【KAC202110】言われた事しか出来なくても目の前の事しか出来なくても!それを最後までやらないと気が済まないのが俺なんだよ!!大企業が相手だろうが神が相手だろうがゴールするまで諦めてたまるか!!

@dekai3

幸せにしてくれよ、高橋。

「未だに疑問なんだけど、なんで俺と結婚したの?」


 大きくなったお腹を撫でながら、育休を取って一緒におうち時間を過ごしている高橋にずっと疑問に思って居た事を聞く。


「今更聞くの、それ?」


 高橋は海外から取り寄せたソーセージと一個ン百円する高級な卵を使用したハイコストな朝食をこれまた無駄に凝った盛り付けで皿に乗せつつ、俺の問いに応える。


「いやだってお前、あんだけ社内の女の子に手を出しては恨まれていたけど、それでもお前を慕ってくれている女の子はそこそこ居たじゃん」


 高橋と結婚後直ぐに退職した会社の事を思い出し、俺に高橋の愚痴を言いつつも高橋の好きな物や良く行く店を聞き出そうとした女の子は何人居たのかを指を折りながら数える。パッと思いつくだけで六人は居たし、行動に移せなかった子を含めるなら十人以上は居るだろう。

 高橋は女の子に対してとても高橋な奴だけど、それでも一応顔やスタイルはいいし愛嬌があってどこか憎めない部分もある。だから高橋なら俺みたいな背も胸も無ければ正確に可愛げが無いなんて言われている俺女と結婚なんかしなくても、もっと他に良い相手が居たんじゃないのかって思ってしまう。


「プロポーズの時に言ったじゃん?」


 そんな俺の不安が伝わったのか、高橋は一旦調理の手を止め、俺が腰かけているソファの隣へと座り、肩を寄せながら囁く。

 昔は高橋のこういう行動に イラッ とした物だが、それが今では不思議と心地が良い。


「俺と一緒にピリオドの向こうへ行こうぜって」


 そして高橋は俺の耳元であの時と同じ言葉を紡ぐ。

 あの時、俺達は高橋がこっそり俺に作らせた【世界を変える物ワールドブレイカー】を使う事で世界のリセットから逃れ、そこから実は管理者側どころかこの世界を作った神だった山本さん大きく、そして真なる者さんの協力を得て世界に一つだけ残された会社のオフィスで状況説明を受けていて、山本さんは神ではあるけれどこの世界に介入するには自分の存在のレベルを下げないといけないとかで幽霊になっていたらしく、イトさんに取り憑いていたのは管理者の端末に取り憑く事で管理者がいつ動き出しても対応出来る様にするのと、姫プレイをしてみたかった趣味の一挙両得との事。ついでに全裸も趣味らしかったんだが俺達がリセットされていない事に気付いた管理者が攻撃を始めたらしくてオフィスの壁にヒビが入り始めたから今はそんな事につっこんでいる暇は無いって事でオフィスの性能の低いパソコンと生身に戻った事で効率の落ちた俺の体で必死こいて管理者へ対抗するプログラムを組み始めていたんだけど、高橋が「これ間に合わなくない?諦めないの?」ってふざけた事を抜かすから、思わずブチ切れて「うるせぇ!言われた事しか出来なくても目の前の事しか出来なくても!それを最後までやらないと気が済まないのが俺なんだよ!!大企業が相手だろうが神が相手だろうがゴールするまで諦めてたまるか!!」って叫んだら、高橋が珍しく真面目な顔で「じゃあ俺も諦めないわ」って言い出してパソコンと耳の穴をLANケーブルで繋ぎ出して、とうとう頭が狂ったかと思ったら山本さんinイトさんが「意識がある状態での生体CPU化は危険ですよ高橋さん!」って焦り出して、そういや亡くなった人の脳をCPU化する技術も開発したなって思い出していたら「でも、ここのパソコンは五十島の内面世界みたいなもんじゃん?だったら今迄作ったのを超えるの無理だし、力を合わせなきゃ」って絵面はまぬけなのにかっこいい事言うから、なんかそのかっこ付けがムカつくし有効活用するわって高橋の脳とパソコンを繋いだら高橋が「み゛っ」って言って白目剥いて震え出して「ちょ、止めて」とか言ってたけど、無視してオフィスが徐々に崩壊する中「俺がこんなに死に物狂いで必死に作業しなきゃいけないのは全部高橋が悪い。だからお前も苦しめ」ってノリノリでめちゃくちゃ楽しく作業して、そしたらなんか俺の体とパソコンと高橋が光り始めて山本さんinイトさんが「これが人の可能性…互いに補い神をも超える…」とか言ってたけど構わず作業して、【世界を変える物ワールドブレイカー】を超える【世界を創造する物ワールドクリエイター】を作り出してそっちが壊すってんならこっちは壊した側から作ってやるぜ!クリエイター舐めんな!!って残り俺とパソコンと高橋と山本さんinイトさんの分しか残っていなかった世界を光の膜で包み込み、そのまま光を広げて管理者が【世界を変える物ワールドブレイカー】をどれだけ使おうが【世界を創造する物ワールドクリエイター】の方が早く壊された部分を作り出す状況にして完全勝利してやったところでようやく生体CPU化を解いてやった高橋が「あー、死ぬかと思った。死ねないけど」って言った後、俺を見ながら「やっぱ五十島おもしれーわ。俺と一緒にピリオドの向こうへ行こうぜ」ってポケットから指輪を取り出して言うもんだからその場の勢いで「後悔すんじゃねーぞ」って言って指輪を左手の薬指で受け取ったんだった。




