【短編】学校一の美少女に念を送り続けていたらついにデレ出した

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学校一の美少女に念を送り続けていたらついにデレ出した

 春。

 高校生活も二年目になってから噂の美少女と同じクラスになった。


 名を沢良木雪さわらぎゆき。名前の通り、雪のように白く美しい肌、そして高く筋の通った鼻に柔らかそうな唇。アーモンドアイ。ただし、その眼光は鋭い。


 なるほど。あれは確かに美少女だ。


 彼女は入学した頃から有名だった。あれほどの容姿をもっているため、彼女に告白する人は後を絶えなかったのだ。


 しかし、一年も終わりを迎える頃になると、彼女に告白したという人の話はめっきりと聞かなくなった。


 それもそのはず、彼女は全ての告白を一刀両断し、罵詈雑言を浴びせるのだ。

 それ故、好意を向けていた男子たちは遠目に見る人しかいなくなってしまった。


 それに女子からも彼女は敬遠されている。

 その美貌は嫉妬の対象になりやすく、厳しい性格は隙を作りやすい。

 つまりは、ハブられていた。


 今では彼女の周りに近寄る人は男も女もいない。

 たまに、無謀な男が挑戦するが木っ端微塵に砕かれるのだ。そしてそんな冷たい印象からついたあだ名が「雪女」だった。


「沢良木さん、今年一年よろしく」

「話しかけないで。汚らわしい」


 隣になった俺に対してもほら、第一声はこれだ。ブリザードが襲ってくる。

 まともに話しかけることなんてできやしない。


 去年まで別のクラスだった彼女をマジマジと見ることはなかった。遠目から俺も綺麗な人だとは思っていたが、近くで見るとその五倍はかわいい。


 つまり、惚れてしまった。一目惚れだ。


 いやはや、困った。

 苦節16年。誰かを好きになって告白したことなんてのは一度もない。

 それになんだか告白って恥ずかしい。まぁ、俺が告白したところで彼女は聞く耳持たないだろう。これは初めから決まっている失恋なのだ。


 でもせっかくなので今日から心の中でだけでも彼女に告白しようと思う。


 ほら、よく言うじゃん? 「信じるものは救われる」って。

 うち仏教徒だけど。


 ◆



 私、沢良木雪は高校二年になってから困ったことに直面している。

 既にゴールデンウィークも終わり、中間テストの時期がやってきた。


 クラスにも慣れ、新しい友達も……できるはずはなかった。私が全てを拒絶しているからだ。

 その理由は私の特異体質にある。半径2メートル以内に入る人の心の声が聞こえてしまうというものだ。


 これのせいで私は今まで散々苦労を強いられてきた。

 自分で言うのもなんだが、私は容姿がとてもいい。


 それだけで人は近づいてくる。

 だけど、私が心を読めることを知らない人たちが私のことをどう思っているかが分かるのだ。

 地獄だった。


 仲良くしようと言った女の子は心の中で私への醜い嫉妬心を燃やし、好きだと言った男は下半身でものを考えるやつばかりだった。


 そんな生活を何年も過ごしてこれば、人に心を開くことはなくなった。誰も信用できない。私は一生一人で生きていくものだと思っていた。


 ──なのに。


(好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ)


 隣のコイツはどうなってるの!?


 隣の席に座る、沢野森瀧さわのもりたきは異常者だ。


 同じクラスになってから私は毎日のように熱烈な告白を受けている。

 ……心の中で。


(かわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいい)


 しかも数の暴力だ。学校にいる時は授業中を含め、全ての時間で心の中でそう唱えている。

 こんなにも長く、私に対する純粋な気持ちを聞いたのは初めてで、しかも心の中で言っているからどうすればいいか分からない。


(好き。かわいい。好き。愛してる。綺麗だ。今日も素敵だ。はぁ、お腹すいた。沢良木さんと一緒にご飯食べたい。誘ってみようかな?)


「!?」


 さ、誘われる!?

 ど、どうしよ……。いやいや、何動揺してるんだか。いつもの男子たちと同じように断って、罵声を浴びせて終わり。それだけなんだからっ!!


(やっぱりやめよう)


 やめるんかいっ!!


(いやでも……うーん)


 ……まだ悩んでるの?


(そうだなぁ。沢良木さんは何が好きだろう)


 私が好きなのはカニ。


(エビ好きそうな顔してるよな)


 どんな顔よ!! しかし、惜しい……。エビも嫌いじゃないけど。


(そうだ。こーすればきっと誘える!! 沢良木さんのお弁当を休み時間のうちに隠して、困っているところを俺が助けてあげるんだ。そうやって仲良くなってお昼ご飯を分けてあげる。完璧だ)


 うわ……。最低だ。やっぱり、沢野森もそういうやつだったんだ。

 コイツだけはなんだか他のやつと少し違うと思っていたけど、買い被りだったみたいだ。


(っていうのは冗談で。そんな最低なことできるわけないじゃん。馬鹿だなぁ)


 コイツ……ッ!!

