いずれにせよ、この″難民動乱″が、ここアルベールにおける難民世論の契機となったことだけは、間違いがない…



「この国に大量の難民を呼び寄せたのは、大神院の連中だ…

難民達を訓練し、魔法使いによる軍隊を作るという奴らの計画を、挫かねばならん。


…奴らのお膝元、″アルファモリス″にいる難民魔法使い達を、いずれ″潰さねば″ならんからな…」


スペンサーは、この国における「法」の番人

″大神院″への敵意を激らせるのだった…








「ホワイトリー、無事だったか!」


難民との死闘を繰り広げた後、″アルテミス騎士団″団長のマクスウェルは、腹心ホワイトリーと再会する。


「…ええ、なんとか…

私は無事でしたが、アルテミス騎士達が大勢命を落としました…」  


「そうか…」


マクスウェル騎士団長は、仲間の死を悼むように、胸に手を当てる。


「…私も危なかったですが、間一髪ことなきを得ました。

″ガルド騎士団″が助けてくれましたので…」


「ガルド騎士団?」


マクスウェルは、ホワイトリーの口から出てきたその騎士団の名を耳にし。あからさまに険しい表情を見せた。


「ガルド騎士団ということは…

スペンサー卿が来たのだな?ホワイトリー。


…″難民嫌い″なスペンサー卿のこと、さぞ難民達を激しく″殺戮″したのだろう…」


マクスウェル騎士団長は、難民を始めとした魔法使いや大神院に敵意を見せる、ガルド騎士団のような″強硬派″や、大神院に融和的な″穏健派″とも異なる、いわばその間に位置する″中立派″である。


スペンサー卿とは明確な敵対関係にはないものの、やはり″公正平等″を掲げるその信念から、マクスウェルはスペンサーとは折りが合わない。

…思想的には、むしろ正反対といっても良いだろう。


そのため、マクスウェル騎士団長はスペンサー卿に対して。敵意とまでは言わずとも、隠しきれない苦手意識を抱いていた。


…しかし、配下のアルテミス騎士達を大勢殺されてもなお。″難民″のことを気遣うような素振りを見せたマクスウェルに…

ホワイトリーは呆れ調子で、言葉をかける。


「…マクスウェル様。難民達は″敵″ですよ?


…少なくとも、民衆を見境なく殺す難民魔法使い達は。

…この後に及んで。なぜ″連中″に配慮する必要がありましょう?」


同じく危機的状況の中、一命を取り留めた騎士団長を、激しく責めるつもりはなかったが…

マクスウェルの指示で武装解除して、そこを難民達に突かれ…騎士団員達は命を落としたのだ。


「…ホワイトリー。何度も言うが、″彼ら″にだって、攻撃する理由がある筈なんだ。

…今回、″一部″の邪魔者によって、彼らとの交渉は失敗してしまったが…

邪魔が入らなければ、上手くいっていた筈なんだ…」


…だのに、まるでそれを″忘却″したかのごとく、またいつも通りの″綺麗事″にまみれた彼に戻りつつある。

それがホワイトリーには、受け入れられなかった。

何よりマクスウェル騎士団長は、″敗軍の将″である。


少なくとも。スペンサー達ガルド騎士団が助けに来てくれなければ、アルテミス騎士団は全滅していたのだ。


「…スペンサー卿が来てくれて助かったのかもしれない。でも、敵を″皆殺し″にするというのは、野蛮極まりない…

誰もスペンサー卿を止める者はいなかったのだろうか…」


まがりなりにも、隊を救ってくれたスペンサーへの感謝を示すことなく。忌避的感情を隠さず露呈するこのマクスウェル騎士団長に… ホワイトリーは、徐々に″嫌悪″感情が芽生えていた。

平時ならば、このマクスウェルの理想主義者な考えに共鳴出来ることもあったが…


今は、そうではない。


難民暴動という″有事″に、自らの策の稚拙さを露呈させたばかりか、その″反省″もない。

″純粋″な性格であるが故に。自分を信じて疑わない。


…だが…


その″尻拭い″は、誰がすることになるのか?


部下の命か?


あるいは自分なのか?


…ホワイトリーは、悶々とした鬱屈な感情を滲ませつつも。まだ、マクスウェルに対して怒りを露わにすることはなかった。


…しかし、失いかけていた信用は、地に落ちたも同然であろう…








「負傷者の手当てを!!」


スペンサー卿が、配下の騎士達に。難民達の魔法攻撃によって負傷した市民の救出を命じる。



「スペンサー卿。全騎士団達が、都市部各地で、″難民暴動″の鎮圧にあたっております。

アルベール″北区″は既に、シャーロット王女が単独で暴徒達を壊滅させたようで…」


副騎士団長のガトランドが、スペンサーに伝える。


「…さすがは、エストリア騎士団団長、といったところか…

シャーロット王女の強さは桁違いだからな…

魔法使いどもを全く寄せつけず。一人で全滅させるとは、恐ろしい話だ……」


スペンサーは、崇敬とも畏敬ともつかない声を、僅かに震わせる。


「…ともあれ。北区が既におさまっているなら。他の地区も心配はあるまい。キーラやウッズ達も動いている。

″西区″にはレストフィールド騎士団長が、いたはずだ。


あの女が率いる″フィオリナ騎士団″は、大神院と距離が近い″穏健派″だ。

…願わくば、難民どもに″殺られて″欲しいという思惑がないわけではないが…


レストフィールドは、いずれ邪魔になる。


来る我らの″計画″の時のためにも。

大神院の″手足″となる連中は、いずれ排除せねばならんだろう。」


「ルーク・パーシヴァル……」


キャラウェイ騎士団長が、意味深に。

その名を呟く…


「…やはり、我らの計画にとって…あの魔法使いの少年が必要となりますか…


スペンサー卿?」



「…黒き魔法、か……」


スペンサーは、思慮するように声を曇らせる。



「…大神院も、その″正体″について、何か知っているのやもしれんな。


あるいは″ゲーデリッツ″も…」


不意に。スペンサーの口から出てきた″魔法院″長官の名…


「…大神院だけではない。ゲーデリッツ長官とて、そうだ。

あの男は、その″面″の皮の奥に、真っ暗な秘密を抱えているぞ。


…奴の目を見れば、わかる。

あの男の目は、″死人″そのものだ…」


「…ゲーデリッツが?」


ひどく直接的なスペンサーの″比喩″に、キャラウェイは怪訝な顔をした。


「……うむ。

強い″意志″を激らせた、死人なのだ。


…いや、″亡霊″というべきか?


人は老いる。さすれば待っているのは″死″のみ。

老人とは、死を受け入れる為の準備期間のようなものだ。


…だが…意志の力とは凄まじい。

″老い″など、平気で超越してしまう。


奴を突き動かしているもの…


ただそれだけが、あの男の生きる″理由″なのだ…」



そう言うスペンサーの顔貌は、酷く硬直していた。


…まるで、″畏れ″を抱くかのように…





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