姫騎士見参! 特S級ドラゴン肉 VS 草食系ユニコーン

『次の挑戦者は、ハーピーを連れています』


 おとなしそうで、最初こそガマンできる育成がされていると思えた。しかし、肉が目の前に現れると、血相を変える。


『おっと! 召喚士の制止を聞かずに足でひっつかんでしまった! そのまま空へ!』


 召喚士の少年が、空に手を伸ばした。しかし、ハーピーは戻ってこない。


『なにが起きたのでしょう、解説の協会長?』

『自分は食べるのをガマンできたのじゃ。しかし、あの行為は子どものためじゃな』

『巣に持ち帰ったと?』


 アナウンサーの仮説に、協会長はうなずいた。


『なんという美しい親子愛でしょう! しかし無情にもこれは試練! 召喚士の試験失格!』


 とにかく、ハーピーを連れた選手は失格となる。


「召喚士くん、頼りの相棒がヒナにエサをやりに行ったぞ。どんな気持ちだ? ああ? どんな気分だ?」

「ざーこ。ざこざこ、ざこ胃袋」


 本意ではないが、仕事なので煽る。

 涙を堪えながら、召喚士は退場した。


『さて、次の相手はヒドラだ!』


 試合開始早々、ヒドラの頭部分が互いを攻撃し始める。


『おっと! 頭同士がケンカを始めてしまった! いったい何が起きた? 解説の協会長殿、これはどうして起きたのでしょう?』

『分け前を独占しようとしているのじゃ』

『相手の首を食いちぎり合っています! 自分の身体が仲間割れを起こすほどの魅力!』


 結局、首の一体が肉に飛びついてしまい、アウトとなった。


「信じて送り出したヒドラは、まだ自分を相手にケンカを続けてまーす」

「ざーこ」


 二人は、召喚士の少女に罵声を浴びせる。これも仕事のため。

 屈辱の仕打ちを受けながら、召喚士の少女は舞台の奥へ消える。



 その度にライバルから嘲笑が飛び、観客は愛くるしさに微笑む。


 

 この後も、二人の挑戦者がテルルのドラゴン肉に敗北した。


 昼から始めて、もう日が傾いている。

 召喚獣の食欲も、限界に達していた。

 そのため、今日の試験はあと一人で終わりとなる。


『さて、早くも六人の挑戦者たちが涙を呑んだ。では本日最後の挑戦者が入場です! ラストチャレンジャーは、こちら!』


 金髪碧眼の少女が、ピンクのドレス姿で現れた。

 騎士の鎧と、淑女らしいドレスの融合だ。


『試験一日目最後の挑戦者は、なんと騎士団長のお嬢様! フローレンシア・デ・アンドロメダ姫だ!』


 アイドル的な扱いで、観客の目を釘付けにしている。


 自信に満ちあふれた様子で、ライバル貴族たちに視線を送った。


 貴族たちは腕を組みながら、姫の視線をかわす。 


 姫が連れているのは、痩せた一角獣だった。民衆の視線から姫を守るように、ギャラリーの視界を遮る。アナウンサーさえ、近づくことが容易ではない。


「シルバー、ステイ」


 銀色のユニコーンが、姫からわずかに距離を取る。


『フローレンシア姫が連れているのは、ユニコーンのシルバー選手だ。文字通り銀色の毛並みが美しい!』


 煽りVTRが、上空の飛空挺モニターに映し出された。


 このユニコーンは、姫と同じ年に生まれたという。それ以来、数年間ずっと共に過ごしてきたのだとか。二人が培ってきた絆はまさに、兄弟に近い。


 画面には、ユニコーンを駆って草原を駆け抜ける姫の美しい姿が。


 姫騎士というだけあって、戦闘力も高かった。

 ユニコーンの角を模した槍で、強力なモンスターを貫く。

 姫の魅力を存分に写し出したところで、VTRは終わった。


 他の貴族たちは、面白くなさそうな顔をしている。


『インタビューよろしいでしょうか。姫様。次の挑戦ですが』

「S級召喚士の称号は、わたしにこそふさわしいのです。ですよね?」


 召喚士の呼びかけに、ユニコーンもヒヒーンといななく。


「はいシア様。優勝は、シア様に間違いありません」


 この馬、どうやら言葉を話せるらしい。

 会場もどよめいている。


 言葉を理解し、話せる召喚獣は、高位の存在だ。


「ユニコーンか。おもしれえ」


 百戦錬磨のシチサブローといえど、脂汗をかいている。


「大丈夫、シチサブロー?」

「なんでもねえ。とりあえず頼む」


 いつもの工程を済ませた。 


 試合が始まる。


「シルバー、ステイよ」

「心得ております」


 ユニコーンは、テルルのシッポ肉に反応しない。


 シチサブローの額から、汗がこぼれ落ちた。

 汗が焚き火台に落下し、ジュッと蒸発する。

 流れる汗の原因は、決して顔が火に近いからじゃない。


「おやおや、随分と焦ってらっしゃるわね」


 姫に煽られながらも、シチサブローは肉を焼くことに集中する。


「このわたしが、負けるはずがありません。なぜか、馬は草食ですから!」


 そう。ユニコーンは肉を食わないのだ。草を、厳密には大地のマナを取り込むだけで、数百年は生きられる。


 背中に、じっとりと汗が滲む。このままでは、負けるかもしれない。


「大丈夫。ウチの肉は負けない」


 テルルが、シチサブローの腰にバンと気合いを入れてくれた。


「飢えに強いユニコーンのシルバーが、あなたのお肉なんて食べるわけ……ええええええええ!?」


 姫の視線の先には、もっしゃもっしゃと口いっぱいに肉を詰め込むユニコーンの姿が。

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