開花の到来

(おいしいって言ってね)

彼の皿へは多めに注ぐ。ワイスは台に立ち、食事の用意をした。お台所は暖かく、夕食前の焼菓子も良い味だ。ワイスは食卓の向かいから彼を眺める。

顔が上がり、どうかしたのと彼は問う。なんでもないわ。椅子に座ったワイスは微笑む。揃う目線が嬉しかった。空いた彼の皿にはパンを切って足す。

甘い味と良い匂い。彼はよく食べた。バターをすくって塗りつける。淑女らしく控えめに咀嚼した。言葉のない食事風景をワイスはじっと眺めている。

流しの前に一人立つ。同じ生菓子を皿へ乗せ、彼の分は数えて飾る。沢山盛った飾りは崩れた。溢れて余った果物を、ワイスはこっそり口へと隠した。


繰り返しの日々は続く。声もなく寄り添う彼のまなざしを追う。絨毯も脇棚も壁掛けをも越した先。遠くを眺め見るような目は凜々しく甘い色だった。

暖炉の前には幸福がある。もういいかしら、まだかしら。愛しい彼はここにいた。台の上にしゃんと立つ。心は決まって、ワイスは彼を部屋へと誘う。


手を繋いで隣に座る。絞った明かりが頼りなく揺れる。二人きりでお話しするの。頭を寄せて求めれば、ゆったりと肯定が返る。横顔に鼓動が跳ねた。

鍵は外して扉を開いた。天幕へと招き入れた。次は、次はと心が逸る。ワイスは熱い息を吐く。夜半。寝巻は床へ落とされて、細い素足は踊りへ誘う。

硬い手を引いて壁を回る。踊るワイスは厚い胸を見上げた。あの胸に耳を付けて心音を聞きたい。想像は膨らみ、熱は上がった。お開きはやってくる。

明日はもっとすごいことをするの、きっと楽しみにしていて。ワイスは息巻く。おやすみなさいの挨拶が済むと、幼い口づけが暗い廊下に投げられた。

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