幕間4※マイラ視点

学園主催の舞踏会が催される日。

私はハリー殿下にもらったドレスを着て、彼が用意してくれていた靴を履いて会場に向かった。


「これ、似合ってないよね…」


高級品のドレスを見下ろし、ため息を吐く。

ただの平民が着ても良いようなものじゃない。明らかに似合っていないドレスを脱ぎたくて堪らなくなる。

初めてやって来た王城はとても大きくて、入るだけで萎縮した。びくびくしながら中に入ると知らない老人が声をかけてきたのだ。

どうやらハリー殿下の代わりに迎えに来てくれたらしい。


「やぁ、マイラ」

「ハリー殿下…。こんばんは」


良い笑顔を見せるハリー殿下に頭を下げると「顔をあげてくれ」と言われる。

改めて見た彼はキラキラの王子様。

やっぱり自分がエスコートしてもらうなんておこがましい。今から断ろう。


「あの…殿下」


声をかけようとしたがきょろきょろとなにかを探し始めるハリー殿下に首を傾げる。


「ねぇ、アイリスを見なかった?」


彼女の名前を聞いて胸がどきりとした。

そうだ。

確か貴族の方は自分の婚約者をエスコートするもの。

そうなるとハリー殿下の相手はアイリス様なのだから自分の存在は邪魔になる。

解放してもらえるかもしれない。

そう思ったが夢物語だった。


「すみません、見ていないです…」

「そっか。気にしないで」


ここだ、と思って口を開いた。


「ハリー殿下はアイリス様をエスコートされるのですよね?」

「そうだね、アイリスエスコートするよ」

「え?」

「アイリスとマイラ、二人をエスコートしてあげるね」


にっこりと笑うハリー殿下。

貴族社会の事はよく分からない。だから二人の女性を同時にエスコートして良いのかも分からない。戸惑う私を置いて、ハリー殿下はアイリス様を探し始めた。

しかしどれだけ探してもアイリス様は見つからなかったそうだ。

イライラした様子のハリー殿下と一緒にいるのは怖かった。

余計な事を言ったらまた怒鳴られてしまう。

平民の私は黙っているしか出来なかった。


「なに?アイリスが先に入場をした?」

「はい。アイリス様はカイ・ハーバート様にエスコートされて会場入りしたそうです」

「僕がいるのに他の奴にエスコートされたのか!」

「……ええ」


執事の人は呆れたような顔をしていた。

何故そんな顔をしていたのか知ったのは会場に入ってからだった。


「マイラ!会場に行くぞ!」

「え?」

「アイリスに文句を言ってやらないといけないんだ!急ぐぞ!」


乱雑に手を引っ張り、会場まで連れて行かれた。



ハリー殿下とアイリス様の婚約が解消されている。会場内でその事を知らなかったのは私とハリー殿下だけだった。

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