第17話 ここで、最初の謎に出会った際のハナシ

「終わったのか?」

「ああ。済んだよ」

 二階から顔を覗かせているアレクロスに、わたしは静かに答えた。

「来てもらえるか。聞きたいことがある」

 わたしは彼をネイスの病室に案内した。相も変わらず静かに寝息を立てている彼の傍らには、わたしが運び込んだ襲撃者二人が倒れている。意識は完全に失っているようだが、念のため当人が身に付けていたベルトを拝借し拘束もしておいた。

「こいつらか」

「ああ。あの薬ほんとに危ないね」

「使い方を間違えばな。薬などみんなそうだ。で、わたしは何をすれば?」

「面通しってやつかな。こいつらに見覚えある?」

 二人の顔はランプを置いて見やすくしておいた。

「こいつらがネイスを殺そうと?」

「ああ。おそらくこいつでね」

 わたしは外を警戒しながら、持っていた小さな布袋をアレクロスに渡した。襲撃者がネイスの前で取り出していたものだ。

「毒か?」

「多分ね。少し刺激の強い匂いがしたよ。預かっといてもらえる」

「分かった」

 袋を懐にしまいながら、アレクロスは灯に照らされた襲撃者の顔を検めた。

「…どうかな」

「この村の者ではないのは確かだ」

「なろほど。他には?」

「こっちの男だが…」

 部屋に入って来た男の方を指した。

「見覚えが?」

「ああ。以前、都からの帰りに襲ってきた奴の中にこいつもいた」

「それってマンガス団?」

「そうだ」

 この際だから、ここで聞いておくか。

「今更で悪いんだけど、そのマンガス団について教えてくれる?」

「何だ。以前は流していただろ」

「いちいち尋ねるのは迷惑と思ってね。それで?」

「近くの森を根城にしている盗賊さ。ここに乗り込んでくることはないが、街道を通る旅人や行商人が餌食になっている」

そこが奴らのテリトリーシマなんだね」

「ああ。この辺りの森を知り尽くしている。あちこちに前王国の砦や廃墟があって、そこを根城にしていると考えられる」

「討伐に踏み切った事は?」

「保安官たちが三度、森へ進攻を行ったが、どれも空振りに終わったそうだ」

「空振り?返り討ちもされずに」

「森の中では、こいつらの方が上手だ。それに、下手に保安官に手を出せば、王国から軍隊が派兵されることにもなりかねないからな」

「小賢しくやってるわけだ。でもそれだとおかしいね」

「何がだ?」

「ちなみにネイスだけど、仕事は何を?」

 眠る彼を示し、わたしは聞いた。

「こいつか?村長宅の庭師だ」

 庭師か。それなら、村長ともよく見知った間柄のはずだが…。

「そりゃ意外だね。さっき村長に会ったけど、彼を心配してる様子がなかった」

「あいつは誰にだってそうさ」

 苦虫を噛むアレクロスの表情がランプに照らされている。どうやら村長としても人としても彼の事をよく思ってないようだ。

「庭師ってことは、特に危険な森の中に入るようなことも本来ないはずだね」

「そのはずだ」

「じゃあ、彼はなぜ森の中にいたんだろ?」

「…」

 アレクロスはその疑問に答えられず、しばし沈黙が流れた後-

「おまけに、それだと彼が助かったっていうのも少し変だ」

「何が変なんだ。お前が助けたんだろ」

「一度襲われた後にね。つまり、そいつらマンガス団はテリトリーに入ってきた庭師一人を仕留めきれず取り逃がしたってことにならない?」

「…そうなるな。こいつは剪定鋏以外の刃物はからっきしのはずだ」

「何かアクシデント不測の事態でもあったのか。とにかくどれも不可解だ」

 盗賊のテリトリーシマに入り込んだ庭師。

 その庭師を仕留めそこなった盗賊。

 あと、村長の様子。

 アレクロスにはさっさと結論付けられたが、やはり気になるところがあった。心から案じていなかったのは確かだが、ネイスの事は妙に気にしていた。

 もし、これらの事象が全て繋がっていたら…、いや、まだそこ結論まで行くには、材料が足りなさすぎるか。

「考えるのは一旦止めよう。とりあえず保安官たちを呼ばないと」

「いいのか?お前も脱獄してる身だろ?」

「気づかれる前に戻れば問題ないさ」

「どうやってだ?」

 聞かれたわたしは、襲撃者の縛る際に見つけた銃を取り出し、窓の外へ狙いを定めた。

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ドライワンダーに遣う Aruji-no @Aruji-no

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