第22話 東通村到着

 グレンヴァ直属の配下、ヴァーエイトに見事勝利した俺達は皆一様に強力な力を手にした感覚を覚えていた。

 2つ3つのレベルアップではないと感覚で分かった。


「これは……」

「おら、多分めちゃくちゃレベルアップした」

「俺もだ」


 俺からすれば強くはなかったが、ヴァーエイトはそれほどの魔物だったのだろう。

 二人はなぜこの動かぬ敵を倒しただけでこんなにもレベルが上がるのか謎な表情をしていた。

 おそらく俺がお膳立てをしなければ、ゆうなと剣児は軽く殺されていただろう。

 ヴァーエイトは斧での攻撃だけではなく、魔法も使っていたからな。

 今のゆうなと剣児では全くもって歯が立たないような相手だ。


「おら冒険者の書見るー」

「わ、私も!」


 二人は直ぐ様冒険者の書を取り出し、我先とレベルアップで得た力を確認する。

 辺りはまだ夜で暗いので、自然と焚き火の前に移動する。

 俺も少し離れて情報を更新する。

 魔物である俺は、少しくらい暗くともなんてことはない。


――――――――――――


名前:出野 ハー(年齢?歳 性別 男)

レベル:13

職業:しょうかんし

職業レベル:4

HP:2,540,000/2,540,000

MP:96,820/97,000

物理攻撃力:4,810

物理防御力:4,990

魔法攻撃力:4,320

魔法防御力:5,140

 素早さ :4,500

  運  :90


使用可能魔法一覧

火属性:チャッカ(小) ~ ドゴウゴウ(極大)

水属性:チョロ(小) ~ ドバーン(極大)

氷属性:バリ(小) ~ バリジャッキン(極大)

雷属性:ピリ(小) ~ ドンバチン(極大)

土属性:ゴゴ(小) ~ ズゴーン(極大)

風属性:フワ(小) ~ ビューン(極大)

闇属性:ヌン(中) ~ ヌラリアン(極大)

即死:スット(小) ~ アトカスット(中)

毒:ジュク(小) ~ ジュクジュ(中)

麻痺:ギチ(小) ~ ガチギ(中)

飛行:プカン


使用可能特技一覧

一刀両断/我軸円斬がじくえんざん発風剣はっぷうけん無絶無斬むぜつむざん真無絶無斬しんむぜつむざん/完全防御/結界術(消費MP量に準ずる)


使用可能しょうかん一覧

ゴブリンパンチ/ホップスライムジャンプ


――――――――――――


 ヤバい。

 ついさっきまでレベル4だったのにレベル13まで増えている。

 しかも能力値の伸び率も微妙に上がってないか?

 職に就く以前の俺から、約2倍の強さになっているな。

 しかも職業レベルも4に増え、新なしょうかんを修得している。


 その名も【ホップスライムジャンプ】だ。


 ゴブリンパンチ同様、早く使いたい。

 ゴブリンパンチは挑発だとして、これは何だろう?

 さすがに今回は攻撃的なしょうかんであってほしい。


 しかしこれも一度、ゆうなと剣児に見つからないよう一人で試してみないと戦闘時に使えるかどうか不安だ。

 俺の強さがバレないよう、そして強力なしょうかんを使ってしまって二人の自尊心を傷付けないようにしなければ、一時的な仲間ではあるが、パーティから追い出されてしまう可能性もある。

 また一から始めるのは面倒だし、ゆうなも優しくはないが色々と教えてくれるし、剣児も何だかんだで憎めない奴だし……。


 いやいや、何を言っている、俺は元魔王だ。

 ただ俺個人の復讐に人間を利用しているだけだ。

 最強の勇者である英雄さんに近付くためにやっていることじゃないか。

 でもなー。


「ねーねー、出野さんもレベル上がってましたー?」


 俺は無言で書を閉じた。

 ニコニコしながらゆうなは話しかけてくる。


「出野さんまだ恥ずかしがってるんですかぁ?もういい加減良いじゃないですかー?見せてくださいよー」

「ま、まぁ」


 こんな時なんて言えばいいのか未だに答えは出ずだ。


「やっぱりやめときます。出野さんが納得する能力値になったら必ず教えてくださいね!でね、私はね、一気にレベル14になりましたぁ!職業レベルも5に上がって新しい特技を覚えましたぁ!」