 思わず、握るペンに力が入る。


(そんなことできる勇気があるなら最初から普通に誘うよね。つまり……誘うのは諦めよう)


 ビキっとペンが嫌な音を立てた。


 遊ばれた。

 なんか疲れた。

 ダイレクトに思考が流れ込んでくるせいで、勝手に会話した気分になる。

 私の思考とリンクしてなかった?


(やっぱり普通に誘ってみよ)


「誘うんかいっ!! あっ……」


 隣にいる沢野森は驚いたような顔をしていた。沢野森だけじゃない、クラスの生徒みんなが私を見ていた。


「すみません」


 私が軽く謝ると授業が再開された。


 こいつももしかしたら、私の心の中が読めてるんじゃないでしょうね……?


 ◆



 あの日から俺は、絶え間なく、彼女に念を送り続けていた。まずは自己紹介から入り、家族構成に将来の夢。子供は何人欲しいかまで伝えた。

 心の中で。


 そして後は愛を囁き続けた。この場合、囁いたが適切な表現かは怪しいところである。


 最初は軽い気持ちだった。いや、沢良木さんへの気持ちがではない。心の中で伝え続けるというのは別に本当に伝わるとは毛ほども思ってなかったのである。

 しかし、最近は楽しい。


 心の中で彼女に想いを伝え続けることが、褒め称えることが快感になってきたのである。そしてずっと唱えていたらより一層好きなってしまった。


 そしたら昨日ついに変化が訪れたのである。


 授業中だった。


「誘うんかいっ!! あっ……」


 俺は心の中でずっ沢良木さんをお昼ごはんに誘うシミュレーションをしていた。

 それになぜか、沢良木さんが反応したのだった。


 ははん? さては……以心伝心だな?


 俺の積年の想いが通じたのかもしれなかった。



 昼休み。


「沢良木さん!! お昼一緒にどう?」


 ざわり。

 クラスのみんなが一斉にこちらを注目した。

「あの、沢良木雪に声をかけているぞ? 命知らずなやつ……」「くるぞ? 罵声が……」

 そんな声がところどころから聞こえた。


「な、なんで私がアンタなんかとお昼を一緒にしないといけないわけ?」

「なんでって一緒に食べたいからだよ」


(後は好きだから。そらもう好きな人と一緒に食べたご飯なんてものは格別なものでさぁ。ああ、エビがたべたい。カニでも可)


「!?」

「ん? どうかな?」


 一瞬、びくりと肩を震わせたように感じる。


「わ、わかった」


 ざわり。

 またクラスがドッと喧騒に包まれる。

「あの雪女が!?」「どうして!?」端端にそんな声が聞こえた。


「じゃあ、いこうか」


 俺は沢良木さんを連れて、教室を後にした。



 ◆


 なぜか私は沢野森のお誘いを受け入れてしまった。

 そして私はお弁当を持って、屋上へと足を運ぶ。


 その間にもコイツの心を読んでやったが……。


(ヤバイ。OKされると思ってなかった。明日俺死ぬわ。ああヤバイ。好き。ラブ。愛してる。愛のままに!! 我儘に!! 僕は君だけを……っ!!)


 なんかフィーバーしていた。

 イタリア人でもあるまいし、ここまで愛を毎日唱えられたら、なんだか本当におかしな気持ちになってくる。


 だけど、恋心というのは同時に下心も持ち合わせているものだと思っている。好きになったらキスがしたいだとか、それ以上に関係になりたいだとか。もちろん、そんな感情は否定しない。


 だけど、私に告白してきた相手は今までどいつもそういった下心が見え透いていた。本来だったら隠していて見えないはずの下心。私には全て見えてしまう。だから男の人とどう接していいかわからなかったのだ。


 でも横にいるコイツは……。


(きっと沢良木さんと一緒にいられたら幸せなんだろうなぁ。ああ、好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き)


 ほんわかした心の声の後に狂気じみた愛しか感じない。だけど嫌な気持ちはしなかった。


 結局廊下を抜けて屋上に行くまでの間、ずっと好きだの、かわいいだの、指が綺麗だの、まつ毛が長いだの、そんな声ばかりが聞こえていた。


 ◆


 外は快晴だった。

 空は晴れ晴れ。まるで俺たちの門出を祝しているようだ。


 俺たちは誰もいない屋上で塔屋の壁にもたれかかり、お弁当を開いた。

 とはいっても俺のお弁当は買ったパンなのだけど。


 横にいる沢良木さんは、ちゃんとお弁当を持ってきているようだった。


(うまそう。めっちゃうまそう。お母さんが作ったんかな? それともまさか自作? 天才か? 絶対うまいやん。唐揚げとか絶対うまいやん)


