調査──1


大会後治療に専念している間にクリスが調査してきたゴーレムの工房の報告書、両国の海軍の索敵魔法や探知魔法の過去のログ、ゴーレムの輸送ルート、ゴーレムの残骸についての報告書、そのほか諸々の書類を並べながらホムラは考えていた。




(島を襲ったゴーレムは帝国産とスワロテリ産なのも確か、盗まれたならどこかで数字が狂うはずだけどそんな感じも無し、この報告書が偽装されてる可能性もあるけど何から何までおかしな話だ)




統率された動きから指示を送ったと思われる人物は一人、数百のゴーレムを個人で用意するのは非現実的、国が怪しいが協力的でどちらかの国に擦りつける素振りもない、ホムラ個人的な感情でもあるが皇帝と王の指示であって欲しくないと祈りながら資料の一つを手に取ってふと呟く




「複製」




この世界で複製魔法をみたことがないと気づいた。


今まで気にした事が無かったがこれだけ魔法文化があるのだから複製魔法の一つや二つあってもおかしくないと思い資料を封筒に入れて金庫にしまうと鈴を鳴らす。




「どうかされましたか? 」


「予定の確認をしたい」


「明後日にここを発ち、オリオディア周辺の調査へ」



「六日後にこの国で一番魔導書を保管している場所へ行きたい、頼める? 」


「承知しました。他に何か? 」


「オリオディア周辺の調査に魔力鑑定師の同行を依頼したい、欲を言えば今すぐ一人と適当に魔法が使える人物が欲しい」


「御意」



クリスは部屋を出て行くとホムラも椅子に掛けていたコートを羽織りオリオディアの剣を腰に指して部屋を出た。




「どちらに? 」


「庭で陽を浴びたい、ここ最近薬湯に浸かっているかベッドでおとなしくしていたから身体が鈍ってしょうがない」


「では後で紅茶をお持ちします」




庭に出て深呼吸、久しぶりの外の空気にホムラは頭の中がすっきりとしたような気がした。



「よし」




剣を抜いて軽く振る。


ホムラは皇帝から与えられたオリオディアの剣を賊との戦いでしか抜く機会がなかったので実践で感じる剣のクセをあまり感じ取る事ができずにどこか気持ち悪さを感じていた。



「不気味なぐらい俺に合う剣……なら試してみる価値はある」




ホムラはゴーレムに使った技を振るう、前世の頃にその技を見た者が名付けた『表裏一閃』と呼ばれたその技は外側を一切傷つける事なく内側のみを斬る技である。

防御不可能の暗殺剣と恐れられた技だがまだ未熟なホムラは完璧な再現は不可能だと諦めてアレンジを加えてひたすら鍛錬をして『魔力』を斬る技へと変えた。


高火力の魔法を斬る事は出来なくても魔法と魔法を使う人物の魔力を斬る事で魔法を打ち消す事を可能としたのだ。




「……とんでもない剣だ」




並大抵の剣ならへし折れる技、それを物ともしない剣が少し怖くなったホムラは深く考える事をやめて、軽く舞うように振りながら庭をくるくる回っていると拍手をされて足を止めた。




「お見事っす」


「……たしか、セイン・サリアマス」


「覚えていただいて感激っす! 追加の人員で馳せ参じたっす! 」


「追加の人員……いや、今頼んだのにもう来たのか、魔力鑑定師……」


「自分、特Aクラスの魔力鑑定師の資格を持つ鑑定師っす! 」


「と、特Aって世界に十五人いるかいないかの超エリートじゃないか……とんでもない大物で腰を抜かしそう……その上大会の本戦にのこる剣の腕か」


「自分は他の魔力鑑定師と違って人の魔力の流れを見る事ができるっす! まぁ剣士としての腕と体術は劣るっすけど魔力の流れで人の動きを読む事ができるっすよ」


「すげぇ」


「まぁ大会ではリーンさんにぼこぼこにされたっすけどね」


「あの人強いよなぁ」




のんびり話をしていると紅茶のポットとお菓子を乗せたカートを押してクリスがやって来た。




「ホムラ様、セイン様、どうぞおかけに」


「クリスさん、自分がいる事わかってたっすか? 」


「はい、使用人ですから」


「凄いっすねぇホムラさんの使用人さん」


「使用人にしておくのが勿体ないほど強い剣士だよ」


「お褒めに預かり光栄です」


「へー、気になるっすね」



テーブルの上にカップとお菓子が乗った皿を置いたクリスは微笑みながらセインを見た。




「でしたら、ティータイムの前に少しお相手しましょうか? 」


「え!? いいんすか!? 」


「ホムラ様は現在も治療中ですので、流石にホムラ様と一戦交えたいと申されたら困りますが、私でしたらいくらでも相手になりますよ」


「ホムラさん! いいっすか!? 」


「えー、まぁ、うん……俺はいいけど、本当に大丈夫? 」




ホムラは椅子に座り、やる気満々のセインと静かに剣を抜いたクリスを見て不安そうな表情を浮かべる。



(よく言えば広範囲高火力、悪く言えば大雑把なクリスの剣だぞ……! )




