WBC代表初登板と初打席。

平成21年2月24日。 

 

今日と明日、大阪ドームでオーストラリア代表との強化試合が行われる。


 この2試合では主にメジャー組と国内組のベテラン勢の調整が目的。俺の名はスタメンにはなく、投手として二番か三番手の予定だった。


 先発は監督からエースとして絶大な期待がかけられているダーヴィッシュさん。ようはここから「先発ローテーション」がはじまるのだ。ただ、まだ調整がうまくいってないのか制球が定まらない。


 WBCはアメリカの大会らしく投手の球数制限がシビアだ。前回の大会は60球だった。だから「2人先発制」とすら言われた。今回は65球とやや緩和されたが、割とカウントをいっぱいに使う日本人投手にとってはシビアな条件だ。


 打順が一巡するだけで40球を超えてしまう。2回表、四球と死球で9番捕手のニールセン氏びにセンター前にタイムリーを浴びて先制点を許し、なお二死三塁一塁。ここで俺にお呼びがかかった。お次は1番打者コンプトン氏。左打者、しかも前の打席でセンター前安打を打っている。なので左のワンポイントリリーフというところか。


 グラブを右手につけての登場。歓声がわく。さすがは金メダル効果。プロの実績はなくともここまで盛り上がるとは。


 俺は錠島さんの要求通り、打者の膝元、インローいっぱいの4SBを投げ込む。左打者の弱点のインロー、しかも左投手の150km/hの速球。一見ワンバウンドしそうなとこからゾーンに入るボールに手が出せず、見送って1S。間髪あけずインハイに4SB。のけぞっても入ってまっせ。2S。


 さらに間髪を開けずにアウトローに2SG。タイミングがまったく合わず空振り三振。今度は伸びない直球に待ちきれずに振ってしまったという感じ。2SGはチェンジアップの代わりになっている。これでチェンジ。


「日本なら開幕一軍だな。いや、あの球ならメジャーでも十分通用するぞ。」

受けてくれた錠島さんに褒められる。お世辞かどうかはわからんが。


 その裏には四球や敵失を絡め押し出しと犠飛、ノーヒットで2対1と逆点に成功。


 次の回も2番ジンガー氏を遊ゴロ。3番左打者のフーパー氏を二ゴロ、4番のテリング氏を三振。ここでお役御免。岩熊さんに引き継ぐ。先発のダルさんと打って変わって岩熊さんは好調だった。3イニング投げて1安打のみ。


 チームはさらに得点を重ね8対1で勝利。勝ち星は5回を投げた岩熊さんに付いた。


 「どうなんだろう?」

その晩、亜美としゃべっていて、ふと監督は俺をどう使うつもりだろう?ともらすと亜美は首を一度傾げた。


「やっぱり、『ワンポイントリリーフ』なんじゃないの。中継ぎっていうか、大ピンチなところで投げさせるとか。」

「なるほどな。」

「私が捕手キャッチャーだったら150km/hで四隅に確実に投げ込める投手だったら絶対に使いたいもん。」

 野球選手だからこそ野球の話で盛り上がれる彼女はありがたい。亜美も4月からは大学で野球を続ける予定だ。


「ありがと。とりあえず明日は打者で使ってくれるっぽい。」

「よかったね。健は本業は打者だもんね。」

「うん。埋もれないように頑張るよ。」

 試合が夜10時までかかったため、亜美との通話が終わったら夜中の1時近くになっていた。


 翌日も同じ球場で同じオーストラリア代表との試合。俺は7番指名打者でスタメン。


 いきなりチャンス到来。2回裏、5番武良田むらたさんの2塁打、磐村さんの四球で一死二塁一塁。ようは右方向へ打てばいい。さすがにバントの指示はでなかった。


 相手の先発は左腕のロス氏。右打席に入る。球は速いが制球コントロールはいまいち。2B1Sから4球目。アウトローへの球がインサイドへの逆球。


 カウンターとクリティカルが発動。打球はライトスタンドへ。3ラン本塁打。広い大阪ドームで打ってこそ目立つというもの。きっちりと右打ちだしね。チーム初本塁打でもある。


 ベンチで今回はハイタッチで迎えられる。うわぁ、家に帰ったら録画見よう。3回はチームがさらに2点を加え、4回の第二打席、俺は四球を選択。そして、すかさず盗塁。それを起点に5点加点のビッグイニング。


 俺は次の打席で代打を出され、ここでお役御免。チームも13対2で圧勝。本番に向かってはずみをつける形になった。


 スポーツ紙では「健ちゃん、チーム1号。五輪本塁打王の意地見せた」というサブタイになっていた。


 

 


 

 

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