九月 くめじまの外泊届


 蒼い海に青い空。それらは何も現世の者たちだけの物ではない。現世に限りなく近い所に現世ではない場所……【道】と呼ばれるその場所に、人に望まれ人に想われて生じた【艦霊】と呼ばれる神々。彼らは人と共に海に生き空に焦がれ暮らしている。その中でも海上自衛隊の【道】には一般には公開できない部分も多い。そのため愛する者との逢瀬は必然的に、そこ以外の場所でなければならない。


「こんごー」

間延びした声が俺を呼ぶ。振り返らずとも誰がどんな要求を突きつけてくるのかはわかっている。なぜならば、

「無視すんなよ!!外泊届けです!!お願いします!!」

こいつが妻帯者だからだ。頼む口だけは一応丁寧なこの【掃海管制艇くめじま】、こと久哉。嬉しそうに振られている左手の指輪が憎たらしい。

「始業時間には帰ってこいよ」

「わーい、ありがとうございまーす!」

適当に礼を言う今にもスキップしそうな機雷艦艇最年長者。心のそこから愛する者がいるとそれだけで幸せそうだ。

「あー……結婚したい」

「……どんまい」

心からの慰めの言葉が痛い。激務(とその他諸々)に追われる身の上を思うと希望は余りにも薄い。ああ、我が人生に幸あれ。

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