第15話



 ついにやってまいりました。体育祭当日。


 朝から皆気合い入りまくりで開会の挨拶もまだなのにもう既に円陣を組んでいる。


 何が皆をそこまで駆り立てるのだろうか。


 「「「打ち上げ会費、もぎ取るぞぉ‼︎」」」


 思ってたよりずっとわかりやすかった。


 この学校では赤組白組3組づつの計6組ある。そのうち上位2組にはクラス会費の名目で打ち上げ会の費用が支給される。まぁ、別に支給されなくても結局のところ皆自腹でやるだろう。…かなりハードル高いと思うんだけどなぁ


 「辰巳、今日は終わったら焼肉だぞ!」


 「…あまり興味ないな」


 「辰巳!何辛気臭い顔してんのよ」


 「祭りなんだから楽しんでこうよ」


 祭って文字がついてるから祭りなんだろうけども屋台とかある方の祭りがいいんだが。


 「やる気がなぁ、」


 「私も目一杯楽しんで頑張るから辰巳も一緒に頑張りましょ」


 …笑顔がすごい可愛いせいで乗せられてしまいそう。


 「There is nothing with which a devil similar to an angel, too floors a person.」


 どうせわかるまい。


 「ん?辰巳なんていったんだ?」


 「…葵」


 ヤバイ。なんか察知されたっぽい。

 葵さんがググりだす。…いまの聴き取れたの?何気に彼女優秀だよね。


 「えー、何々。…へぇ、シェイクスピアの名言なんだ」


 そう言った葵さんの横から鈴宮が覗き込む。

 今にも逃げ出したいのだが鈴宮にガッツリと腕を掴まれてるから逃げられないんだよなぁ。


 「…『天使にも似た悪魔ほど人を迷わすものはない』ねぇ、ふぅん、悪魔、ねぇ。…私悪魔に見える?辰巳」


 おぉうふ。だんだん彼女に黒いオーラが立ち込めてきた。どうやって挽回しよう。


 「さて葵。これから勇者辰巳が悪魔と激闘を繰り広げるみたいだから先に行ってよう。」


 まだ、何も言ってないのに見捨てられた。


 「そうだね。天使を悪魔に変貌させた鷹宮君の自業自得だしね」


 …グゥの音も出ない。


 そんな立ち尽くす僕を置いて2人はさっさと行ってしまう。


 「……すみませんでした」


 こういう時余計な事を捲し立てると更に事態を悪化させてしまう事があるため素直に謝るが吉。


 謝罪の言葉と共に頭を下げる


 「…はぁ。今回だけよ、次はないから。ほら、私達もいきましょ」


 よかった。やはり素直が1番だ。

 僕達も集合場所に向かって歩きだす。校長の挨拶とか長くないといいけどなぁ。



 …フラグだったのか長かった。しかも途中からカブトムシとか全然関係ない話しで20分もかかった。



 体育祭が始まってしまったが学年リレーも何事もなく終わりもう少しで回ってくる出場種目までテントで待機だ。


 「そういえば辰巳聞いたか?体育祭が年1回になって来年もあるかもしれないらしいぞ」


 「なんでだよ。超イヤなんですけど?なにその突然の試み」


 「あくまで噂だぜ。文化祭が年1であるなら体育祭もいいんじゃないかってな。」


 「冗談じゃないぞ。なんの拷問だ」


 「まぁ、お前はそう言うよな」


 当たり前だ。この学校はスポーツ大会にマラソン大会と運動系のイベントが多々あるのだ。

 そんな中また来年体育祭などイヤにも程がある。こういうのは極稀にあるからいいのだ、頻繁にやるのは違うと思う。


 「おっ。辰巳そろそろじゃないか?デカパンから借り物の連続だろ?頑張れよ!」


 デカパンは頑張るけど借り物はお題次第だろ。


 「…程々に頑張るよ。じゃ」




 デカパン競走、熊谷とデカパンに入りスタート地点にスタンバイする。


 「いやぁ、何度も練習したけど緊張するね」


 「ああ、ホント。衆目に晒されるって緊張する」


 今にも帰りたい気分


 『これよりデカパン競走開始しまーす』



 競技開始のピストンが鳴らされる。


 皆一斉に走りだす。僕と熊谷も走りだす。だがかなり走りづらいもので皆もたついているし既に転んでるところもある。



 「やっぱり練習と本番じゃ全然違うね」


 「確かにな。周りも練習しただろうけど転んだりしてるし」


 両手でデカパン押さえながら走ってるから転んだら顔面からいってしまいそう。


 そんな事を思った矢先熊谷が躓いた。このままでは本当に顔面からいってしまう。

 そう思った僕はとっさに彼女の腰から腹にかけて手を回し抱える様にして支える。


 「た、鷹宮。ありがとう」


 「ああ、足挫いたりとかしてないか?」


 「だ、大丈夫だ」


 「そうか。ならもう少しだしそのまま走りきろう」


 「うん」


 そのまま僕達は最後まで無事に走り抜けた。


 一息ついた所で彼女を抱えた手を見つめる。熊谷の細い腰に柔らかく暖かい腹が思い起こされ熱くなると同時に鈴宮の姿が脳裏に一瞬チラつきすぐに冷める。

 いったいなんなのだろうか。


 まぁいい。借り物競走に行かねば。




 借り物競走は単独の為誰とも話す事なく普通に始まった。


 とりあえずお題箱の前まで来たが何がでるか。早速引いてみる。


 『気になる異性』


 …マジかよ。こんな事ある?これ作った奴脳みそキャラメル畑かよ。一瞬また鈴宮の姿がチラついたが振り払い引き直す。

 頼む普通のきてくれ。



 『冷蔵庫』


 気は確かか?冷蔵庫なんて1人で運べるわけないだろ!これ作った奴本当に正気か?信じられんぞ。



 『絵筆』


 差が激しすぎる。借り物競走のルールとして引き直しも含めて3回までなのでこれで確定である。

 絵筆なんて持ち歩いてる奴なんていないだろうし美術室まで行かないといけないのだが今からだと遠すぎて最下位が確定してしまった。



 そのまま昼時間に突入したが特に特出する事はなく強いて言えば鈴宮からのおかずが普通の弁当になっててちょっと苦しいぐらいだった。

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