幕間1※ハリー視点

僕の名前はハリー・エドワード。

国の王太子である僕にアイリスという名の婚約者がいる。

出来の悪い自分と違って頭が良く、美しく、なんでもそつなくこなす彼女が僕は苦手だった。だからだろう。彼女に対するストレスの捌け口として自分より出来の悪そうな人間を自分のそばに置く癖がついていった。


十六歳になった僕は国で一番大きな学園に入学をした。

そこでもアイリスは優秀だった。

新入生代表に選ばれテストでは毎回一位。

生徒にも先生にも慕われる彼女はまさに未来の王妃として相応しい人物なのだろう。

それが気に食わなかった。羨ましかった。


平民マイラと出会ったのは偶然だった。

たまたま訪れた中庭で転んだ彼女を助けたのだ。それがきっかけで話すようになっていった。

彼女は平民で、頭もあまり良くない。その他にも優秀な部分も見当たらない。だからこそ、僕はマイラと過ごす時間が楽しかった。

婚約者を大切にしないといけない気持ちはあるがアイリスは僕以外の多くの人間に愛され大切にされている。

別に僕が大切にする必要はないだろう。



「そうだ、アイリスと結婚した後にマイラを愛妾にすれば良いんだ」


ある日、そんな結論に至った。

難しい公務は全てアイリスが行ってくれる。僕はお飾りの王として表に立ち、裏ではマイラと過ごせばいい。

仮にも王様なんだから愛妾の一人や二人、アイリスだって周りだって許してくれるはずだ。ただ王妃となるアイリスとの子作りも必須になってくる。

見た目麗しい完璧なアイリスをベッドの上で屈服させるのはさぞ楽しいだろう。

これはいい考えだと一人笑っていた。


その頃には僕とアイリスの婚約の解消が成立しているとも知らずに。


ある日、僕は父上と母上に呼び出しを受けた。

どうせいつも通りの説教だ。

アイリスに仕事を押し付けるなとか。

アイリスを気にかけてやれとか。

アイリスばかりを頑張らせるなとか。

そんな事を言われているのだろうと碌に話を聞いていなかったのが大きな間違いだった。


この時、父上と母上が言っていたのは。


「お前とアイリス嬢との婚約を解消した」

「全て貴方のせいだからね」


だったのに。僕はそれすら聞き流しアイリスとマイラと三人で過ごす未来を頭の中に描いていたのだ。


王城でアイリスを全く見かけない事に気がついたのは父上達に呼び出しを受けてから一ヶ月も経った後の事。


そしてアイリスが大好きな相手と婚約して楽しい日々を過ごしている事を僕が知るのはもうすこし後の話だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る