第39話 護衛依頼



 あくる朝、孤児院からパーティハウスに帰ってきたニャウとタウネは、テトルとバックスを交えてこれからのことを話しあっていた。

 連れてきた三頭の虎魔獣は、バックスに建ててもらった屋根だけの仮小屋で横たわりくつろいでいる。

 白い子猫のミャンは、そのうち一頭のお腹に乗り、気持ちよさそうに丸まっていた。


 シスターから聞いていたとおり虎の食欲は凄まじく、多めに蓄えておいた食材があっというまに底をついてしまった。

 テトルが、さっそくそのことを話題にする。


「虎たちは、なるべく早く従魔登録を済ませて、森で自活してもらうしかないな」


「うーん、三頭ぐらいは、ここに置いておきたいんだけどなあ。あの子たちがいてくれると、なにかあったとき頼りになるし」


 タウネは、虎に護衛役としての役割を期待しているようだ。


「そうだ。シスターからテトルに伝言があるよ。なるべく早くギルドに顔を出しなさい、だって」

 

「おい、ニャウ、そんな大事なことは、最初に言ってくれよ。じゃあ、四人でギルドに行くか。その後、ボ……俺とバックスは食材の買いだし、ニャウとタウネは庭の三頭を森へ帰して、別の三頭を連れてきてくれるか?」


「おいら、買いだしだな」

「ああ、いいよ」

「うん、わかった」


 ところが、ギルドでは四人にとって予想外の事が待ちうけていた。


 ◇


「テトルさん、あなた方のパーティには、王都のギルド本部から指名依頼が入っています」


「指名依頼!?」


 テトルが驚くのも無理はない。指名依頼というのは、貴族や豪商が特定の高ランクの冒険者に名指しで仕事を頼む制度だ。

 まだ冒険者になったばかりのパーティが受けるような仕事ではない。

 しかも、今回は依頼主がギルド本部だというのだから、なおさら普通ではない。    

 

「ええと、護衛っていっても、どんな人を守るんですか?」


 ぼうっとしたままのテトルの代わりに、タウネが口を出した。


「ああ、あなたたち、当然だけど護衛依頼は初めてだったわね。どんな人を護衛するかは、普通だと待ちあわせの場所に行ってみないとわからないの。かなり貴重なものを扱う商人もいるから、情報が洩れると積み荷を狙う盗賊に襲われたりしちゃうのよね」


「なるほど。出発の日時と目的地くらいは教えてもらえますか?」


「ええ、五日後の朝、最初の鐘に、北門で待ちあわせ。目的地はその時に護衛対象から聞いてくれる? 護衛役はあなたたちだけじゃないから、その人たちと現地できちんと打ちあわせするのよ」


「「「はい!」」」


「あのう、メイリンさん。ただの護衛依頼なら、指名依頼にならないと思うんですが……」


「テトル君、悪いけどその辺の事は教えてあげられないの。とにかく五日後の朝、北門に行くこと。絶対絶対、遅れちゃダメよ」


「は、はあ」


 テトルは、一人だけ納得できていないようだ。


「今回の護衛任務は、あなたたちにとって、とても大切なものになると思うの。それと、出発までにパーティの名前も決めておきなさい。いいわね?」


 有無を言わせぬメイリンの迫力に気おされ、テトルはうなずくことしかできなかった。


 ◇


 それからの四日間、四人は護衛任務へ向けての準備で忙しかった。

 テトルは護衛任務に詳しい先輩冒険者たちを食事へ誘い、彼らから聞きだせるかぎりの情報を手に入れた。

 ニャウとタウネは、森で待機していた残りの虎魔獣をギルドまで連れていき、三頭ずつ三度に分けて従魔登録を済ませた。

 バックスは、鍛冶屋ローガンに頼みこんで、みんなの防具の整備をおこなった。

 これまでテトル以外は借りものだった武器も、各自が新品を手に入れた。

 バックスは片手長剣、タウネは片手短剣、ニャウはナイフだ。


 新しい武器に慣れるための訓練も必要だったので、四人は朝から晩まで働きづめとなった。

 白猫ミャンは誰から相手にされなくてもいっこうに寂しくないようで、庭や近所をかえってのびのびと歩きまわっている。

 周辺の子どもたちはミャンに夢中で、見つけると走りよって撫でている。

 

「うわあ、ふわふわちゃんだあ!」

「違うよ、この子はミャンちゃんって言うの」

「ふわんふわん、きもちいいねー」

 

 ミャンに魅せられたのは、子どもたちだけではない。

 近所のおじさん、おばさんも、子猫に夢中になっている。


「なんて柔っこいんだい!」

「白い毛並みがきれいだねえ」

「お日様のような匂いがするよ」


 そして、ご老人たちはご老人たちで、またちょっと違った楽しみ方をしている。

 道の端に小さな木のテーブルを出すと、その周りの椅子に座り、お茶を飲みながら、塀の上に座るミャンを眺めて楽しんでいるのだ。


「めんこいのう」

「なごむのう。こうして見てるだけで、腰の痛いのが治まるんじゃ」

「ほんに、あたしゃ寿命が延びるよ」


 ニャウは、そんな光景を見て本当に嬉しく思っていた。

 誰も知らない【猫】という天職を授かり、誰の役にも立てないなどと考えていたのに、今では子猫たちがみんなを喜ばせている。

 

「おや、ニャウちゃん、そんなとこでつっ立ってないでこっちへおいで」

「お茶はいつものだが、今日はいい菓子があるぞ」

「あんた、その菓子ゃ、あたしが持ってきたんだからね」


 ニャウは満面の笑顔で元気な老人たちの輪に加わるのだった。


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