「何の特技を覚えたんだ?」

「これなんですけど」


――――――――――――


名前:小笠原 ゆうな(年齢17歳 性別 女)

レベル:14

職業:勇者

職業レベル:4

HP:1,396/1,396

MP:110/145

物理攻撃力:129

物理防御力:135

魔法攻撃力:113

魔法防御力:131

素早さ:122

運:15


使用可能魔法一覧

火属性:チャッカ(小)


使用可能特技一覧

半月斬はんげつぎ


――――――――――――


「おらもめちゃめちゃ強くなったど!しかも特技も修得した!」

「剣児はどんな特技を覚えたんだ?」

「おらはこれ」


――――――――――――


名前:古川 剣児(年齢15歳 性別 男)

レベル:13

職業:剣士

職業レベル:4

HP:1,380/1,380

MP:40/40

物理攻撃力:138

物理防御力:144

魔法攻撃力:65

魔法防御力:87

素早さ:98

運:11


使用可能魔法一覧


使用可能特技一覧

ぶつ斬り/半月斬はんげつぎ


――――――――――――


 ゆうなも剣児も同じく【半月斬はんげつぎり】という特技を覚えていた。

 勇者と剣士が同じ特技を覚えることもあるんだなー。


「俺もゴブリンパンチに続き、新しいしょうかんを修得していた。その名もホップスライムジャンプだ」

「な、なんかどういう技か名前から想像しにくいですね」

「あのゴブリンパンチみてぇな強い技だったらいいな!」

「んー、そうだな。今度使ってみるよ」

「よし、じゃあまた明日に向けて休息を取りましょう!次は私が見張りをするので出野さんと剣児君は寝て寝て!」


 そして俺達は代わる代わる見張り番を代え、一晩過ごした。

 俺は寝なくともテントの中で座っているだけで十分なので、あぐらをかき新しいしょうかんの台詞や動きを朝まで妄想していた。

 その夜は魔物が襲ってくることはなかった。



◇◇◇◇◇◇

 


