第4話 結成任務 1

な?」


「そうよ。この世界には様々な騎士がいるんだけど、そのほとんどはギルドで騎士団結成を申請して正式な騎士団として活動しているわ」


「じゃぁ残りの騎士団は何なんだ?」


 興味深そうに、リッターは相槌を打ちながら話を聞く。


「残りの騎士団はものになる。その者たちはギルドに

 申請をしていないから、あちらこちらで好き勝手な行動を出来る」


「そうなのか。じゃあ騎士狩りはどうなるんだ? 正式な騎士団なんだろ? 勝手に変えられんのか?」


「リッターにしてはいい質問じゃない。そうね、そこらへんは色々と面倒くさいのよ」


「どう面倒くさいんだ?」


 ミューラはリッターから視線を落とすと、ギルドの方へ体を向け、馬車から降りた。


「この話はまた今度ね。とにかく今は早くギルドに入りましょう」


 リッターとレンはミューラの後に続きギルドの中へ入る。


 中に入ると、そこにはたくさんの騎士たちで溢れていた。


「すげー数の騎士だなあ」


「騎士団はギルドに依頼の申請や報告をしているからな。ほらあそこを見ろ」


 そういうとミューラは、赤いマントを羽織っている騎士団の方に指をさした。


「あれは【ラーの騎士団】だよ。あそこの騎士団団長のPMは100000を超えると言われているんだ」


「じゅ、ジューマン?!?!」


 PM(パラディンメーター)が100000を超えた騎士は、昇級プロマティ騎士ナイトと呼ばれるようになり、一気に名が知れ渡るようになる。この世界ではプロマティに達した騎士は100人あまりいる。


「こうしていると時間が過ぎていく一方だな。見ておきたい騎士団もいるけど、まずは騎士団の登録が先だな」レンが先を進む。


「レン、そっちは違うぞ。受付嬢はこっちだ」


 ミューラのいう通り、レンが進んだ方向の反対側には『受付』と書かれた看板が垂れ下がっていた。


 何事もなかったかのようにレンはきびすかえし、受付と書かれた方へと歩いた。


「あいつ、たまーにああいうところがあるんだよな」


 リッターは慣れた口調でつぶやいた。


 列に並び3分もたたないうちにリッター達はカウンターまで来ていた。役所の係員のような姿、立ち振る舞いは、仕事ができる人を醸し出していた。


「すみません、騎士団の申請をしたいんですけど」


「わかりました。でしたら以下の【結成任務けっせいにんむ】を受けてください」


「ミューラ、結成任務ってなんだ?」


「結成任務は、騎士団になるにために必要な許可を取るためのものだ。本当に騎士団になるほどの実力があるのかどうか、それを証明するためのものだな」


「それなら俺に任せろ」


 自信満々にレンが言う。


「どうしたんだレン」


「ここで活躍した奴が団長になるんだろ? なら、団長になるのは俺だ。活躍して同然だ」


「そ、そうなのか? ミューラ」


「えぇ、団長になるのは、その団の好きにすればいいからだれでもいいのよ。だけど」


「だけど?」


「騎士だけでなく騎士団のPM(パラディンメーター)があるのよ。その騎士団PMはその団の団長のPMで決まるわ」


「つまり、今PMが一番高いミューラが団長になるのが適任、とでも言いたいのか?」


 しかめっ面でレンは聞く。


 PMは騎士団の強さを表すものだ。大きければ大きいほど、周りの騎士団からの評価は変わってくるのだ。それほどまでに、PMは重要なものだ、そうミューラは言いたいのだろう。


