第2話 こちら日沖探偵事務所でございます その2

取り調べを受けた上井と冨田は、警察に自分たちは下脇真理子を止めに入っただけだと主張したが受け入れてもらえず、その日、留置所の中で一泊することになった。


「上井さん。俺、留置所に入るの、初めてなんですよ」


上井の隣で体育座りをしていた冨田が、元気のない小さな声で話しかけてきた。


「初めてのお泊まり会みたいなものだ。すぐに慣れる」


「慣れていいんですか?」


「悪くはないだろう」


冨田と小声で話していると、格子の外から二組の足音が聞こえてきた。


「おはようございます。上井さん、冨田さん」


二人の前に現れたのは、弁護士の宇留嶋司(うるしま つかさ)だった。


彼は25歳で弁護士資格を取ったいわゆるエリートで、日沖探偵事務所は同じく弁護士である彼の父親の代から頻繁に仕事を受けていた。


「真石さんから連絡をもらい、身元引き受けに参りました」


宇留嶋がそう言うと、隣にいた警察官が鍵を開けてくれた。


上井と冨田は立ち上がって、すぐに檻の外に出た。


「おせーよ」


開口一番、上井は宇留嶋に文句を言った。


「先に下脇さんの方を済ませてきたので」


出入り口に向かって歩きながら、宇留嶋は穏やかな口調で答えた。


「頼むから、今度はもうちょうと穏やかなクライアントを紹介してくれ」


「あのような方だから、上井さんたちにしか頼めなかったんですよ」


信頼しているから、あなた達にお願いした。弁護士らしい実に憎たらしい言い方だ。


「今日の午後、事務所の方にお伺いします。今度は穏やかなクライアントの仕事を紹介いたしますので」


「ああ。分かった」


事務手続きを済ませ、3人は渋谷署の外に出た。

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