フェニックス・ライズ

榊 せいろ

第1話ー① フシ村の終焉


これはきっと悪い夢だ。そうに違いない。


そう思えば思うほどそこにある現実が明確になっていく。大地は血で濡れ、家屋は形を無くし、人々は肉塊と化した。

僕の手に残るのは『不死鳥の剣』のみ。この剣の力で生き残ることはできたが、僕は一つも守ることが出来なかった。

強大な力を手にしても全てを守れるとは限らないのだ。

絶望や後悔が僕の空白を埋めていく。それらを洗い流すように流星が降ったが、僕の心には何も響かなかった。



数時間前まで、村は平和そのものだった。

その日は村の広場で儀式が行われていて、

自警団に所属してしていた僕は代表に選ばれ、祭壇の横で出番を待っていた。

鼓動が徐々に早くなる。

祭壇の上に出るのは村の代表として精霊と謁見するのと同じこと。

緊張で祝詞を間違えたり噛んだりしないかすごく心配になってきた。


ガサガサ


そんな時に長い栗色の髪の少女が茂みから現れた。


「フェリア。どうしたんだ?」


「ネクス兄さん。これあげるよ」


フェリアはバックから取り出した物を僕の手に乗せた。

それは温かな焚き火のような色をした輝く石のペンダントだった。

不思議なことに見るだけで心が温まる気がした。


「綺麗だ。僕のために作ってくれたのか?」


「うん!この日のために用意したんだよ。兄さんの赤い髪に合わせたの」

「初めての大仕事頑張ってね!」

青い目を輝かせながら彼女は答える。


「ありがとう。フェリアのお陰で勇気が出た。」


「頑張ってね兄さん!」


「頑張るよ。」

僕はフェリアの手を握りしめ、微笑む。

彼女からも笑みがこぼれた。



カーン…カーン…カーン

式典の始まりを告げる鐘が響き渡った。

「もう時間だ。行ってくるね。」


「いってらっしゃい!」

彼女はこちらに手を振って広場の方に戻った。


僕は階段を登り祭壇の上に立った。


「見ろ今年の代表のお出ましだ!」


「ネクス!、ネクス!、ネクス!」


ワアアアア…!


周りから歓声が上がる。

背中を押されるように精霊像の前に立つ。

翼を広げた大きな鳥を模ったそれに向け一礼する。


「命の精霊、不死鳥(フェニックス)様今年もあなた様のおかげで豊作になりました。

ここに貢物を送ります。

来年もフシの地に加護をいただけるようお願いいたします。」

祝詞を述べると像の一番上に炎が灯る。

全員で頭を垂れる。これは精霊に敬意を示す行為だ。


「みなさん。顔を上げてください。

精霊に願いを届けることができました。

来年も豊作になることでしょう。」

僕は儀式の終わりを告げ、村人たちに向け一礼した。

無事に儀式を終えられたので清々しい気分だった。


(よし。みんなと合流しよう)

そう思った矢先、精霊像の上から悲鳴が聞こえた。


「大変だ!悪魔の大群が攻めてきた。」

像の点火係の男が叫んだ。


「嘘だろ…なんでこんな辺鄙なところに」


「捕まったら殺されるわ!」


どよめく村人の声が辺りに響き渡る。

各々が慌てふためき、避難どころではなくなっていた。


「皆さん落ち着いて、安全なところへ避難してきださい!」

混乱を抑えるため、必死に人々に呼びかけた。


「いや、逃げるな!もう敵に囲まれている」

見張り塔の兵士が叫んだ。


「敵の数は?」


「500体以上いる。西と東の二箇所から挟み撃ちにされてるな。」


「そんな…」

余りにも多すぎる。

村の人口は100人にも満たないのだ。

それに、1体の悪魔を倒すには熟練の兵士が3人がかりでやっと。

戦力に差がありすぎる。


「みなさん、この村は悪魔の軍勢に包囲されています。

戦える者は武器を取り、女性や子供は頑丈な祭壇の中に避難をお願いします。」

村人たちに向け、最大限の注意を促す。

村で戦える人間は僕も含めて20人程度。

勝ち目は薄い。


村民達を神殿の中に匿い、僕ら自警団は広場の中心で構えた。

悪魔の軍勢は肉眼で見れる位置まで来ている。

金属のような鱗を持つ者、液状の塊のような者、轟音を立てながら進んでくる棺桶のような風貌の戦車。

この世のものでは無いような恐ろしい怪物揃いだ。

恐怖を前にして足がガタガタ震えた。


(こんなの相手に出来るわけない…それでも、僕はこの場所を守りたいんだ。)


いよいよ敵の第一陣が広場まで来る。


その時だった。


ボウンッ!


轟音と共に炎の波が敵の軍勢をなぎ払った。


「な、何だ!」

僕たちは驚いて空を見上げる。

そこにいたのは鳥のような形の炎…伝承で伝えられた不死鳥そのものであった。

不死鳥が僕の前に降り立つ。


「ふ、不死鳥様が助けに来てくれたぞ」


「奇跡だ。奇跡が起きたんだ」

周りから歓声の声が上がる。


不死鳥は歓声に目もくれず僕の方を見つめている。


(僕を呼んでいるのか?)

僕は不死鳥に近づく。

すると、僕の体は真っ赤な炎に包まれた。

不思議と熱くない。

頭の中に声が響いてくる。


『その意思、受け取った。汝に全てを救う力を授けよう。』

そう言い捨てると、炎は消え去った。


「ネクス。怪我は無いか?」

自警団長が不安げに声をかける。


「はい。大丈夫です。」


「無事で何よりだ。ところでその剣は?」

ふと右手が熱いことに気づく。

その手には剣が握られていた。

赤い刀身はまるで不死鳥の羽のような美しさを放っている。

剣を軽くふるうと剣の軌跡に合わせ炎が吹き出た。


「これは…全てを救う力です。」

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