「今この団で団長になる一番の適任者はミューラだろうけど、俺は譲らねぇ。もちろんレンにもだ」


「リッター、お前」


「俺は英雄騎士になって、すべての人々を助ける! だからレン、ミューラ。結成任務は俺に任せろ!」


 控えめなミューラはすっかりレンかリッターのどちらかに騎士団長を譲る気だ。


 流れは俺に来ている、そうリッターは思った。


「いや、英雄騎士になるのは俺だ。だから、団長になるのは俺だ」


 しかし、そう簡単にレンは譲ろうとはしない。


 少しレンとリッターがいざこざをしていると、ギルド内が少しざわめいてきた。その中にはこんな言葉が流れて聞こえてきた。


「英雄騎士だってよ、あんなガキが」 「笑わせるねぇ」 「若いやつはすぐ調子乗る」


 だんだんざわめきは大きくなり、ギルドの中を覆いつくすほどまでに成長した。


 言い方からするに、このギルドにはろくな騎士団がいないらしい。そうレンは思った。弱い奴ほど騒ぐものだ。


 すると突然、リッターの後ろに一回り大きい大柄な男が現れた。


「お前、今英雄騎士なるっつたな。やめておけ。騎士団は遊びじゃねーんだよ。それに、英雄騎士だぁ? 夢見てんじゃねーよ 」


 一斉に周りの騎士が笑い出し、笑い声でリッターを囲む。


「こいつら……」レンがしかめっ面で呟く。


「そこまでにしておけ、スクワード」


 リッターの前に突然太陽の紋章が入ったマントを羽織る騎士が現れた。


 髪は赤く染まり、耳に付いているピアスはネイビーブルーのよう濃く輝いている。


「ちっ、リオてめー」


「そうやって格下の騎士ばかりしか狙わないから、いつまで経っても強くならないんだろうが……」


「あぁ? おめぇに言われる口はねぇよ」


 スクワードが次の言葉を言おうとした時だった。リオと呼ばれる騎士は、これでもかと言わんばかりの顔つきで、右手に太陽のような光を発生させ、スクワードに突きつけた。


「悪かったよ、でも、この続きはまたなリオ」


 そう言うと、大柄なスクワードはギルドを抜けて、やがて人混みに紛れて見えなくなった。


 それと同時に、リオの右手にあった光はパッと消えた。そしてリオはリッターに近づき話しかけた。


「大丈夫だったか、そこの君たち」


「大丈夫です。それより……」


「それより?」


「なんですか今の魔法!! 太陽? 太陽ですよね!」


 リッターは目を輝かせ、少年のような眼差しでリオを見つめる。


「君はとても好奇心があるみたいだね」


「ところであんたは、どこの騎士なんですか?」


 ちょっと口の悪いレンが聞く。ちなみにリッターいわくレンの語彙力はこうなっているらしい。


『食う、寝る、あと負けない。この言葉があれば人生楽勝だ』


 話は戻り、リオは太陽の紋章のマントをなびかせる。


「私は太陽サンリオネル騎士団ナイト団長の、リオネル・E・アンサーだ」


 太陽の騎士団。レンは、この言葉に少し聞き覚えがあった。


 まず、この世界には基礎能力と呼ばれる4つの能力がある。火・水・風・雷。この能力は遥か昔に発見され、それは文明の発展の技術として使用され、あるところでは縄張り争いの道具として、武器に使用された。その結果、独占力を求める者たちが現れ、世界征服をたくらむ者が現れた。その者こそが、英雄騎士パラティヌスが倒し最悪の敵だ。


