いちぞく、いとしのいもうとよ

佳原雪

いちぞく、いとしのいもうとよ

聖女の婚姻

(生前からのきまりごと)

二桁に届く年の頃。少女は名をエーデルワイスと言った。祖父と暮らす穏やかな日々は、ある日を境に一変する。

からっかぜに雪の舞う、明るく晴れた昼だった。その日、扉は開かれた。ここへ男がやってきた。連れてきたのは祖父だった。

光を背負って立つ彼の美貌は、見るものの目を開き、口を閉ざさせる。ぎらぎらと滲む逆光の中、祖父は『彼がお前の結婚相手だ』と言った。

ワイスはこの日を待っていた。この日が来るのはわかっていた。



一族に受け継がれる血は尊い。伝説の中、血縁の輪で繋がれた女たちは、流れる血によって星を滅びから救った。

長く生きること叶わぬ歴代の女達へ、宇宙を統べる運命は一体なにを思ったのか。過酷な生と引き換えに、彼女らは転生の特権を得た。

失われる未来への補填とばかり、魂ごと、記憶は引き継がれる。そんな中、『彼女』は先の戦争の功績者である軍王と娶せられた。

尊い血の女と軍王。政略結婚だ、仮面夫婦であるのだ、と噂こそされたが、鬼籍に入るまでの僅かな間、二人は仲睦まじくあった。



聖女エーデルワイスの婚姻。引き裂かれた夫婦の再度の結びつき。それは生まれる前に定まったこと。死した乙女の悲願であった。

見上げれば目に入るのは、恒星めいて瞬く長髪と、幻想の色持つ瞳。つんと澄んだ顔には他者を拒絶する冷たさと離別の悲しみが同居する。

この姿では初めまして、と膝が折られる。あなたのことを待っていた、と返答。瞳をまっすぐ見つめたまま。ずっと待っていた、と重ねる。

口は問う。目は頷く。花束から抜かれた茎が髪を飾る。そうして二人は正しく結ばれた。定めの通りに。こうして乙女の悲願は果たされた。

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