最終話 祭りのあと

 魔王の身体を使ったバーベキューで、召喚獣たちは盛り上がっていた。

 

 テルルと同じように、魔王も強力なマナの塊だ。負の要素が強いが、乗っ取られるほどではない。むしろ、弱いうちに食って、体内に取り込んでしまったほうがいい。


 テルルは、元の姿に戻っていた。まっさきに、焼き上がった頭をパクリと食らう。さすが、一番うまい部位を知っている。


「パパさんママさん、どうぞ」


 探偵の少年フリオが、二匹の仙狸に魔王の丸焼きを分けた。ドラゴン肉も一緒に皿へ乗せて。


「この子、がんばったんですよ。必死でした」


 フリオが、ケットシーの奮闘ぶりを仙狸に語る。


「いい話」

「まったくだ。それにひきかえ、アレはなんだ?」


 シチサブローとテルルが、隣の光景に辟易した。


「よいか貴様ら、わかっておろうな? 魔王まで復活させた以上、どのような処遇を受けるか」


 協会長が、先代派の貴族たちを脅している。 


「資格剥奪だけでは済まさぬ。貴様らのせいで、多くの召喚獣に犠牲が……」


 手のひらに紅蓮の魔力弾を形成し、協会長は貴族共に食らわせようとした。


「もうよせ! もういいだろうが、協会長! こいつらはもう、十分に償いを受けた!」

 

 シチサブローが、協会長を羽交い締めにする。


「しかし、こやつらのせいでどれだけの命が奪われたか!」

「だから、オレに任せとけって!」


 シチサブローの説得により、ようやく協会長も折れた。


「よしてくれ! 殺さないでくれ!」

「あなたのいうことなら、なんでも従います!」


 偵察用のガーゴイルが飛んでいるのを確認して、シチサブローは協会長から手を離す。


「そうそう。言い忘れておった。会計表を」


 人が変わったかのように、協会長が話を進行した。


「いよっ待ってました」


 シチサブローが、貴族共にレシートを渡す。


「しめて、あなた方の権利全てをいただきます」


 ここで、ようやく貴族の連中も気づいたようだ。今までの行動がすべて茶番だったと。


「はあ!? 冗談でしょ!?」

「バカやろう。ドラゴン肉がどれだけ金が掛かると思ってるんだよ? たった一グラムで国が買えるんだぞ? それを大盤振る舞いしてやったんだ! それだけの金が掛かるよな!」


 しかも、今回は味付けに神の酒であるミードまで使っている。その材料費は天井知らずだ。


 貴族たちは、自分たちがどのような価値観の人物を相手にしていたのか、ようやく理解したようだ。


「心配するな。この金はすべて、召喚士協会が後世育成のために大切に使わせていただく」


 これが今回の依頼、そのメインである。



「子どもの養育費が貴族の失墜とは、高い代償を払ったのう」



 貴族たちからぶんどった権利書の山をウチワ代わりにして、協会長は姿を消した。訓練生となった子どもたちを引き連れて。



 シチサブローたち以外は誰もいなくなった会場で、フリオはケットシーと手を繋ぐ。


「それで、あの、パパさんとママさん」


 突然、フリオがその場にかしずいた。


「お嬢さんと、結婚させてください!」


 なんと、突然のプロポーズである。


「フリオ、どうして?」

「ご両親が見つかったら、ボクがS旧試験に受かったら、一緒になろうって決めていたんだ。幸い、召喚獣と人間で結ばれたケースだって目の前にいる。そうですよね、テルルさん?」


 テルルは、コクリとうなずいた。


 仙狸たちも、二人を祝福する。


「これからも、ずっと一緒だよ」

「ありがとうフリオ!」


 ケットシーとフリオは抱き合う。


「やっぱりいい話」

「だな。後味は良くねえと」



 ~~~~~ * ~~~~~ * ~~~~~


 

 その後、寮に暮らし始めた貴族の子どもたちは、鍛え直されるという。

 誰一人、文句を言っている者はいないらしい。

 

「ホラ。賞金だ」


 貴族からもぎ取った金銭の一部を、シチサブローはフリオに渡した。賞金として。


「こんなに!」

「これで、嫁を楽をさせてやりな」

「ありがとうございます。よかったね!」


 こんな優しい子どもなんだ。貴族のようなムダ遣いなんてしないだろう。


「でも、いいんでしょうか? 貴族さんは、大変なんじゃ……」

「いいんだよ。まだまだタンマリあるんだから。それにこの金は、ほとんど乱獲された召喚獣の慰謝料に使われる」


 古くから、貴族によって召喚獣の乱獲が行われていた。欲に目がくらんだ貴族や王族共にとって、召喚獣を操るのはステータスになる。より高級な召喚獣を持つことが、彼らにとってのバロメーターとなっていた。


「本来ならば、これくらいでは収まりが付かん。じゃが、シチサブローに止められてのう」


 召喚獣たちは、貴族のせいで無残に使い捨てられた。彼らに思い知らせるため、協会長はこの大会を仕組んだのである。


 シチサブローは料理というポジションで、その一躍を担うことにした。

 しかし、テルルに言われたのである。「協会長だって学ぶべき」と。


「そうだったんですね」

「しかし、お主のような心の優しい者もおるとわかった。それだけで、満足じゃ。ヤツらには、我が子を失った者の苦しみを味わってもらうに留めたわい」


 テルルの思惑通り、協会長もわかってくれたようだ。


「色々ありがとうございました。では」


 会釈して、フリオは背を向けた。


「またねーっ!」


 ケットシーは、シチサブローとテルルに手を振る。


「して、シチサブローよ。また無礼な貴族が召喚士の試験を始めると言ったら、協力してもらえるかのう?」


 答えはもう決まっている。


「もちろんさ。ザコ召喚士にテルルの肉がうまいことを証明してやるぜ。なあ?」

「うん! ウチの肉は世界一!」


 最後まで、テルルはブレなかった。


「あーそれなんだが、テルル、手を出せ」


「ん」と、テルルが両手をパーにして出す


「そうじゃねえよ。じゃあ、これを」


 シチサブローは、テルルの左手だけを取る。

 薬指に、リングをはめる。


「これは?」

「姉貴がくれた【詫び石】を、協会から分けてもらったんだ」


 召喚士協会から、石を一部だけ買い取って指輪にしてもらったのだ。


「お前は、オレにとっても一番だ。これからも二人でやっていこうぜ」

「うん。ウチは嫁としても、世界一になる!」


 よくわかっていないようだが、テルルはうれしそうだった。


                                    (完)

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腹ペコ召喚獣VSドラゴン肉「あれ~召喚士くん、キミのペットさあ、オレの焼いた肉をガツガツ食ってますよ~」「ざこ胃袋❤」 椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞 @meshitero2

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