 その最悪の敵との戦闘には、パラティヌスを含め3人の英雄がいたという。そのうちの一人が、俗に言う太陽の騎士団の創立者ソレイユ・F・アンサー、リオネルの実の父だ。


「太陽の騎士団はこの国の西にあるラー・パルデン国が拠点のはずだろ。なんでこのヴァルキリー王国にいるんだ」と、レンが聞く。


「ヴァルキリーには任務で来ていてな。そして、ギルドに任務の報告をしに来ていたわけだ。噂で聞いたぐらいだったけど、ここのギルドは実に居心地が悪いね」


 するとリオは周りを見渡す。そしてリオと目が合った騎士たちが目をそらすのが分かる。


「騎士になっているつもりなのかこいつらは。果たして、それは騎士と呼べるのか」次第にリオから熱い力があふれる。部屋の中が少し熱くなった気がした。


 さっきまで態度の大きかった周りの騎士は、今となっては身ぐるみを剝がされ抵抗できないかのようにシーンと静かになっていた。


 リオ。これが本物の、


 実力主義のこの世界。強くならなければ、いつか自分も周りのような騎士に堕落してしまう。そうリッターは思った。


「ところでお前たち」


「はいっ」


「騎士団を結成するのか。二人でか?」


「三人です。俺と、それにレン、そしてあともう一人……」


 あれ、そう思いリッターはあたりを見渡す。さっきまでいたはずのミューラがいなくなっていたからだ。


「まぁ頑張ってくれ。俺は先を行く」


 リオは踵を返すと、ギルドの出口へと向かって歩き出した。


「あ、ありがとうございました」


「あ、そうだ」そう言うとリオは体をリッターの方へと向けた。


「君、名前は?」


「俺は英雄騎士になるリッターだ」


「英雄騎士か。ならば、またどこかで会う機会があるかもしれないな。またな、リッター」


「あぁ、またな」


 リオは再度歩き出しギルドから姿を消した。


「リッターお前すごいな」


「なにがだ」


「太陽の騎士団とはそう簡単には出会えないからだ。それにお前、おそらくだがリオネルに認知されたな」


「そうなのか?! 俺、すげー人に目つけられたのか!!」


 リッターの目がキラキラと光る。


「そういえばなんだけどさ」


「なんだ、ミューラの事か?」


 ギルド内は元気を取り戻して、元通りの姿に戻っていた。それでも、まだミューラの姿は見えないままだ。


「ミューラもそうだけど。さっき、俺らに話しかけてきた大柄の男。あいつもリオネルに認知されていたぞ」


「確かに思い返してみれば。確か名前は、スクワードって言ってたか」


「しかもそのスクワードってやろう、リオネルの事リオって言ってた」


「あの二人の関係は一体なんだ……」


 二人が少し考え込んでいると、何もなかったかのようにミューラが二人の前に立っていた。


「おいてめぇミューラ!! どーこ行ってやがった!!」レンが切れ気味で聞く。


「誰に口きいてんの? 殴るわよ」


 ミューラは拳をレンに突き付ける。その時レンはこれまでのことを思い返した。腹を殴られたこと、野生の馬の頭にたんこぶが出来てたこと。これらから、レンが導き出した答えは1つ。それは……。


「すみませんでした」レンは深く頭を下げた。


「わかればいいのよ」


「ところでミューラ、さっきまで何してたんだ? うんこか? ぐふぉぉぉぉぉっっ!!!」


「勝手にうんこにするなぁ!!」


(恐るべし、ミューラ)

