第5話 仲良しな二人を見たい方は1話からここへ!

あらすじ

30を目の前にして、利害が一致しているからと結婚した菜音なおと蒼。せっかくだから、結婚指輪を買おうという申し出に、口車に乗せられるように賛成し、買いにいった二人。その帰り道、見知らぬ女に蒼は声をかけられる。菜音はその女に嫌悪感を抱きながらも、その日の夕食で「感情の伴わない結婚なら、お互い自由恋愛をしてもいいのではないか」という結論にたどり着き、蒼に告げると……。


          *


「俺も…いや、俺は好きな人と感情の伴った結婚がしたかった」


 は…?

 蒼の言葉が鈍く、重たく、私の頭の中を支配する。何も考えられない。何を言っているの?

 いてもたってもいられなくなった私は、ふらふらとテーブルから立ち上がり、キッチンを通って冷蔵庫を開いた。

 強いアルコールが欲しかった。アルコールで、ぐちゃぐちゃなこの感情をすべて流してしまいたかった。缶に手をかけたところで


「菜音!やめとけ」


 と後ろから腕を捕まれ、私は動きを止めた。


「なん…なのよ…もう。もう、なんなの…」


 流してしまおうと思っていた感情が、どんどん口からこぼれ落ちる。

 

「蒼…好きな人がいるなら、その人と結婚すればよかったじゃない!好きな人がいるなら、こんな結婚私に持ち込まなくてもよかったでしょ!なんで、なんで…」

 ああ、私は、私はなんであっさりと、離婚しようと言えないんだろう。蒼の隣に私じゃない人が立つのを全身で私は拒んでいる。

 

 蒼の隣は私がいい。

 

 私の隣も蒼がいい。


 ポン、パチン!


 そうか、私は蒼のことが好きなのか。


 体の奥でずっとくすぶっていたものが、風船が弾けるかのようにパチンと消え、すっきりと、はっきりと私が感じていたことが今になって現れた。そうだったんだ。

 私はぐったりと脱力した。今になって気がついても仕方がないことだった。全身から力が抜け落ちた。その様子に気がついたのか、蒼は私の腕を解放してくれた。

 蒼は重々しく口を開いた。

「菜音、俺は小さい頃から言葉が足りないって言われてたんだ。大切な主語を抜いてしまうくせがあるって」

「うん」

 目をみた今、気がついた。蒼の瞳は驚くほど澄みきっている。 

「これ以上の誤解は良くない。この際だから別れること覚悟で言っておく。ごめん、俺は菜音に下心があって結婚を申し込んだ。すまない」

「へっ…」

 私の目の前で、蒼は深々と頭を下げた。

「菜音は、利害一致婚だから、俺の無茶苦茶に応えてくれたんだよな。本当にごめん。約束破ったみたいな、こんなんじゃないって、菜音は思っていただろ?」

 蒼は延々話し続ける。

「子供が嫌いなんていうのも嘘だし、できたら菜音と…なんて、ごめん。ほんとうにごめん。結婚できたとき、嬉しかった。菜音を俺のにできたと思ったけど、そんなのはない。だって感情も体も伴わない結婚で、ただの幼なじみが続いていたから。やっと気がついたよ。昨日の菜音の一言で。感情の伴わない結婚なら…」

「もういいよ、蒼は謝らないで」

 私は顔を上げた。蒼が掴んでいた腕を上げて、反対に私は蒼の腕を掴む。覚悟だ。私は燃える目をした。体の炎を私はこの人に向けるんだ。

「私は、というより、私も約束破ったみたいな、こんなんじゃないってなったよ。私も!蒼のこと友達とかじゃなくて!本当に好きになっちゃっ――」

 最後、言い終わる前に蒼が私の口を唇でふさいだ。シャンプーの甘い香りと共に優しさが舞い込んでくる、初めてのキスだった。蒼の目に涙がうっすら見える。カクテルなんかよりもずっと深く私を酔わせた。

 こんな少女漫画みたいなこと、子供じみてて嫌だと思っていたけど、蒼だから不快じゃないよ。

 


 次の週末、私たちは両方の親に挨拶にいった。結婚したと伝えたときから挨拶に来なさいといわれていたのを今の今まで無視していたのだ。親には結婚相手についてとくになにもいってなかったので、相当、いや、結構ビックリしていた。父なんて腰を抜かしてしまい、3時間動けなくなってしまっていた。(これには家族全員大笑いだった)


 家に帰ると蒼は真っ先に私にキスをした。いつも唇をあわせるだけだけど、蒼のキスは甘い香りがする。でも…今日は一段と甘い……?


 蒼は唇から離れると、次は耳にキスを落とし、優しくなめはじめた。耳の波の間を舌が通り抜け、ぞくぞくする。時折聞こえる、ペチャッという音に思わず肩をすくめると、蒼は次に首筋にキスをして、触るか触らないかの境界線で私の首から鎖骨、胸の近くを指でなぞった。


「菜音との初夜、楽しみしてるね」



 私、まだ、したことないんですけど!?!(一丁前に嫌いとかいっておきながらね!!)

 このままで大丈夫かなああああ?!


 


 


 





 

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