疑うべきは世界か、己の常識か。

 設定や世界観の面白さは他のレビュー投稿者の方々がおっしゃる通りなので、私からは別の切り口から本作の魅力を伝えさせていただきたいと思います。

 まず、本作は一話一話が非常にスマートな文章で構成されています。
 一話における文量が約2000~3000文字であるにも関わらず、心情や情景描写が過不足なく纏められているので、あえて「読みやすい」という言い方を使いませんでした。
 読み手側の負担とならないよう不必要な表現、文章を削りつつ、自身の書きたい事も書く……この両立は中々難しい事だと思うのですが、本作の作者様はものの見事にやってのけています。情報が欲しいと感じたタイミングではしっかりと文章が書きこまれていますし、ここまで読者に寄り添った作品は中々お目にかかれないのではないでしょうか。

 世界観の面白さで言えば、物語の進行と合わせて変化していく世論や人々も見どころのひとつ。とりわけ本作ではサブキャラクターやモブ、背景の使い方が巧いのもあり、メインキャラクターと接する中で彼らの中にある思想や考えが見えてくるのも面白いところです。
 そんな彼らがメインキャラクターを担う人物たちと接し、互いに影響を与え合っていく……地の文やセリフから伺える血の通ったやりとりからは、彼らもまたこの世界で生きているのだという事を感じられる筈です。
 そしてそれが作品の世界観構築に繋がっているというのは、見事と呼ぶ他ありません。

 長々とレビューを書かせて頂きましたが、最後にひとつだけ。
 後半を超えたあたりで描写される戦闘シーンは必見ですよ。

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