幸せの条件

ジュン

第1話

「幸せの条件てなにかしら?」

彼女は聞いた。

「君はなんだと思う?」

僕は、逆に聞き返した。

「お金があること、容姿がいいこと、とかかな」

「それもあるだろう。他には、なにが思いつく?」

「うーん。頭がいい、センスがいい、それでいて個性的とか」

「なるほど。僕は、もっと大事なことがあると思う」

「なに?」

「それは、自分の『感情』を欺くことなく表現できる能力だ」

「『感情』……」

「そう。感情というものは抑圧されると、うつ状態になったり、内的空虚に苦しむことになる。それだけじゃない」

僕は続けて言った。

「生きることの喜び自体がボンヤリしてきてしまう。いつも緊張して疲れるし、生きる意味が失われてしまう」

彼女は聞いた。

「感情と真摯に向き合える人はどんな果実を得られるのかしら?」

「感情表現は、その人の『欲求』なり『願望』を産み出すための駆動力、積極性の源泉だから、感情が解離してしまうと、欲求が失われて、平板な人生になってしまう。人と会うのが怖いし面倒で、回避してしまう」

「そうなのね。ところで、人が感情表現ができなくなるのは、どんなことが原因になるの?」

「それに答えるのは、すごく難しい長い話になってしまう。ただ、一番多い原因は、当人の子ども時代の、親との関係が機能してないことによる。家族全体として見た場合、そういう家族は『機能不全家族』と呼ばれる」

「いわば、感情が凍てついてしまう」

「そう」

「回復なり癒しの方法はあるの?」

「心理カウンセリングが有効だ。時間がかかるけどね」

「なるほど。精神科医療はどうなの?」

「薬が出せるのが強みだな。心理カウンセリングと並行して利用すると有益だろうね」

僕は続けて言った。

「精神疾患の大半は、感情が感じられない、ないし感情を抑圧することで、症状となって表れるから、抑圧の解消がとりわけ大事なのさ。感情を取り戻せば、欲求も生まれるから、欲求を満たすことで生きる喜びも手に入る」

「そうか。冒頭の『幸せの条件』だけど、『感情』と『欲求』の表現が最重要なのね」

彼女は納得した様子だ。

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幸せの条件 ジュン @mizukubo

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