新天地へ

第36話 新しい仲間


 明け方まで続いた宴の後、ニャウたちは一日ゆっくり休んでから、明くる日の明け方にゴブリンたちの集落をたった。

 イビーがぐずらないよう、彼女が寝ている間に村を離れたわけだ。


 タイラントへの帰りはロタの案内で東の森を抜けたので、足場が悪い崖の道を通るなどという苦労もなかった。

 東の草原を歩き、街の防壁が見えてきたところでロタが足を止めた。


「ニャウねえさん、タウネねえさん、兄さん方、おらの村を助けてくれてありがとう。おかげで母ちゃんもイビーも、そして村のみんなも生きのびることができた。いくら感謝してもしたりねえが、おらにはお礼くらいしかできることがねえ。だども、本当にありがとな」


 頭を上げたロタは、その大きな目いっぱいに涙をためていた。

 そんな彼の頭を、ニャウが優しくなでる。彼女の胸に抱かれたミャンが、さようならの仕草か、右前足を挙げひょいひょいと肉球を見せていた。

 

「ロタ、あなたが命がけでお母さんとイビーを救おうとしたからよ。村を救ったのは、あなたの勇気よ」


「うっ、ね、ねえさん……」


「さ、暗くならないうちに帰らないと、ラナさんが心配しちゃうから」


「う、うん。みんな、ありがとう。またおらたちの村に来てくれよ。子猫ちゃんたちも連れてね」


 ニャウは、子猫たちのうち三匹をラナの小屋に残してきた。寝ているイビーが目を覚ましたとき、自分たちがいないときっと寂しがると思ったからだ。

 街に帰ったらナウたち三匹を手元に召喚するつもりだ。そのときまで子猫たちにはイビーの相手をしてもらおう。

 

「ねえさんたち、またなー」


 ゴブリンの少年は何度もニャウたちの方を振りかえりながら、草原を遠ざかっていった。

 ロタの姿が見えなくなると、テトルがため息をついた。

 

「さて、ニャウ。そろそろこいつらのこと、どうするつもりか決めろよ?」


 彼がそんなことを言うが、草原に座りニャウの方を見ている。

 それは、虎の魔獣たちだった。

 数えてみれば、十二頭もの虎が彼女の前に座っている。 

 

「うーん、どうしようかな。タウネはどう思う?」


「そうだね、このままだと魔獣として誰かに殺されちゃうかもしれないね」


「そうだね。じゃあ、やっぱり従魔としての首輪をつけてもらわなくちゃ」


「それがいいと思うよ。だけど、問題はあの子だね」


 タウネが指さしたのは、少し離れたところで、なんだか遠慮がちに座りこんでいる巨大な地竜だった。


「いくらなんでも、あれは無理だろ。だいたい東門を通れないぞ、あの大きさだと」


 テトルが断定口調でそんなことを言ったが、すぐタウネから反論された。


「通れないなら、ギルドの人にここまで来てもらえばすむ話じゃない。ニャウ、せっかく仲良くなったんだからそうしなよ」


「え? 私が決めるの?」


「そりゃそうさ。怪人からあの地竜を解放したのはあんたなんだからね」


「でも、本当は地竜さんを救ったのって、ミャンたちだし……」


 そう言いながら、ニャウは自分の胸でぐっすり眠ってしまった白い子猫の頭を撫でている。

 そして、四人で話しあった結果、地竜はとりあえず森へ帰ってもらう、虎魔獣は従魔として登録することにした。

 その結果……


「きゃーっ! と、虎よ!」

「あ、ありゃフォレストタイガーじゃねえか!」 

「なんで虎が街中に!?」


 虎を連れ街を歩く四人は、住民を大いに驚かせることになってしまった。


「ニャウ、なんか、みんなやけに怯えてない?」


「……う~ん、たった三匹しか連れてきてないのに、どうしたんでしょう?」


 虎魔獣は、テトル、タウネ、バックスがそれぞれ一頭ずつひき連れている。

 ニャウもそうしたかったのだが、ミャンの相手をしなければならないから諦めた。

 

「こりゃ、ギルドに急いだほうがよさそうだ」


 街の騒ぎが大きくなってくる。焦ったテトルが駆け足になる。

 速度を上げた虎たちを目にして、街の人たちはさらに恐怖が増していく。

 すれ違う通行人が、次々と悲鳴を上げ、腰を抜かす者まで出る始末。

 それは彼らがギルドに着くまで続いた。


 ◇


 ニャウたちがギルドに着くと、やはり腰を抜かしかけた職員たちが虎を倉庫へ連れていく。

 そして、四人はこめかみに青筋を立てた中年の男性職員によって、ギルマスの部屋に押しこまれた。

 どっしりした木の机に着いたクルーザは、職員から耳打ちを受けると、大きなため息をついてから四人の方を見た。


「お前ら、また騒ぎを起こしたらしいな」


「いえ、ボクたちはなにも……」


 ギルマスの迫力に気おされたのか、テトルの声は聞きとれないほど小さかった。

  

「ゴブリンの集落には、連絡のためだけに行ったはずだよな。そらがなんでゴブリンと一緒に戦ってんだ?

 しかも、魔獣を操ってたっていうヤツと、お前らだけで戦うなんてな言語道断だ! アニーねえさんが助けに来なきゃ、確実に死んでたぞ、お前ら」


 正論をぶつけられ、ニャウたち四人は言葉もない。

 クルーザは、それまでの厳しい表情から一転、気安い表情となった。 


「なにはともあれ、結果だけ見れば、お前らはよくやったよ。鉄ランクの冒険者としては上出来だ。報酬は、受付でメイリンからもらってくれ。それからニャウ、お前のために怪我したガラキを見舞ってやれよ。あと、虎の魔獣で街を騒がせたこと、衛士の詰め所へ謝りに行くんだぞ」


 こっぴどく叱られたり褒められたりしたことで、どうしていいかわからずキョロキョロ辺りを見まわしているニャウたちを、大柄の女性ギルド職員がギルマスの部屋からひょいとつまみだした。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る