都会でひとり暮らしを始めたらダークエルフのメイドさんが付いてきたけどなにか質問あります?

黒巻雷鳴

第1話 キレッキレの使用人

 地元で有名な女子短期大学を卒業したあたしは、この春、親たちの反対を押し切り、遠く離れた都会でひとり暮しを始めた。もちろん、勤め先も自分で決めて。

 保証人不要のワンルーム・マンションはすぐに見つかったけれど(オートロックで駅近、築年数も新しくて家賃も予算内どころか爆安だった)、この部屋を借りるには、特別な条件がひとつだけあった。それは──。


「……お帰りなさいませ御主人サマ・・・・・

「……うん。ただいま」


 定時に仕事を終えて帰宅したあたしを玄関で出迎えてくれたのは、褐色の肌をした銀髪の美女。ただし、性格はとても無愛想で、身体的ないちばんの特徴を述べるならば、耳の先が長く尖っていることだろう。

 彼女は、俗にいうところのダークエルフで、身につけているのはサイズが小さ過ぎる黒地のメイド服と純白のピナフォア。短いスカートから伸びる健康的な太股には、白いガーターベルトで留められたおなじく白の網タイツがぴっちり装着されてもいた。

 なんで使用人がこんな扇情的な装いをしているのか、少なくとも、同性として意味がわからない。ううん、そもそも、ダークエルフがどうしてメイドを……それ以前に、いるのかよフツーにって話だ。


「先に夕食になされますか? それとも……ハァァ……お風呂でしょーかぁー?」


 段々と口調が雑になってる。

 深いため息のあと、紫水晶アメジストを彷彿とさせる美しい切れ長の目を閉じた彼女は、髪を掻きあげてから両腕を組んだ。それは、本人のやる気のなさの表れでもあった。

 無理もない。ダークエルフにとって、格下の存在として扱う人間に従って働かなくてはならないのだから。


「えーっと、きょうは暖かくて結構汗をかいちゃったから、お風呂を先に──」

「入浴が先なの?! お湯をまだ溜めてないから、いまからだと作ったおかずが冷めて、チンしなきゃならないんですけどぉ!?」


 なんでキレるのよ。しかも、さっき自分からきいてきておいて、お風呂の用意ができてないって滅茶苦茶だよ。それに、電子レンジを使うのも面倒に感じるだなんて……彼女は全体的に奉仕の心が足りなさすぎるんじゃないかな?


「あ……ごめんなさい。じゃ、じゃあ、ご飯を食べようかな……」

「……フン。かしこまり」


 勝手にキレて不機嫌になった彼女は、その場でくるりと優雅にきびすを返す。黒いミニスカートの裾が歩くたびにフワフワと揺れ、かろやかに気高く踊っているようにも見えた。




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