「いや、分かんねえよそれ。合コンの時の決めセリフじゃなかったのかよ」

「あっれー? おかしいな?」


 それからは500年前に元通りになった世界で高橋と勢いで体を重ねて一発で妊娠して新部署立ち上げたばかりなのに育休は困るって言われたから暫くは在宅ワークするって話で会社とは話が付いている。

 イトさんはあれからずっと前のおとしやかなイトさんのままで、取り憑いていたはずの山本さんの影は無い。もしかしたら山本さんはもうこの世界に居ないのかもしれないが、なんとなくまだ女体なりきりプレイをエンジョイしている気がするのでイトさんの前で着替える時は気をつける様にしている。

 そして高橋は俺の妊娠が分かってからは物凄く真面目になって仕事をし、他の女の子に手を出さなくなった上にちゃんとこちらの事を考えてクライアントと話をしてくれるようになった。

 それでかなり大口の契約をいくつも取り付け、俺がそれをあっさりと全部納めたので会社から二人とも育休に入って欲しいと言われたのだ。流石に一部署で会社全体の昨年売上の十倍を叩き出せば扱いは変わるわな。

 という事で俺は高橋の妻になり、五十島から高橋へと姓が変わり、お腹も大きくなって(ついでに胸も少し大きくなった)、こうして高橋と二人でおうち時間を過ごしている。

 高橋は相変わらず高橋だけど、一応こいつは500年も俺を待っていてくれた奴でもあるので悪い気はしない。だけど、やっぱり言動がいい加減なところがあるから困るんだよな。ちゃんと父親をやれるんだろうか。


「俺を【超越者】から普通の人間に戻したり、この作られた世界を破壊して俺達だけの新しい世界を作ろうぜって意味じゃん?伝わってなかった?」




「は???」


 思わず、声が出た。

 いやいや、分かるわけないだろそんなん。そんな前からそんな事言われても気付かねえよ。ピリオドってそういう事かよ。あの曲からのパクリじゃなかったのかよ。もっと分かる言葉で言えよ。

 でもまあ、これが高橋なんだから仕方ないか。なんだかんだで最後はやってくれるし、こうして初めての出産で不安な俺を気遣ってもくれる。そりゃあ色々と言いたい事はあるけど、俺もそんな完璧な人間じゃないしな。

 とりあえず、お前はお前の出来る範囲でいいから俺と子供を幸せにしてくれよ、高橋。

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