第19話 パーティの名前



 ニャウたちが新しく住むことになった庭つきの大きな家。

 その庭の片隅には、くわを振りおろすテトルとバックスの姿があった。 

 二人の少年は朝から畑仕事に精を出しているのだ。


「宿を引きはらったんで、その分お金は浮いたけど、まさか畑仕事なんかさせられるはめになるとは思わなかったなあ」


「テトルにい、手を止めるなよ。そんなんじゃ、いつまでたっても終わんねえぞ」


「だけど、バックス。ボ……俺は冒険者なんだぞ。冒険者だったら、魔獣を相手に戦ったりするのが本来の仕事だろう?」


「それにはおいらも賛成だけど、食費を浮かせて少しでも早く借金を返さねえと落ちつかねえから、畑仕事も仕方ねえよ」


「畑仕事と食費とどう関係するか、全くわからん」


「タウネの話を聞いてなかったのか? 野菜は、買うより育てた方がずっと安くつくんだよ」


「そんなこと言ったって、俺は野菜が苦手なんだ。できたら肉だけ食って生きていきたい」


「おいおい、シスターから、食事にはくれぐれも気をつけるよう言われたよな。冒険者は体の管理が大切だって」


「うっ、そりゃそうだけど……」


「冒険者としては、一番の先輩なんだからしっかりしてくれよ、テトルにい」


「お、おう……」


 そんな二人に、家の窓から顔をのぞかせたタウネが声を掛ける。


「二人とも、お疲れ様。そろそろお昼にしよう。ついでに大事なこと決めなきゃだから」


 タウネが顔を引っこめた窓を見ながら、テトルが首をかしげる。


「決めなきゃならない大事なことってなんだ? バックス、お前わかるか?」


「やれやれ、これでパーティリーダーってんだからなあ。しっかりしてくれよ、まったく。大事なことと言えば、あれしかねえだろ」


「だから、あれってなんだよ」


「自分で考えな。おいら腹ペコだから、もう行く」


「つれないぞ、バックス。教えてくれたっていいじゃないか!」


 バックスは問いかけには答えず、ブーツに着いた畑の泥を落とすと家の中へ入っていく。


「大事なことってなんなんだよ、いったい」


 テトルは鍬を肩にかつぐと、のろのろと畑を後にした。


 ◇


 バックスが廃材を組みあわせて作ったテーブルでは、ニャウ、タウネ、バックスが食事を終えていた。


「じゃあ、第一回パーティ会議を開くよ」


 タウネの言葉に異議を唱えたのは、テトルだった。


「おい、俺はまだ食事中なんだが……」


「あんたがぐずぐずしてるからでしょ。そんなのいちいち待ってられないわよ。ということで、会議の議題は当然アレよね」


「うん、アレだね」


「ああ、当然アレだろ」


「だからアレってなんだよ、俺にも教えてくれよ!」


「約一名、冒険者としての自覚がない人がいるみたいだけど、それはほっといてと――」


「おい、俺ってほっとかれるのかよ!」


「まず、バックスの意見から聞かせてもらおうかしら」


 テトルの抗議は、完全なる空振りに終わったようだ。


「そうだなあ、『漆黒のグリフィン』なんてどうだ? 思いついたときは、これだって感じだったぞ」


「見たことないけど、グリフィンって白い魔獣じゃなかったっけ?」


 ニャウが首をひねっている。バックスの意見に賛成というわけではなさそうだ。


「そこだよ、そこ! 白いグリフィンは当たり前だろ。だから漆黒なんだよ」


「うーん、よくわかんないかな」


「ニャウ、わかってくれよう」


「バックス、そんな情けない顔しないの。まだ、あんたの意見が却下されたってわけじゃないんだから」


「ホントか、タウネ? それならいいけど」


「で、次は私が決めたヤツだけど。『ふわふわりん』ってのはどうかしら?」


 これには、バックスからすぐに異議が出た。


「それじゃあ、全く強そうじゃないぞ」


「なに言ってんの、大事なのは強さより可愛さよ」


 それをきっかけに口喧嘩を始めたタウネとバックスだが、ニャウが止めたので、とりあえずその場はおさまった。


「じゃあ、最後はニャウね。もう考えているんでしょ?」


「うん、みんなが気にいるかどうかわからないけど。ええとね、『肉球パンチ』ってどうかな?」


「ニャウ、そのニクキュウってのはなんだ?」


「猫のここのところをそう呼ぶんだって。リーシャおばあちゃんが教えてくれたの」


 ニャウは自分の手のひらを指さすと、にっこり笑った。


「そうなると、候補は『漆黒のグリフィン』『ふわふわりん』『肉球パンチ』の三つか。うーん、自分で意見出しといてなんだけど、こうして並べてみると、どうもピンとくるのがないわね」


 タウネは、みんなの意見を聞いたことで、かえってどれにするか決めかねているようだ。


「おい、一言いいか?」


 すっかり忘れられていたテトル少年が発言する。


「なによ、あんたリーダーのくせに、名前なんて考えてないんでしょ?」


 タウネの指摘は、ピンポイントでテトルの心をえぐった。


「ぐうっ! もしかして、みんなが決めようとしているのはパーティ名か?」


「「「今さら!」」」


「ぐっ、わ、悪かったよ。リーダーなのに名前も考えてなくて。だけど、無理して今すぐ決めなくていいんじゃないか?

   

「それもそうね」

「確かにそうだな」

「そうか、そうだね」


 テトルの言葉にうなずく三人。

 そして、最後に意見をまとめたのは、やはりタウネだった。


「じゃあ、第一回会議では、パーティ名が決まらなかったってことでいいわね」


「「「賛成」」」


 こうして、第一回パーティ会議は、なにごともなく終わるのだった。


「なにごともなくって、なさすぎだろ!」


 テトル君、素敵なつっこみありがとう。


 

 

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