第7話 ここで、最初の村に入ったハナシ

 わたしが進む街道は、村の入り口へと伸びていた。

 丸太を組んで造られた拱門きょうもんがあり、そこをくぐり村の敷地内に入る。

 見たところ周辺に人影はない。

 見張りもいないのは、いささか不自然に感じられたが、今は彼を優先だ。

 周囲には田園地帯が広がっていた。

 金色に輝く"イネ"のような植物が生えている。

 麦にも似ているが、よくは分からない。

 見渡すも農作業中の者の影も見えなかった。

「誰かいないか!」

 声を張り上げながら、"イネ"の間を進む。

 次第に、小屋らしきものがちらほらと見え始めた。民家というよりは、納屋か馬小屋程度の大きさだ。中に人は?人はいないだろうか?

 その願いが通じたのか、小屋のひとつのドアが開き、年配の女性が出てきた。

「おい!そこの!!」

 発見の喜びからかなり乱暴に声をかけてしまった。

「いやぁ!」

 結果、女性は悲鳴を上げ、乱暴にドアを閉めてしまった。

 無理もないが、ここは何としても話を聞いてもらわなければ。

「すまない。落ち着いてくれ。あんたこの男を知らないか?名前はネイスだ」

「え?」

 覚えがあったか、ドア越しにも警戒が和らぐのを感じた。それでも恐る恐るといった具合にドアを開けた女性は、わたしがおぶるネイスを確かめた途端、血相を変えて飛び出してきた。

「ネイス!ネイス!どうしたんだい!?」

「森で賊に襲われたらしい。治療できるところはないか?」

 咄嗟だが、"病院"という表現は避けた。

「こっちよ。うちの旦那に診てもらうわ」

 心得のある者らしく、ネイスの状態を見て明らかに雰囲気や態度が変わっていた。

 ともかく、これで彼を助けることができそうだ。

 女性の案内で、わたしは村の中心部へと入った。

 途端に、血みどろの男を担ぐわたしは注目の的となったが、今はそれにかまける余裕はない。

「もう少しだ。頑張れ!」

 雑念を振り払うように、わたしはネイスを励ましていた。

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