第34話 理由
あれから数日があっという間に過ぎ、僕は大忙しだった。というのも、身から出た錆といえばそうなのだが、事故処理の現地確認や事情聴取やら、相手先に謝罪に行ったりで引っ張りだこだったのだ。それと事故の件で僕に非がある事が、判明した為に車の修理費の請求が一応示談として決まった。相手が良心的な人で良かったと心からそう思う。
それらがあらかた落ち着くと、今度は家庭内の問題が山積みで、愛の行方を探し出したり、僕はアルバイトを探す事になった。事故の示談金は保険から支払われるそうだが、家庭を圧迫した事には変わりがないのだから。
そんな中、僕は愛の中学時代の友達から「ゲームセンターで見た」との情報を頼りに早速その場所へと自転車を走らせていた。そもそも、愛が電話に出てくれさえすればこんなに手間が掛からなかったのになと一人溜息をつく。
そのゲームセンターは、あの大通りの直ぐ傍にあった。あの角を曲がればもう少しだな。角を曲がる瞬間、花束を抱えたお婆さんとすれ違う。
「おっと、ごめんなさい」
僕は簡単に謝って愛のいるゲームセンターへと急いだ。さっき連絡貰ったからまだ居てくれる事を願う。
ゲームセンター内では、大学生風の若者とサラリーマン風のおじさんがちらほら見られた。まあ、平日の昼間にそんなに人がいる訳ないよね。実際僕だって色々あって学校を休んでいるけれど、本来は学校や仕事に言っている時間だ。これだけ人がいなければ探しやすそうだ。
僕は1階から上の階へと舐めるように店内を見渡しながら探して行った。すると、プリクラ機が建ち並ぶ三階フロアで聞き覚えのある声が聞こえてきた。このエリアに一人で入るのは勇気がいるが致し方無しと腹を決めて進んで行く。
「え~、不細工に写ってるじゃん。もう一枚撮ろうよ~」
「何言ってんの、愛は可愛いから普通じゃつまんないじゃん」
楽しそうに会話している二人の女の子を捉えた僕は徐に声を掛ける。
「愛! 探したよ!」
先程までの楽しそうな雰囲気はどこへやら、急にバツが悪くなった愛は項垂れていた。
「あんた誰? 愛の元カレとか?」
愛の友達だろうザ・ギャルと言っても過言では無い子が僕に向かって訝し気に聞いて来るのを愛は手で制した。
「お兄……兄貴何しに来たの?」
「迎えに来たに決まってる。一度家に帰ろう、母さんも待ってる」
愛は怒られると思ったのだろうか、必死に首を振って帰ると言ってはくれない。そんな愛をみていた友達が僕に突っかかって来る。
「あんた、愛の兄貴なんだろ⁉ だったら何で、もっと妹の事気にしてやらなかったんだ」
「だから……今、迎えに来ているじゃ無いか」
「そう言う事言ってんじゃなくて、何で愛が家出してるか知ってんのかって聞いてんだよ」
そう言われて初めて愛が何で家に帰って来なくなったのか考えた。僕はただ単に暗い雰囲気のする家に帰りたくなかっただけだと思っていたけれど違うのか?
「ごめん……知らない。だから、教えてくれないか?」
僕の問いかけに再び愛は首を振るのだった。そんな態度を取る愛に対してつい、語気が強くなる。
「何でだ? どうして教えてくれない? 言ってくれなくちゃ分からないだろ?」
とうとう、愛は咽び泣いてしまった。
「ちょっと、あんたこっちに来な。愛はそこで待ってなよ」
「
僕はどうして良いか分からず、慌てふためいていると愛から未来と呼ばれた子が僕の手を取って愛から遠ざける。
「あんた、サイテーだよ。うちは確信したね、あんたモテないでしょ?」
図星を突かれて動揺するも気を取り直して聞き返した。
「そ、そんな事より教えてくれる為に愛と離したんだよね?」
「あたしが言うのもあれなんだけど、あんたの家どうかしてるよ。愛ね、母親が連れて来ていた男に襲われかけたんだってさ」
「なんだって⁉ でも、母さんがいた筈じゃ?」
そんな事があったなんて全然知らなかった。愛が頑なに言いたがらなかったのはこういう内容だったからか。
「丁度お風呂に入っていたんだって、愛も来ている事知らなくって自室で寝ていた時にって――。後で相談をしようとはしたらしいんだけど、やっぱり怖いじゃん報復とかあったら」
「報復って――」
「娘に手を出す奴だよ? 無いとは言い切れないじゃん。それに一番安心出来る家まで知ってるんだよ? 学校まで知ってるかもしんないし、待ち伏せとかされたらお手上げじゃん。そう思うと、中々言い出し辛い事じゃん」
確かに、未来という子の言う通りなのかもしれない。それに内容が内容なだけに、家族には特に言い出し辛いのかもしれない。僕が母さんの情事を嫌悪したように――。でも、今度は理由を知っている僕が愛の傍にいてやる事が出来る。考えよう、より良き道を。
「理由は分かった。でもやっぱり、一度話す必要がありそうだ家族で。大丈夫、今度は僕が……俺が愛の傍にいるから」
未来は何を勘違いしたのか若干顔を上気させて僕に息巻いていた。
「あ、あ、あんた、それ自分で格好良いと思ってるわけ⁉ あ、あたしにはそんな手通用しないんだから! 残念でした!」
「え? 何の話?」
「な、何でも無いっての! とにかく、愛次第なんだからね。無理やり帰らすのはあたしが承知しないんだから!」
俺達は愛が待っているベンチへと戻った。理由を聞いた事を愛は知っているだろう、そこを改めて言う必要は無いな。
「もう、一人じゃないよ愛。今度は俺が一緒だ。一度帰ろう? そしてこれからの事を考えよう」
俺はそっと手を愛に差し出すと、震える手でしっかりと握ってくれたのだった。
「お兄ちゃんが、俺って言うのなんか違和感ある」
「愛こそ、兄貴だなんて言ってただろ」
そうして俺達は互いに微笑むのだった。それから、未来が愛と話があるとかで俺は先にゲームセンター前で待っていると、話が終わったのか愛が俺の元まで駆けて来た。
「それにしても愛には良い友達がいるんだな」
「お兄ちゃん友達いないもんね。見た事無いし、あと未来は私の友達なんだから、お兄ちゃんには譲らないから」
はいはい、と軽くあしらって自転車の後ろを俺が叩くと愛が腰を降ろす。それを確認して、自転車を走らせた。家までそれなりに距離がある。このまま無言て言うのもな。
「なぁ、友達の話って何だったんだ?」
「あー、未来の事気になるんだ。内緒だよ――」
それを皮切りに友達の話を帰路に就くまで愛は話し出した。そんなつもりで聞いた訳じゃ無いけど、まあ愛が気落ちしていないならそれで良いかと俺は耳を傾けるのだった。
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