 やがて日の光も差し、準備を整えた俺達は東通村に向かった。

 道中魔物が出てきたが、レベルも上がったおかげで、昨日苦戦していたあばれウルフも一撃で仕留められるようになっていた。


 昨日見なかった【ダブルヘッドバイソン】という頭が二つある牛にも出会った。

 あばれウルフよりも多少強いくらいで、頭の角を突き出し突進攻撃を仕掛けてくる。

 二人も余裕で倒していた。

 ダブルヘッドバイソンは突進攻撃を躱されても勢い余ってか、ある程度の所まで歩を進める。

 離れた相手に向け、ここぞとばかりに挑発するためにゴブリンパンチを繰り出したが、ゴブリンパンチで普通に倒せてた。

 検証不足だったが、おそらく挑発効果がある攻撃なんだなと納得した。


 何匹目かのダブルヘッドバイソンにゴブリンパンチを繰り出した時に、タイミングを誤ってしまいダブルヘッドバイソンの突進が俺の可愛いゴブリンに当たったことがあった。

 さすがの俺も、我が子のように可愛いゴブリンが死んじゃうんじゃないかと焦ったが、意外な事にゴブリンは微動だにせずゴブリンパンチを繰り出していた。

 この事をゆうなに質問すると、「召還獣はすぐ消えちゃう分、無敵ですからねー」とこれまた理不尽な答えが返ってきた。


 何をしても絶対に攻撃を受け付けないと言いきっていたので、可愛いゴブリンには申し訳ないが、検証のため、しょうかんしてすぐに横っ面を本気で殴ってみた。

 なんか親に殴られしょんぼりしたような顔をしながらも自分の任務を全うしていたが、やはり無傷だった。

 本当に本当に申し訳ないが、殺すつもりの全力だったので、殴った拍子の風圧が凄まじかった。

 やってしまったと思ったが、剣児が「今日、風強ぇなぁ」とか間抜けな事を言っていたので、ゆうなも俺の殴りからくる風圧だとは気付かなかった様子だ。

 本当に剣児にはいつも助けられている。


 しかし出てきてから消えるまでの一時的とはいえ、俺より強い者に会ったことがなかったので心底驚いた。

 殴った感触としては、グレンヴァの魔王城の結界に近い感覚だ。

 俺は嬉しかった。

 もちろん愛するゴブリンが絶対に死ぬことがないと分かったからだ。



◇◇◇◇◇◇



 俺達は幾度かの戦闘をこなし、無事、村に到着した。

 気配から察するに、周りに魔物は彷徨いているようだが、数日前に俺が魔物を遮断する結界を張ったから近付くことも出来ないのだろう、変わりない姿の村がそこにはあった。


 村に入るなり、剣児はいち早く爺さんの家へ向かった。

 俺とゆうなも後を追いかけると、爺さんはやはり水汲みをしていた。


「おーい、そこの若いのー。ちと手伝っ……剣児じゃないか!」

「爺ちゃん久しぶりー!俺タンナーブに行って剣士になったんだ」

「おー、そうかそうか。おっ、そこにいる若いのはこの前来た者じゃな」


 俺の存在に気付いた爺さんは声をかけてきた。

 それに剣児が答える


「そうそう。この人は出野さん、んでこっちは勇者のゆうな、おら達パーティ組んだんだ」

「初めまして、剣児君の仲間のゆうなです!」


 ゆうなは軽く会釈をして答えた。

 俺の職も言えよと言いたかったが、こんな爺さんにしょうかんしなど言っても分かるわけないかと自分を納得させた。


「まぁ立ち話もなんだ、わしの家に上がって茶でも飲みながらゆっくりと聞こう」


 そう言うと、剣児は普段からやっているのであろう水桶が付いた天秤棒を肩に担いで爺さんと歩きだした。


「おじゃましまーす」


 家に着き爺さんと剣児が入ると、俺とゆうなも後に続き中へ上がった。

 剣児が水桶を置き、囲炉裏の前へ座った。

 俺達も同じく座り一息ついた。

 しばらくすると奥から湯呑みを盆に乗せた爺さんの姿が目に入った。

 すかさずゆうなが立ち上がり、その盆を両手に持ち俺達に差し出した。

 俺はここぞとばかりに袋から柿ピーを取り出し、湯呑みが無くなった盆に並べる。

 柿ピーと茶の組み合わせは最高に合った。


「ところで剣児よ、お前剣士になったと言っていたが、ほかは何の適性があったんじゃ?」

「おらは剣士と魔法使いがあった。でも絶対剣士になるって決めじゃったから剣士になった」


 ほう、てっきり剣士の他は武術家や槍使いかと思っていたが、意外や意外、魔法使いとはな。


「そうかそうか。わしも昔は剣士じゃった。体を壊してもうやっとらんけど、昔は凄かったんじゃよー」

「爺ちゃん本当かよ。爺ちゃんが俊敏に動く姿は想像できねぇなー」


 俺もそれには同意だ。

 前に来たときは、足をプルプルさせながら水桶をぶら下げた天秤棒を運ぼうとしていたしな。


「よく兄貴と一緒に旅に出たもんじゃ。兄貴も剣士で、わしと兄貴は共に【剣ノ神けんのかみ】じゃった」

「「剣ノ神?」」


 ゆうなすら知らない言葉だったのか、剣児と共に聞き返していた。


「剣士の上級職が【剣豪けんごう】で、それの更に上じゃ。昔はドラゴンとも戦ったことがあるんじゃ」

「ははははは!爺ちゃんの話はいつも面白ぇなー!」

「まぁまぁ、剣児が笑ってくれるだけで話した甲斐があるというもんじゃ。そうじゃ、剣士になった剣児にわしが使っていた剣をあげよう。蔵のどこかにあるから探して持ってこい」


 いつも刃こぼれしたボロボロの剣を使っていた剣児は、新しい剣が手に入ると分かると浮き立って立ち上がった。


「出野さん、探すの手伝ってー」

「ああ」

「私は湯呑みを洗って待ってるわ」


 ゆうなは皆の湯呑みをせっせせっせと盆に乗せ始めた中、俺と剣児は外に出て近くの蔵の扉を開けた。


「どこだどこだー!?」


 剣児が色んなものを掘り返しながら、張り切って探している姿を後ろから見つつ、俺もそれとなく探し始めた。

 端っこの木材が重なっているところに何か見たことあるような書を見つけた。

 何だろうと手に取ると、埃を被った古びた冒険者の書だった。


 気になった俺は、それをなんとなく開いた。

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