第6話

 人は恐怖を感じるものだ。

 恐れなければ、対策せず、対策しなければ、解決しない。

 人は問題を解決できる。

 これは別に人の特別性ではない。普通のことだ。


 恐れることも無理はない。

 ぶつかれば即死を免れない物体が、すぐ近くで動いているのだ。

 こんな状況で、動揺する様子がない周囲の人々が、狂っていると考えることも当然だった。

 彼の肌はすでに泡立っていた。

 女性もまたその場で少しふらついていた。

 深呼吸をして落ち着きを取り戻すと、女性は口を開いた。

「ですが、近くにある物ならば、今目の前を通る箱があなたを一番写しています。よく見てみてください。あなたなら見えるはずです」

 女性の言葉に、彼は箱の観察を始めた。

 なんの変哲もない。いや、変哲を見つける前に通り過ぎる箱だ。

 近くのは左に、遠くのは右に走っていくだけの箱。

 だが、彼は女性の言葉を疑わず、ただ、観察を続けた。

 しばらく観察を続けていると、目の前に来た時だけ、黒い何かが映ることに気づいた。

 それからも目の前を注視し続けると、今度は形がよく見えた。

 それは人に似ていながら、人ではなかった。

 頭からは突起が伸び、背中からは翼のようなものが広がっていた。

 彼は恐る恐る尋ねた。

「……これは?」

「見えましたか? それがあなたです」

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