ありがとう、元好きな人の元カノ
「おっは~!」
「おはよ、あーちゃん……って、え?」
リュックの中のスマホを探しながら駅前で待っていると、いつもの可愛い声が上から降ってきた……けど、いつものあーちゃんじゃない。
「あーちゃん、かわい……!」
髪をおろして肩からさらさらと流し、前髪は今流行りのシースルー、メガネは外してコンタクトになってる。スカートもちょっと短くなってる。高校のブレザーも校則内で着崩してるし。私とおそろで買ったキャラメル色のセーターがよく似合ってる。
「えへへ、入学式だし、好きな人との待ち合わせだから……ちょっと張り切ってみた。……かわいい?」
「うんっ!可愛いよ!」
「っ……!あれ、はーちゃんってそんな褒めてくれるキャラだったけ?」
「っは?!べ、別にいーじゃん!」
「はいはい……。ほら、いこ?」
あーちゃんが、あきれた顔で手を差し出してくる。少し赤らんだ、小さな真っ白な指。1年前は、これが嫉妬の対象だったけ。
今は、綺麗で、早く手に、指に、君に、触れたいと思ってしまうのに。
「もう……」
しかめっ面で私はいつものようにポニーテールを揺らす。そしてぎゅっとあーちゃんの手を掴んだ。
「素直じゃないんだからぁ」
握り返してくれる君の存在に、ありがとう。
最近、考えることがある。なぜあーちゃんを忘れてしまっていたのか。いつ、忘れてしまったのか。
私は、あーちゃんが、遠くに行ってから、自暴自棄になった時期がある。そのときに、「あーちゃんのことなんかわすれてやるっ!」って、泣きながら写真とかを捨てた覚えがある。だから、探したけれど、あーちゃんとの保育園のときの写真はなかった。そして、本当に忘れようとしてやけになって過ごしていたら、いつのまにか薄れていた……。という考えってだけだけど。
忘れてたのに、キツイことも言い放ったのに。なんでわたしのことを好きでいられるんだろう……。
わからないけど、わからないけどありがとう。
手を引いて、振り返る君。
電車で立って寝る君。
不意打ちで写真を取る君。
ずっとずっと、好きでいてくれてありがとう……!
「あれ……、なんではーちゃん泣いてるの?」
高校の正門、「入学式」と書いてある看板の前であーちゃんに写真を取ってもらう。でも、私はまた入学式の写真で笑えていないことになる。
「い、や……なんでもな……っ、グスッ」
「うーん……それじゃあ泣き顔になっちゃうよ?……あ、そうだ」
何かを思い付いたように私に近づいてくる。そして、私の肩を組んだ。
「え、え?」
「ほら!セルカにすれば!一緒にとれるでしょ?」
「う……」
「はい!笑顔で~!1かける2ぃ~は~?」
ぴったりとくっつくあーちゃんからは、彩あざやかな花の香水の匂いがする。
「……にぃ~っ!」
晴れた日の海を見るように、眩しく、目を細めて、力の限り頬を染めた。
「っていうか、普通『1足す1は?』じゃない!?なに『1かける2は?』って!?」
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