ホムラはちらりと背後にあるクロノールから借りている屋敷を見る。



(破壊しないよな? この屋敷壊したら高いぞ……!! )




今までに無いほど緊張した面持ちで見つめられたクリスは優しく微笑み普段使いの剣──では無くメイド服のスカートの中から四本の短剣を抜いた。




(な、なんだ……!? なんだその自信満々な顔は、なんの自信なんだ? 俺はクリスが短剣を使用する事自体初めて知ったけど大丈夫なんだよな……!? とてもじゃないけどクリスの魔法は俺打ち消せないぞ……!! )


(ふふふ、クリスはいつまでも火力馬鹿でないのですよ)


(あ、やばいっす、この人の魔力の波動は……)




「では始めましょう」


「うひぃっ!? 」


「ぐおおぉ!? あちぃ!? 」




クリスは三本の短剣を投げ、残った一本を逆手に持ち一気にセインに近づくと振り上げた。


咄嗟によけたがその衝撃波に背後に座って見ていたホムラは衝撃波に襲われカップとポットが吹っ飛び中身を頭から被るがクリスは気づく事なく追撃を行う




「ほう、避けますか」


「や、やばいっすこの人」




落ちて来た短剣を二本投げて追走し、短剣を振り上げる。




「くぅ!? 」




投げられた二本を弾いて振り下ろされた短剣を受け止める。




「振り下ろす途中にずらしているので並大抵の人なら一本めを受け止める事ができても二本目をくらうものですが──両方受け止めますか」


「あ、あんた人間じゃないっす……普通の人の動きじゃ無いっすよ……!! 」


「それを受け止める貴女も」


「………………まぁ、自分は"魔眼"持ちっすから」


「ほう──それは」


「な、なんすか……」


「えぇ、なるほど、理解しました」




クリスはセインから離れると短剣をしまうとホムラの方を見る。




「ホムラ様、人事について────あら、どこへ行ったのでしょう? 」


「書き留めがあるっすよ」


『紅茶で濡れたから風呂入る』


「まぁ」






「セインさんを正式に雇ってほしい? 」


「はい、一戦交えて彼女が優秀だと判断しました」


「優秀……って言っても向こうは超エリート、こっちは領地も領民もない貴族もどきだぞ」


「給料なら出せますよね? 」


「金ならな、しかし彼女に未来がないだろう」




風呂から上がり、身だしなみを整えるホムラは困惑していた。


自分が去ったわずかな時間に何があったのか興味が湧いたがセインを待たせている為深く追及する事をせずに手短に支度を済ませて広間に向った。




「調査の協力に感謝する……しかしそちらの都合は大丈夫か? 」


「あー、はい……自分、若いからあんまり鑑定の仕事回して貰えないっす」


「むぅ、そうか……」


「彼女なら波風立たないかと」


「なんの話っすか? 」


「セインさんがフリーならウチで雇いたいって話だよ」


「えぇっ! 自分っすか!?」


「クリスが推薦するなんて滅多にないし、喉から手が出るほど欲しいのは事実だが、今回の一件が終われば島の住人に戻るからセインさんの今後に得がないってのが問題だ」



セインはホムラの手を握る。



「ほ、本当に自分を雇ってくれるっすか!? 」


「出世は望めないぞ? なんせ領民も領地もない貴族もどきだ。惚れられた女も多いが敵も多い、それに今回の一件は中々にハードだからこき使うぞ」


「上等っす! バリバリ働いてババァ共を見返してやるっす!! 」




これほど真っ直ぐな目で見られては拒否できない、何より湯上り姿を見て襲って来ない理性が強い上に優秀な人材を下手に使い潰されてたまるかとホムラは契約書を用意した。

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女性が強い剣と魔法の世界で元剣士の男は剣帝になる 小砂糖たこさぶろう @n_003

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