第3話 ここを、任された際のハナシ

―話は少し遡る。


「何とかしてほしいがある」

 閻魔様がいう頼み事とは、端的に言えばその一言に尽きた。

「神になれとでも?」

「遠からずだな。俺のような立場としてではない」

 言いながら閻魔様は、懐から携帯を取り出した。

 孫たちが使っていたのと同じ機種に見える。神様も使っているのか?

「俺のじゃない。これが頼みたい世界だ」

 画面に映し出されたのは、地図だった。

 色褪せた古地図で、その形は明らかにわたしの生きていた世界のそれとは異なっていた。まったくの別世界なのだろうか?

「そうだ。創作世界ワンダーと呼ばれている。ちなみに、お前が生きた世界は俺が創った創作世界ワンダーだ」

 閻魔様は神様でもあった訳だ。

「神ではなく"創作者"と名乗っている。普段は死者の対応閻魔の役目を任せている者がいるが、お前は特別だったからな」

「なるほど。疑問がいくつか」

 読まれてるだろうが、ちゃんと口にして問いたい。

「言ってみろ」

「まず、この世界ワンダーの創作者もあなた?」

「いや違う。不在なんだ」

「不在?」

「ああ。今、この世界ワンダーには全てを観る神の視点を持つ者がいない」

「そうなった世界ワンダーはどうなる?」

「分からん」

 創作者神様にも分からないことが?

「もちろんあるさ。神のような力はあっても俺は神ではない。だから創作者な神を名乗らないのさ」

「その世界を任せたいというが、創作者としてでないなら、どのような立場で?」

としてだ」

「この世界ワンダーの人間として生きろと?」

「当たらずも遠からずだ。この世界ワンダーで生きてもらうが、今のお前のはそのまま引き継がせる。それを最大限に器も用意する」

「つまり、世界の真実を知った神のみぞ知る状態でこの世界に放り出されるという事か?」

「そうなるな。だから、ある意味世界ワンダーではない」

「立ち位置は創作者だとしても、ただの人間では意味がないのでは?」

「そうかもしれない。だが、他の世界ワンダーに新しい創作者を挿げ替えることは、そこの創作者自身でなければできない」

「では、なぜこのような事を?」

 閻魔様創作者は躊躇いながらも、改めてわたしに向き合い。

「…何とかしてやりたい。この世界ワンダーのため。そして、俺自身のためだ」

 そして、静かに事情を話し始めた。

「そもそも今まで、他の創作世界ワンダーの状況を知るなんて事はなかったんだ。その原因は今でも分からん。だが、この世界ワンダーを観て、俺の中の何かが揺れ動くものを感じた。もしかしたら、俺はこの世界ワンダーを、もしくはこの世界ワンダーの創作者を知っているのかもしれない。確かな記憶もない。俺もこう見えて数える気にもなれない程の時を生きているからな。だから、どうにかしたいと思っていた。そんな時にお前が迎えられたって訳だ」

 その世界ワンダーを何とかしたい。

 それに偽りはないようだが、先のはまだ別にある気がする。

「その通りだ。さっきも言ったが、お前の対応についてだ。正直な話、このような判断の難しい者が現れた時にどうするかを決めてなかったんだ。っていうか、創り手としてのというわけだ。恥ずかしながらな。時にはそれが原因で世界ワンダーを揺るがす程の矛盾メタが生まれることもある」

 つまり、わたしへの対処異世界転生はそれを回避するための新設定でもあるということか。

「体よく追い出すってだけとも言える。だが、今のところこれ以上の最善を思いつけない。創作者が聞いて呆れるだろ」

 自嘲気味な閻魔様創作者

「だが、どうか頼みたい」

 …。

「…引き受けよう」

「本当か?」

 分かるでしょ?

「…本当みたいだな。まさか、すぐ返事をもらえるとはな」

「親っさんの教えだ。信頼した相手の頼みはまず受けてやれって」

「俺を信じるのか?」

「神を信じたことはないが、あなた創作者は信じる。それに…」

「それに」

 親っさんから頼られたのが嬉しい。

「俺は見た目だけだぞ」

「それでもですよ。どこまでできるか分かりませんがね」

「謙遜するなよ。一応と判断して選んでもいるんだ」

「で、どのようにして行けば?」

「簡単だ」

 と、持っていた携帯を差し出す閻魔様創作者

「"ログイン入界"を押せばいい」

「簡単ですね。ちなみに、この世界の名前は?」

「ディス・プレ。というそうだ」

 携帯を受け取ったわたしは早速画面ログインに触れようとしたが…。

「どうした?」

「ひとつ条件を出しても?」

「条件によるな」

「ひとつだけ。を持っていきたい」

「持ち込みか」

「ええ。ひとつだけです。この世界ワンダーでは存在しない物だったとしてもひとつだけ持っていきたい」

「モノによるな」

「実際に見てもらえれば…」

「どこにある?俺が取ってこよう」

「わたしの書斎の机の右側の一番下の引き出しに入っています」

 すると、閻魔様創作者はどこに行くわけでもなく、そこでただしばらく目を閉じるだけだった。

「…これか」

 と、懐からそれを取り出した。

 どうやって?

「一応、神に近い立場だからな。で、何だこれは?」

 それは、紐を通した瓶ジュースの栓だった。

「別にこれならそれほど問題ないが。本当にこれか?」

「ええ。それです」

 それを受け取るわたし。

「思い出の品かなんかか?ただのキャップだろ?」

『ただのキャップじゃない。わたしの王冠クラウンなんです』

 それを首に下げたわたしは、改めて画面に指を添えた。

「…じゃあ、よろしく頼む」

「ええ、閻魔様。…いえ、親っさん。行ってきます」

 そしてわたしは、この世界ディス・プレ入ったログインした

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