第7話 城下町に入ろう

 俺は村で出会った爺さんに勧められ、城下町を目指していた。

 道中、確かに魔物が多かった気がする。

 知性がない魔物のため、俺を人間と勘違いして攻撃を仕掛けてくる。

 赤子が爪を立てるように別に何とも思わなかったので躱し続けた。

 何匹もの魔物に囲まれながら颯爽と歩く姿は、異様だったに違いない。


 さすがに魔物も疲れたのか、次第に俺から離れていった。


 歩き始めて二日、そうやく城が見えてきた。

 当初は魔物も多かったが、この付近には彷徨く魔物が全然いなかった。

 人々の生活区域であろう場所を囲んでいる壁の中心に、大きな城がどっしりと構えていた。


「久しぶりだなぁ」


 遠くから見る景色は、かつて俺が見た景色と代わり映えしなかった。

 この場所で魔王だった俺は、人間王と条約を交わしたのだ。

 近づくにつれ人間の匂いが強くなり、心踊るような感覚になっていく。

 人間を襲う魔物としてではなく、純粋に俺の新しい門出にわくわくしていた。


 更に歩き続けると城下町へ入るための大門が見えてきた。

 大門の両側には槍を持ち鎧を着た男がそれぞれ一人ずつ立っている。


 人間界のことは分からんが普通に入っていいのか?


 俺はそのまま直進して入ろうとしたが、両端から槍を交差させ歩みを止められた。


「おい、どこから来た者だ?」

「あー、あっちの方からです」


 一人の男が訪ねてきたので、俺は辿ってきた道を指差しながら返した。


「あっちの方?村や町の名称は?」

「いや、特にない」

「何だと?怪しいな。最近は魔王軍の動きが活発になったから怪しい者は通せない」

「えっ?でも村の若者はみんな城下町に向かったと言っていたぞ」

「村?お前はどこかの村から来たのか?さっきも聞いたがどこの村だ?」


 あー、なんか爺さんなんとか村って言ってたなー。なんだっけな。ひがし……


 思い出せない俺は断片的な記憶を頼りに言ってみる。


「ひがしぃ……村だ」

「ん?東の後は何と言ったんだ?声が小さくて聞こえんぞ」

「だーかーらー、ひがしぃ……村だって」

「東通村か?」

「だからさっきからそう言ってるだろ」


 上手く誤魔化せた。

 そういえば東通村だと爺さんは言ってたな。


「兜で少し聞き取りづらかったんだ。すまないな。では通るがよい」


 男二人は槍を下ろし、やっとのことで警戒が解かれた。

 入ろうとするとまたもや呼び止められた。


「おい。そういえば東通村にも魔物が攻めてきたのか?」

「いや、今のところ魔物は攻めてきてない。多分攻めてきても大丈夫だと思うけど」

「どういうことだ?」


 余計なことを言って墓穴を掘った。

 さすがに俺が強力な結界を張りましたーなんて言ったら面倒な事になるので、適当な事を言ってやり過ごすことにした。


「東通村は年寄りばっかでみんな家から出ないから、魔物も人間がいるとは思わないってこと」

「ん?お前もそうだが、まだ残っている者がいるのか。まぁ今のところ【タンナーブ】は安全だ。お前もまだ体が動くうちは自分の身を守るためにも何かの職につくことだな」


 ほう、ここはタンナーブと言うのだな。

 なぜか職につくことを助言されたが、別にお金が欲しいとは思わないし、今さら働きたくない。

 住む家はあったらいいなとは思うが、無きゃあ無いで地に穴を掘って住めばいいし。


 そんな風に考えていたが、彼が言っていたは俺が思っていたではないと気付くのに時間はそうかからなかった。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る