テルル、洗脳される!?
「お主は、この期に及んで何の用じゃ!」
荒ぶる協会長を、シチサブローは押さえ込む。
「協会長、酒が入っている。あんたはもう帰ってろ」
「じゃが!」
「帰ってろって。任せろ。こいつは、オレの客だ」
一瞬腹を立てたが、協会長は折れた。
「何かあれば、呼ぶんじゃぞ」
「はいはい。さっさとお帰りよ」
協会長は、帰って行く。
「で、何か用事か?」
「私が開発したヘッドセットに、不具合が生じるなどあり得ない。完璧に作られたこの装置にトラブルが発生するなどあってはならない。しかし、この子はミスをした。その原因を探りたく」
少年の父親が、淡々と説明する。要するに、誤作動はシチサブローのせいだと因縁をつけにきたのだ。
一方で少年の方は、まったくの無表情だった。何も感じていないというより、まるで心をどこかへ置いてきてしまったかのようである。今頃、失ったモノの重さを噛みしめているようにも見えた。
「それで、イチャモンの付け所は、こちらしかないと」
「当然です。あなた方が何か細工をしたに違いない」
ここまで無礼なヤツらは、見たことがない。しかし、協会長を帰らせておいてよかった。今の話を聞けば、間違いなく抹殺していただろう。それくらい、ためらいなく行うはずだ。
「オレたちの潔白を証明する方法とかは、あんのか?」
「このヘッドセットを、あなた方に付けていただきます」
それで不具合が出なければ、シチサブローの方に落ち度がないと証明できるらしい。
「うさんくさい」
「まったくだ。とはいえ、試さないと帰してもらえない感じかな」
あるいは、難癖を付けてシチサブローを審査員から外す工作を行うか。
どのみち、この腐れ貴族を納得させればいい。
「被ってやれ。テルル」
「わかった。すちゃっ」
テルルは、ヘッドセットを目に装着する。
貴族がニヤリと笑う。
「ほおおおお!」
身体を震わせながら、テルルが硬直した。
「アハハハ! これはいい! 伝説のドラゴンを、我がシモベにすることができた! やはり天才である私に、不可能はない!」
やはり貴族は、テルルを従属させることを目的にしていたらしい。
「さあ、ドラゴン、私の指示に従うのだ!」
「おー。いうこときく」
貴族の言いなりになってしまったテルルを見ても、シチサブローは平然としていた。
「何が面白いんだ」
「ギャハハ! そんなショボイ作戦に、オレのテルルがひっかかるものかよ!」
「だが、現に私の開発したヘッドセットで、このドラゴンは意のままだ! さてドラゴン、気にくわないやつを殴れ!」
「おー。ぱーんち」
「ぐへええ!」
ためらいなく、テルルは貴族のアゴにグーパンチする。
貴族の身体が、宙を舞う。しばらく夜空へ急上昇した後、落下した。
シッポで受け止めて、テルルは貴族を地面へ降ろす。
「なぜだ! なぜいうことを聞かぬ?」
アゴをさすりながら、貴族は半泣きで叫んだ。
「いうことは聞いている。気にくわないヤツを殴っただけ」
「だから、それは私ではない!」
「なんで? お前以外に最低なヤツはいない」
続いてテルルは、貴族にフックを見舞う。
打撃を受けた貴族の顔が、大地にめり込む。
「あひいいい!」
「機械を使って無理矢理召喚獣にいうことを聞かせるようなヤツは、人間じゃない。魔物以下」
テルルは貴族の腹にきつい一発を浴びせて、シッポで打ち落とす。
顔をバウンドさせて、貴族は失神した。あとは、役所へ連行すればいいか。先に手を出したのは彼らなんだ。
しかし、その前に。
「お前も気にくわない。殴る」
少年の方に顔を向けて、テルルは冷たく言い放つ。
「何でも人のせいにして、我関せずというわけにはいかない。こうなったのは、全部お前の責任。シチサブロー、殴っていい?」
「ああテルル。好きにしろ!」
シチサブローも、合図する。
テルルの拳が、少年に向けられた。
始めて、少年の顔が歪んだ。助けてくれる人が誰もいなくなり、恐怖に震えている。
腰を落とした少年の顔面に、テルルは容赦ない一撃を見舞った。
だが、その拳が少年の顔に届くことはない。
巨大な手の平が地面から生えてきて、テルルのパンチを受け止めたからだ。
「ほほう。こいつは」
シチサブローは、感心した。
その手が、少年の召喚獣であるサイクロプスだったからである。あんな目に遭わされても、サイクロプスは少年を助けたのだ。
「よかった。ばき」
テルルは、ヘッドセットを引き裂く。
「そんな。私の叡智が詰まった機械が……」
いつの間に目覚めたのか、貴族がヘッドセットの残骸をかき集める。
「始めから、催眠効果なんてかかっていなかった」
その残骸を、テルルはさらに踏み潰した。
「お前の叡智なんて、始めからゴミレベル。モンスターとの信頼を踏みにじるような機械で、召喚獣の心は操れない」
辛辣な言葉を、テルルは貴族の男に向ける。
自分の発明を罵倒されて、今度こそ貴族は絶望した。
「お前も、親が気にくわないなら反抗してもいいんだぜ」
少年は、サイクロプスの手に自分の指を当てる。
「あの装置は、単にサイクロプスの意識を遮断しただけ。それを外してくれない召喚士に怒っていた」
「お前さんが本当に救いを求めたから、アイツはかけつけてくれたんだ。感謝しな」
サイクロプスは抵抗せず、少年の手を取った。
「少しは、マシになったかな? あのヤロウ……」
「あの二人は、もう大丈夫」
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