25.暖かい世界


 晴れ、お祭り日和。ただいま春野先輩と並んで歩いている。


 お祭り会場は大勢の人がいて賑わっていた。浴衣を着た女の子もたくさんいる。


「人たくさんいるね。それに思ったより、男の子も女の子も浴衣の子多いんだね」


 先輩は珍しそうに辺りを見回している。


「そういえば、スカート猫宮さんの名前と同じで空色だね。綺麗」


 空っていう下の名前を覚えててくれたのが嬉しい。そして、さりげない褒め方。


「ありがとうございます」


 ちゃんとお礼言えた。


「よーし、今日はたくさん食べるぞー。まず何食べようか?」

「では、まずお腹が空いたのでお好み焼きとかはどうでしょう!」

「いいね」


 いい匂いがするお好み焼き屋さんに並ぶ。数人並んでいた。


「匂いだけでご飯食べれそうです」

「あ、分かる。僕も思ってた」


 順番が回ってきて、二つ頼む。先輩は二つ分のお金を渡した。


「あ、今は聞かないからね。後で聞くけど、貰わないよ?」


 先手をとられてしまった。


 焼き立てを受け取り、端へ移動。


「はい、どうぞ」

「ありがとうございます。あのお金は」

「いらない。僕が食べさせてあげたいと思ったからしただけ。大丈夫、バイト代があるからね」


 お金の心配はいらないよ? とにこにこしている先輩。そういうことではなく、いやそうでもあるけど、そうではなく。


 いや、ありがたく頂こう。


 二人で熱々のお好み焼きを頬張る。甘めのソースが生地を包み込んでいてたまらない。


 食べたら、見回り再開。


 十円パンという生地にチーズだったりカスタードが入っている食べ物を発見。若い子達が大勢並んでいる。


「人気なのかな? よく知らないんだけど」

「私も分かりません。名前はテレビで聞いたような? 流行なんですかね」


 あちこちにその屋台がある。


「これは食べてみないとだね!」


 先輩のきらきらした目を見て、この行列に並ぶ決意をした。


 食べてみると、まぁチーズが伸びる。これはすごい。十円じゃなくて五百円だったけど。


 次に行くのは。


「やってみたい!」


 先輩が見ているのは射的。棚にはお菓子屋やぬいぐるみなどが置いてある。


「よーし」


 集中して狙うのは、水色の猫のマスコット。当たりはするがなかなか倒れない。


「もう一回」


 もう一度やるが、くっついているんじゃないかと思うほど動かない。


 諦めたのか最後の弾を別の物に当てた。


「ごめんね、猫宮さん。猫ちゃん獲れなかった」


 代わりにこれと、渡されたのはキャラメル。


「え、貰っていいんですか。ありがとうございます」


 猫ちゃんと言ったのが、光先輩に呼ばれたのと同じでちょっとドキッとした。


 それから、くじ引きやくじ引きやくじ引き……を楽しんだ。


「どうして僕は運が悪いんだろう」


 先輩がぽろっとこぼした。


「そんなことない、はずですよ」


 下位賞しか当たらないけど。


 春野先輩を慰めていると、人混みの中に光先輩が見えた。何人かの女の子と歩いている。やっぱり、女の子と来ているんだなぁ。


「どうしたの?」

「いえ、何でもないです。さぁ、フルーツ飴でも食べましょう!」


 光先輩がいる方とは逆に歩いていく。


「さぁ行きますよ」


 無事、りんご飴を手に入れた先輩はさっきまでの落ち込みはなくふわふわと幸せそうだ。


 私もいちご飴を食べながら、帰りの方向へと歩いていく。


「今日は暖かくて良かったね。今度は暖かい春か夏に会って、一緒に歩きたいなと思ってたんだ」

「暖かいと過ごしやすいですもんね」


 そう返したが、今度はというのがよく分からなかった。寒い時期にでも会ったことあるっけ。全然覚えていない。


「また、こうやって会ってくれるかな?」


 少し心配そうに先輩は聞いてきた。


「もちろんです。今日は楽しかったですね」


 安心したような顔で「ありがとう」と返ってきた。



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