第2話。醤油とソースに塩ときどきマヨネーズ

「卵ってどう思う?」


「何だまたそれは」


「卵だよ。タマゴ」


「……タマゴってタマゴだろ?」


「ああ、タマゴはタマゴさ」


「タマゴねぇ……」


 あの丸くて割れやすい意外と大きさにばらつきがあって値段が安いと思いきやあれちっちゃくない? なんてことがままあるあれのことか。


「うん。君はさぁ。人はタマゴから生まれると思うかい?」


「俺の思ってたタマゴと違う」


「同じさ。人はどうやって作られ生まれてくるか知っているだろう?」


「そりゃまあな。哺乳類ならみんなそうなんだろ」


「どうやって?」


「合体」


「合体?」


「こう、ガッチャンコとな」


「それで?」


「タマゴだよ」


「ふぅん? まぁ、君が勉強不足だということだけはよく分かったよ」


「……マヨネーズってそういえばタマゴだな」


「何だい? 君が私に気を使ったことくらい分からないとでも思っているのかい?」


「何言ってっか分からないな」


「ふむ。ならいっそのことタマゴに戻ってみるというのはどうだろう」


「それはいい。賛成だ」


 促されるがままタマゴになる。


「いやタマゴになるってこれもう意味わからないってレベルじゃ――タマゴだ……」


 目の前にはタマゴがいた。


「あーん」


「……いでっ」


 その時! 口をあけないこちらの唇に貫通した箸が突き立った!


「いやおま――うぐっ」


 無理やりタマゴを詰め込まれては窒息しそうになる自分。


「お、おまっ……」


 いいながらパサパサなそれをなんとか飲み込もうとして口を噤んでは格闘すること数秒。何とか残りの余生を過ごすことに成功したようだ。


「どうだい? タマゴになった気分は」


「生まれ変わった気分だな」


「そこはこれから生まれると言ってほしかったかな」


「いやこれから生まれる気分ですって意味わからないだろ」


「タマゴとはそういうものさ」


「不思議だな」


「不思議だねぇ」


「……ごちそうさん」


「いえいえ。間接キスに礼なんて」


「いつの間にそんな常識が生まれたんだ……」


「君と私の共同作業。そして生まれる新たな常識。魅惑の音色だね」


「どっかの官能小説みたいだな」


「ははっ。それはいい。読んでみたいよ」


 いつものようにチャイムが鳴り響く。


「さて」


 会長はその後の行動に淀みがない。


「なぁ」


「何だい?」


「あのタマゴ、何のタマゴだったんだ?」


 何故か少しだけ気になって聞いてみた。


「ああ、あれかい? あれは今朝私が生んだやつさ」


 えっへん。何故そのよう物言いで偉そうな態度が取れるのかは分からない。


「あぁ……お前今日あの――」


「タイヨーで十個入り九十九円だったやつさ」


「左様か……」


 何故かちょっとだけこちらを見る目がトゲトゲしい。


「他に言うことは?」


「……なんか。わるかった」


「いやいや、いいんだよ。私も今日あの日で少しばかり情緒が不安定なんだ」


「……お大事に」


「それだけかい?」


「……何だ。なんかあったら言え」


「うん。そうするよ。ほらっ」


 飛んでくる紙パック。何故か昨日と同じフルーツベジタブルだがマスコットキャラクターのベジタブルくんがサングラスをかけている。


「どこに情緒不安定な部分を出してんだよ……」


「放課後。生徒会室にくるように」


「えぇ……」


「何でもするって言っただろう?」


 ……言ってないけど。言ってないけど今日だけは少しだけ協力するのも悪くないのかもしれない。


「まぁ、力仕事ぐらいなら、な」


「ああ。任せたよ。相棒」


「アイアイサー」


 控えめに言ってパパラパーとか言ったりしないけど、とりあえずチャイムが鳴りだしたので至急魔法の絨毯とか出てこないものだろうか。

 

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