ゴールとはすなわち……

@owlet4242

ゴールとはすなわち……

「はぁ、はぁ、くそっ……、ダニー、グレッグ……、お前らのためにも負けないからな!」


 肩で息をしながら、俺は今はもういない仲間たちの名前を呟く。


 古代文明が遺した難攻不落の迷路。そのゴールには恐ろしいほど沢山の財宝と、古代文明のテクノロジーを使ったオーパーツが眠っているのだという。

 その触れ込みに惹かれ、今までこの迷路には数々の冒険者や探検家が挑み、その命を散らしていった。


 俺も、そんな迷路に挑んでやろうと、探検家仲間のダニーとグレッグを誘ってこの迷路へとやってきたのだった。



◇◇◇



「おーい、○○!」


 迷路の入り口で俺が支度をしていると、そこに仲間の一人であるダニーが手を振りながらやって来た。


「おお、ダニー! 来てくれたんだな!」


 その姿を見て俺は歓喜の声を上げた。

 古代文明の迷路に挑むのは命がけだ。すでに探検家としての名声を得ていたダニーは、命のリスクを犯してまでここに来ることはないかもしれないと思っていたのだ。


「へへっ、当たり前よ! この古代文明の迷路に挑むと聞いて、助けない訳にはいかないからな!」


 そして、力強く俺の肩に手を置くダニーに、俺も彼の肩に手を置き返す。


「ありがとう、ダニー! 絶対にグレッグと三人で古代文明の宝を見つけよう!」

「ああ!」


 そして、俺たちは二人ならんで迷路の入り口を見上げる。石組で造られたその中央には古代語で「絶望の迷宮への入り口」と大きく彫られ、周囲には小さな文字で、この迷路に関する触れ書きが刻まれている。


「この迷宮の最奥に立つ者、我らの遺産と大いなる絶望を得るだろう、か」

「へっ、俺たちをビビらせようったって無駄さ。俺たちは百戦錬磨の探検家なんだからな!」

「その通りだ、ダニー。俺たちは必ずこの迷路を突破してみせる!」


 そう言って俺とダニーは固い握手を交わした。


「おう、俺抜きでずいぶんと盛り上がってるなぁ」


 すると、その背後から耳慣れた声が響く。振り返るとそこにはもう一人の仲間、グレッグが立っていた。


「グレッグ! もちろん君も込みさ、頼りにしてるよ」

「やっぱりお前がいないとな!」


 俺とダニーはグレッグを招き寄せて、三人でがっしりと肩を組んだ。


「へへっ、じゃあ三人でいっちょここのお宝を手に入れるとしますか!」

「ああ!」

「おうよ!」


 そうして俺たち三人は意気揚々と古代文明の迷路に乗り込んだのだ。



◇◇◇



 そして、その結果がだ。

 迷路には数々のトラップが仕掛けられていた。十重二十重に張り巡らされたそれを避けるのはプロの探検家である俺たちにも困難を極め、結局ダニーとグレッグはその犠牲となった。

 ダニーは侵入すると時間差で扉がしまる部屋に閉じ込められて、吹き出した強酸性の霧に全身を溶かされ、前も見えない状態のまま槍のトラップで串刺しにされた。

 グレッグは落とし穴のトラップを回避するためにロープを壁にかけたが、そのロープを飛んできたナイフに切られ奈落の底に落ちていった。

 俺にはそれをどうすることもできなかった。このトラップの山では迂闊に動けばこちらも死ぬのだ。

 実際に、俺も何度も命の危機に陥っている。服はもうボロ切れのようだし、体も擦過傷や火傷などであちこちガタが来ている。

 トラップを回避するためにでたらめに動き回ったので現在地やルートも正確に分からない。マッピングした地図も少し前の罠で燃やされてしまった。

 それでも、遺跡の規模から考えて、この迷路ももうすぐ終わるところまでは来ているはずなのだ。

 俺は慎重に歩みを進める。曲がり角に来る度に拾った石ころを投げて進路の安全を確かめる。石ころが無事なら、今度は紐を結んだ靴を投げて、より重くて大きなものに作動する罠がないか確かめる。

 そうして安全を確かめた道を更に慎重に歩く。もうどれだけ繰り返したか分からないその作業を更に15回繰り返したとき、それは俺の目の前に現れた。


「……! つ、着いた! 俺は遂にやったんだぁ!」


 俺の目の前には巨大な両開きの扉が現れた。扉の上には古代文明の文字で「ゴール」を意味する言葉が記されている。

 扉に慎重に足を進めて耳を近づける。軽くノックして音の響きを確かめる。これを扉の周囲の壁にも行う。


「罠はないな……。ここまでこれた探検家へのせめてもの労いって訳か」


 俺は扉の取手を握るとそれを勢いよく引いた。鍵はかかっていなかった。


「おお……! これは!」


 扉の中で俺を待ち受けていたのは筆舌に尽くしがたい宝の山だった。

 金貨銀貨や宝飾品は数えきれず、それ以外に書物や古代文明の装置のようなものもある。然るべきところに持ち込めば、これらも莫大な富を呼ぶだろう。


「ああ……なんて素晴らしい。この感動を君たちと分かち合えないことが悲しいよ、ダニー、グレッグ」


 俺は今は亡き友達の冥福を祈り、それからすぐに宝の検分を始めた。


「これでよし……と」


 一時間ほどかけて検分を終えると、俺は価値の高そうなものを選んで鞄に詰め込んだ。

 ここにある全ての宝を回収するのは不可能だ。何度も往復する必要があるだろうし、そのための人足を雇う金を捻出しなければならない。

 そして、俺はこの迷路から脱出するための出口を探し始めた。


 しかしーー


「……おかしい、どこにも出口がない。この文明の遺跡に残された迷路には必ず脱出用の隠された出口がセットで設計されているはずだ」


 ーー肝心の出口が見つからず俺の脱出は躓いていた。


「くそっ、ここまで来て出られないとか勘弁してくれよ!」


 そう言って俺は床や壁の至るところを調べてみるもどこにも出口に繋がりそうなところはなかった。


「くそ……ダメだ……」


 疲れ果てた俺は床にへたり込み思わず天を仰いだ。


「ん?……あれは……」


 その瞬間、俺は天井に彫られたある文字に気が付いた。その古代文明の文字を読んだ瞬間、俺は全てを理解し、そして絶望した。


「ああ、そうか……そういうことだったのか」


 俺が見上げた天井、そこには「絶望の迷宮への入り口」と扉の前に大きく彫られていたのだった。





《解説》

「迷路」と「迷宮」


迷路と迷宮は似た言葉だが、その意味は違う。


迷路は路(みち)なので、入り口から入ればその先に必ず通り抜ける出口がある。


迷宮は宮(たてもの)なので、入り口と出口は同じ場所である。有名なミノタウロスのラビリンスも奥のゴールはミノタウロスが待ち受ける行き止まりで、ミノタウロスを打ち倒した英雄は糸を手繰って入った入り口から脱出した。

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