八月 すがしまとあいしま

 生まれて初めての夏が来た。蝉は鳴いているのに花火大会はない。カキ氷はあるのに夏祭りはない。庭先で水浴びはできるのに市民プールで芋洗いになって遊んではいけない。気温は馬鹿みたいに高いのに隣に【のとじま】がいない。

「あいー、パピコ食べるかー?」

「いるー」

蚊すら飛ばない炎天下の中、夏の定番アイスを弟と分ける。もうほぼ半分溶けてしまっているが、それでも日差しで火照った体には染み渡る。【道】ではいつも六個、計十二本開けていたアイスだが今年からはどうしても一つ余ってしまう。

「余ったやつは、ながちゃんにやろうかな。ながちゃんは【すがしま型】だから」

「六個買ったの?」

「お前だけにやったら他の奴らがうるさいだろ?」

「まあね」

「冷凍庫に入れてるからこれ食べたら差し入れ行くぞ」

もうほとんどないアイスの水滴を拭いながら言えば弟が首をかしげる。

「ながちゃんのあげたら、ゆげちゃんもいるって言うんじゃない?」

「あー……やっぱり一つ余るのか」


生まれて初めての夏が来た。隣に君がいない夏が。

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