十一月十九日1000 くまのの進水

「【30FFM】、よく見ておきなさい」

そう言って二人の【座敷童】は俺の手を引いて、進水式の参列者がよく見える所へと立たせた。

「世情が悪うて、一般客は入れてやれなんだけど、その代わりに今お前の目に映っている全ての人がお前を作った。もう二度と見れん景色じゃ、【長崎】の言うとおり、ように見ねー」

ヘルメットを被り忙しなく動き回る人、礼服を着込んで式台の上でそれを見守っている人、艦の上で待機している人、どの人も一人残らず俺の関係者なのだと、【座敷童】が俺に言って聞かせる。

「本艦を【くまの】と命名する」

「【くまの】……」

マイク越しに聞いた自分の名前を繰り返せばなんだかくすぐったい気がした。ヘルメットをかぶった作業員たちがますます忙しそうに動き回り、親水の準備が進められる。

「支綱の切断が行われます」

鎚が斧を叩き艦をつなぎ止めていた支綱が切られる。高級なシャンパンの飛沫が光り艦が滑り出し、一拍遅れてくす玉が割れ紙吹雪が舞う。興奮と喜びで鳥肌がたつ。

「おめでとう【くまの】。お前は平和を積み重ねる艦だ」

「【くまの】、お前がこの国の幸福の礎となることを祈っているよ」

「【座敷童】も祈るの?」

「ああ、万能って訳じゃないからな」


 もう二度と来ない今日を胸に


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