惨禍の代償

(許して何も聞かないで)

焼菓子を割れど出せぬ話がある。魂は転生を経て、それまで前世の思い出これから今生の記憶で塗り直す。変化を重ね、流れる時代に聖女は馴染んだ。それが摂理で恩恵だ。

ワイスは明かさない。忘れた全て。五つの頃には既に、絶えず尋ねねば姿も曖昧だったこと。記憶の鮮明は季節毎に損なわれ、祖父は不憫を哀れんだ。

愛しさとは裏腹に忘却が迫る。それは酷い裏切りだ。打つ手がなかった。ワイスは行き違いに怯え、想うたび恐怖は増した。その中で運命の日は来た。

破滅は遠退き、安堵を覚えた。輿入れは喪失に先行し、ワイスは報いを免れた。再会、今日まで二人生きたこと。今も残る愛。夢想じみた全てが僥倖。

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