 仏顔でレンは固まる。


「少し用があっただけよ。それより、結成任務はどれにするかしら?」


 そう言うとミューラは、『クエスト表』と書かれた看板にある結成任務欄に指を指した。


「迷子の猫10匹の捕獲、行方不明者の捜索2名、なくなったぬいぐるみの行方捜査……って、まともな任務はねーのかよ!!!」


 リッターは左足を椅子に乗せて叫ぶ。


「まぁ、民間人からの評価も騎士団としては必要なものだからね。そう考えたらしかたないわよ」


「そうだな。それに、こんな簡単な任務だ、とっとと終わらせて、早く騎士団として登録するのが本命だ」


 難しい任務は騎士団としてやればいい、そうレンは言いたかった。だけど、リッターには全く通じてなかったみたいだった。


「こんなもんじゃ、俺の中にある闘気は満たされねーぞ!! 受付のおねぇさん!」


「はい……」


「なんかこう、討伐系の任務ってありますかね?」


 受付係の嬢は下を向いて、何か考えごとをし始めた。


「そんなもんねーだろ。ここにあるのがすべてだ」


 レンはそう言い、リッターを説得させようとする。


「そんな都合よくあるわけ……」


「あるには、ありますけど」


 受付嬢が小声でぼそりと言った。


「ほんと?!」


「まじかよっ!」


「ただ……」


「ただ?」


 受付嬢の表情が曇る。


「その任務はあまりにも困難で危険なので、ギルド側が自然消滅させたんです」


「それって、どんな任務なんだ?」レンが聞く。


「それは、あまり詳しくは話せないんですが。その任務の内容は『非公式騎士団の討伐』です。ヴァルキリー王国の西部に位置するコンガという町からの依頼で、そのコンガに非公式の騎士団が好き勝手しているということで、その騎士団を町の外に追い出してほしいという要望だったんです。そして、当時はだったので、結成任務の数が結成依頼の数と釣り合わなかったんです」


「ミューラ、ってなんだ?」


「黄金の騎士時代っていうのは、急激に騎士団の数が増えた時期を言うわね。今活躍している騎士はだいたいその時期に騎士になっていることが多いわ」


 という事はあのリオネルも? リッターは頭の中でリオネルの顔を思い浮かべた。


 受付嬢はさりげなく話を再開する。


「だから、ギルドは結成任務の件数を急激に増やしたんです。任務レベルの差をあまり気にせずに」


「その任務って、人工的に作れないんですか? 作れれば、数には困らないはずなのに」

 

(リッターがまともなこと言ってる!!)

 レンは驚きのあまりに、開いた口を右手で塞いだ。


「なんかむかつくなぁ……」何かを察してリッターはでこにしわを寄せる。


「そうしたいんですけど、ギルド内のルールが少し複雑でして。ギルドは、騎士たちにを積み重ねてもらって成長してもらいたい、そんな思いがあるんです。だから、あえてこちらから任務を作らないようにしているんです」


「そーゆーことね」リッターはうなずく。


「で、その任務の何が悪かったの?」


「はい。先ほども言った通り、その任務は非公式騎士団の討伐だったんでが……。その任務を最初に受けた未満騎士が、グリモネを去ってから帰ってこなかったんです」


「相手が予想を遥かに上回るほど強かったのか?」ミューラは人差し指を唇に当てる。


「その可能性があったのでその任務をいったん取り消して、その期間にある程度の強さがある騎士団に様子を見に行ってもらったんです。そしてその後、その騎士団が返ってくることはありませんでした。これは今でも有名な話の一つです」


「そうなのか」


 納得した顔でリッターは頭をたてにふる。


「あまり話せない的なこと言っておきながら、結構喋るなあんた」


 レンのツッコミに、受付嬢は真剣に返す。


「あなたたちなら、なにかやってくれる、そう思いました。勝手ながら……」


 受付嬢は下を向く。あまり自信がないのだろう。誰が責任を取るのか、ということになるからだ。


「リッター。俺はどっちでもいい。まぁ、答えは出てるんだろうがな。ミューラ、いいな?」


 何かを察したミューラはすぐに気づいて、仕方ない、といった顔でうなずく。


「受付嬢さん、その謎だらけの任務、俺らに受けさせてくれないか!」


 迷う暇などなく受付嬢は笑顔を見せて「わかりました」と返す。


 リッター一行がギルドを抜け少しした時だ。受付嬢は心の中でこうつぶやいた。


「リッター君、君ならやれる。私がこれまで見てきた騎士とは全く違う雰囲気。あの感じは以来かしら。彼は今頃どこで何をしているのかしら……。リッター君、君が受けた任務はただの任務じゃないわ。きっとあなたのためになるものよ」


 グリモネに咲く一輪の花が、暖かい風によって左右になびいた。


 馬車を経由して一日でたどり着いたヴァルキリー王国西部に位置するコンガ。そこには、コンガという町はなく広がっていたのは大きな動物園だった。






























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【試作版】パラディン・ワールド ちとせ そら @TitoseSora

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