Previous summer

32.灼熱のオアシス


 暑い夏がやってきた。


 ギラギラ光って素肌を焼く太陽、日差しが照り付けるコンクリート、暖まった空気。汗が止まらず流れ続けている。


「なんでこんな日におつかい……お母さん、暑いからって私に頼んだな」


 それに気付かず、「アイス一つ買っていいよ」の一言でまんまと騙された。アイス一つじゃ足りない。こうなったら高価な大きいアイスを買おう。そうしよう。


 だらだらと歩きながらスーパーを目指す。


 駄目だ、日陰で休憩しよう。この先には大きな木がある。そこなら休めそうだ。もう少しで見えてくるかなというところで、目の前を猫が横切った。正確には、視界から消える前に私に近付いてきて、足の上に乗った。


「なんで!」


 人の靴を踏みつけるとは態度が大きいと思ったが、どうやら地面が暑くて歩きたくないらしい。コンクリートを前足でちょんちょんと触っては一瞬止まっている。


 そうは言ってもどうすれば? 短めの濃いグレーと黒の毛に、黄緑色の丸い目の猫は私を見つめている。どうにかしてくれとでも言いたげ。


 仕方ない。私はその猫を抱きかかえ、休憩しようと思っていた木まで一緒に行くことにした。すぐに着くとはいえ、この炎天下に猫を抱っこするというのは暑いに決まっている。冬は大歓迎なのになぁ。


 オアシスのような木にはすぐに着いた。日陰に猫を降ろす。地面をくんくんと嗅ぎ、前足でちょんちょんと確認して腰を下ろした。風に当たり気持ちよさそうにしている。どうやらここに連れてきたのは間違いなかったようだ。


「気持ちいい」


 私も待ち望んでいた日陰で休憩。あぁと言いながら、まったりしていると猫に足をパンチされた。酷い。暑いことへの八つ当たりかとも思ったが、早くスーパーへ行けということかもしれない。うん、仕方ない、行くしかない。


「猫ちゃん、バイバイ」


 そういう私に「ニャー」と返してくれた。


 この後、宣言通りに大きいアイスを買って帰ったが、お母さんに半分食べられたのだった。



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