(やさしくぎゅっとして)

眠りたいと言う彼を、ワイスは寝台へ押し込んだ。焼菓子は割られない。冷えた手を握り、眠る横顔を眺めていた。夜半、魘される声に揺すり起こす。

苦しげな息に、熱があるの、とワイスは訊ねた。違うよ、と声は落ちる。背に沿って被さった身体が熱い。震える声が呼んだのは『もう一つの』名前。

古い名前にワイスは応じる。エーデルワイスは聖女であるから。すると体は抱き上げられた。目線が高い。胸の高鳴る初めての抱擁は強く甘く鮮烈だ。

金具かなにかが足へ当たる。身じろぎに安定が崩れたか、抱え直すように身体が揺れた。続けて何度も。ワイスは腕にしがみつき、降ろしてと騒いだ。


膨れたワイスは床に立ち、掴まれた脇腹を手でさする。よれたスカートを直せば、後ろは汚れ、濡れている。指で触ると見知らぬ粘着液は鼻をついた。

もう、お外で変なもの付けてきて。熱がないんだったらお風呂に行って。ちゃんと洗い落とすのよ。台も使わず憤慨するワイスへ、彼は素直に従った。

明日が来たら。閉まった扉を眺める。無作法を知らせなくちゃ。ワイスは憤る。残った焼菓子の数を頭の中で数え、礼節の周知には何枚必要か考えた。

急に言ったら彼が傷ついてしまうかも。ワイスは指折り算段し、頭を悩ませた。夜は更ける。就寝時間の鐘が響いたので、その日はそれまでになった。

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