【二月二十七日】 いなくなる日

 自分の命が終わる日を知っている生き物は、この世に一体いくらいるのだろう。そんなことを考えながら目の前の景色を見る。粛々と進む、式典。主役は年老いた旧型の潜水艦。そして一ヶ月もすれば、あそこに居るのは自分だ。

「短いような、長いような……よく分からないな」

 視線を外しそう呟けば、海風が言葉を攫っていく。掃海艇にしては長生きしたが、二十三年なんて人間ならばまだ人生の半分も終わっていない。

「足りないと言えば、足りないな。でも十分だ」

 最早、気になる事といえば、まだ完結していない漫画の続きくらいだろうか……久哉のことは弓哉ゆみちか長哉たけすけに託す。もう何も考えない。そう自分に言い聞かせて、もう一度、式典の行われているバースの方を見やる。人々はそれぞれの想いを抱え、一隻の潜水艦を見つめている。青い空の下、自衛艦旗が綺麗な箱の中に仕舞われた。


 自分の命が終わる時を知っているというのは、案外幸せなことなのかもしれない。



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