第3話 感覚共有薬 その名はサンダーソニア


 その薬に使われている成分のほとんどは地球由来のものらしいけど、それを加工するのは宇宙の技術らしくこの会社で作れるのは金光さんとそのチームに所属する宇宙人3人だけらしい。


 成分まで宇宙のものじゃなかったのはほんとによかった。


 だって未知のものを体に入れるなんてのは怖いし、さすがに安全性確保できなくて売り出せない。

 国も認可しないだろうしね。


 この薬。

 利用の仕方によっては本当に素晴らしいものだって分かるけど、これ悪用されたりする可能性も考えたらやっぱりまずいんじゃないかなぁ?


 金光さんは夜のお供に!っておしたいみたいだけど、一般の人が簡単に手にできるのはちょっと怖いよ。


 まあ健康食品やグッズを扱ってる会社だから、中には滋養強壮や精力増進剤とかラブグッズの販売や卸もしてるけど。


「こんなものを嬉々として開発してる会社だとは知らなかったよ……」


 ようやく効果が切れたのは服用して三十分後。ぐったりと椅子に座って出てきた感想がこれだった。


 黒岩の苦しみと痛みを共有して、乱暴に床に脱ぎ捨てられた着圧ストッキングとハイヒールを眺めながらあたしは大きなため息を吐く。


 なんか失ったものが大きい気がする。


 恋人でもない相手と感覚を共有して、懇願されるまま目の前でストッキングを脱ぎ素足を晒すなんて。


 急いでたからもしかしたらぱんつ見えてたかもしれないしスカートも捲り上がっていたはず。

 それにストッキングだって電線したり破れてたりもするかもだし。


「嬉々として作ってるのは会社じゃなく宇宙人だ」

「……なるほど、宇宙人め」


 しかし。


「なんで実験台にあたしが選ばれたのか分からないんですが?」


 そもそもあたしの存在を金光さんが把握していることが信じられない。

 開発部の研究者はエリート中のエリートで、研究室に籠っていてほとんど表に出てこないんだよ。

 だから面識もないのが当然で。

 あたしも今回初めて金光さんと会ったし。


 噂はめちゃくちゃ会社内で流れてる有名人なので名前は存じておりましたが。


「なんであたし?」


 金光さんに聞きたくても彼女はあたしたちの観察を終えて嬉しそうに研究室に戻ってしまったので黒岩に説明してもらわないと分からない。


 黒岩も守れなかった尊厳を惜しんでいるのか考える人の体勢で固まっている。


「悪い……」


 絞り出すようにして黒岩が謝罪するのでおいマジかよと血の気が失せた。


「え?なに?もしかして黒岩があたしを推薦したとか言わないよね!?」

「違う、そんなことするわけないだろ」


 なら。

 なんで?


「おれの同期で割りと仲がいい異性だから目をつけられた、と思う」

「は?」


 なに。

 その理由。


「黒岩ってあたしの他にも仲いい同期の女の子――」


 あ。

 いないや。


「黒岩、女の子と話すの苦手だからなぁ」

「苦手というか会話が続かないんだよ。おれずっと男子校だったから」

「黒岩の中ではあたし異性枠じゃないからね」

「…………」


 オタクを隠さない女なんて黒岩にとって女じゃないんだろう。

 早いタイミングでそういう対象じゃなくなったから普通に話せてるようなとこあるからなぁ。


 でもよくよく考えたらこの感覚共有薬ってさ、ネットの二次創作とかでよく使われるネタとかにあるやつじゃん?


 ”らぶふる”の二次創作でも似たようなやつがあって、ほのかちゃんと錦くんがその効果でちょっとエッチな展開になったりするようなのを漁って楽しんだこともあるんだけど。


 実際体験してみたら最悪なんですが?


 やっぱりああいうのは創作で楽しむものであって現実に持ち込むのはよくないんだな。

 そもそも黒岩とどうこうなろうなんてあたしも思ってないし。

 想像もしたくないんだけど。


「この実験っていつまでやるわけ?」

「……金光さんが満足するまでだな。多分」

「宇宙人が満足?」


 ということは飽きてしまうまで面白くもない結果を出し続けるか、一度で満足できるほどの素晴らしいリアクションができればすぐに解放されるってこと?


 いや後者は絶対「もっとだ!もっと寄越せ!」ってなるからやってはいけないやつだと思う。


 前者のプランでいこう。

 うん。

 そうしよう。


「慰めにもならんかもしれんが、この実験に付き合っている間は特別手当がつくって話だから」

「特別手当!?」


 詰め寄って聞き出したところによると普通に残業するよりも結構な額が与えられるらしくて、あたしの目が¥マークになって輝いたのは言うまでもないよね。


 これで来月のイベントに心置きなく課金できるではないか!


 ほくほくしながらガッツポーズをしているあたしを黒岩がどんな顔で見ていたのか知るよしもなかったよね。


 当然。


「サンダーソニアを服用している間、桐は営業部から開発部に借りだされてる形になるから出社はこっちに来るようにな」

「OK!ってかサンダーソニアってなに?」

「……感覚共有できる薬の商品名だ」

「へぇ」


 なんかアニメとかゲームに出てくる技名みたいだけど、確かお花の名前だったはず?


「ちょっと待て」


 スマホを使って検索してくれた画面には鮮やかなオレンジ色のお花が映っている。大きく膨らんだスカートみたいなお花はつやつやの緑の葉の間から一輪ずつ下がって咲いていて可愛らしい。


「なんでサンダーソニアなの?薬の色ピンクだったよね?」


 どうせ花の名前をつけるなら薬の色とかイメージに合わせた方がよかっただろうに。


「それの花言葉が”共感”だからだな」

「へぇ。花言葉。ロマンチックだね」


 説明してもらえればなるほどと頷ける理由。

 そうなるとパッケージにはサンダーソニアのお花のデザインがされるのかな。売り出す時には花言葉も添えて。

 ああでも液体で売り出すのか、錠剤で売り出すのかでも変わってくるよね。


 新しいものを世に出すのってワクワクするんだよなぁ。


 しかしこれを一般発売していいのかどうか。

 そこが問題なんだけど。

 結局GOサインを出すのは会社と国なんだから、平社員のあたしの個人的な感想は今は胸に秘めておこう。


 そうしよう。





 


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