 心の中ではなぜか関西弁が出てくる。


「自分で作った……」


 するとなぜか俺の心の質問に答えてくれた。


(やっぱ天才やん。卵焼きとかめっちゃ煌いてるし。絶対うまいやん)


「い、いる?」


(ほしい)


「はい……」


 俺が心の中で答え、頷くと沢良木さんは端で卵焼きを取り、こちらに差し出してきた。


 そして俺は遠慮なく、それを口へ運ぶ。

 モグモグモグモグ。ゆっくりと味わいながら咀嚼していく。

 お出汁の香りがふんわりと鼻腔を突き抜ける。


 間違いない。天才だ。


「っ!」

「めっっっっっっっっっちゃ、美味しかった!!」

「そ、そう? 普通でしょ、このくらい」

「そうかな? (いや天才)」

「そうよ」


 沢良木さんは俺が褒めたことに少し、照れながらも自分のお弁当のおかずをつまみ口に放り込んだ。


(あ、間接キッス)


「ッ!?」


 沢良木さんの顔が真っ赤に染まる。


(かわいい。永遠に見てられるな。本当)


 そんな調子で沢良木さんとの楽しい昼食時間は終わりを迎えた。


 お弁当箱を閉じてから、沢良木さんは無言だった。

 俺はと言うと、相変わらず心の中で愛を囁いていた。


「ど、どうして沢野森は私をお昼に誘ったの?」


 おおっと。これは困ってしまった。そんなものは決まっている。好きだからだ。

 だけど、これを直接言ったらもう告白じゃない?


「うーん?」

「沢野森は、変わってるよね。私なんかと一緒にご飯食べたいなんて」

「そう? これほどの美少女とご飯食べれることに幸福以外の何があるの?」

「ッ!?」


 あ、いつもなら言わないことを言ってしまった。

 キモいって思われたかな? 美少女とかは心の中でしか言わないつもりだったのに。


「も、もしさ。私が人の心の中が読めるって言ったらどうする?」

「恥ずかしい」


 即答した。

 この溢れ出る愛を全て丸聞きされていたことになる。

 そんなことになれば、清水の舞台から飛び降りる。いや、表現とかじゃなく、マジで。


 なぜか、沢良木さんはモジモジし続けている。


「聞こえてる……」

「え?」

「全部、聞こえてる……」

「マジ?」

「その……毎日、好きだの、かわいいだの言ってたの聞こえてたのっ!!」

「よし。死のう」

「ま、待ってよ!!」

「離してくれ!! 俺は今すぐそこから飛び降りなくてはいけないんだ!!!」


 くそう。死んでやる。こんな可愛い子とお昼ご飯を最後に食べれて幸せだった。この幸せのまま逝かせてくれ!!


「ちょっと!! 待っててばっ!!」

「っ!!」


 沢良木さんらしくない大きな声と強い力によって我に返った。

 沢良木さんは俯いて、どこか暗い顔をしていた。


(好きだ)


「ッ!」


 やっぱり本当に聞こえるらしい。本当に恥ずかし過ぎて死にそうなんだけど、それどころではない。


「えっと、沢良木さん?」

「その……沢野森は私のこと気持ち悪くないの? 心が読めるとか……」

「かわいいし、恥ずかしいけど今思ったらラッキーだわ」

「えっ?」

「俺、恥ずかしくて告白とかできないタイプじゃん?」

「知らないけど……」

「好きとか言葉にするの苦手なんだよね。心の中ではどれだけでも言えるけど。だから思いを伝えられてWINWINという関係なのだよ。あ、やべ、今好きって言っちゃったか!? まぁ、ともかく俺は気持ち悪いとは思わないな。俺の気持ちがダイレクトに伝わるならばそれを利用させてもらおう。(好きだ)」

「ぅぅぅ……」

「あ? え? ちょっ!?」


 沢良木さんは突如として泣き出した。

 俺は横であたふたをしながら、沢良木さんを慰めた。心の中で「ああ、泣いてる姿も尊い」とか思ったけどもしかしたら聞かれていたかもしれない。不謹慎だし反省した。


 そして沢良木さんはポツポツと語り出す。

 ずっと苦しかったこと。誰も信用できなかったことを。


 確かにもし誰かの心が読めてしまえば、人間不信になるのも仕方ないことなのかもしれない。

 沢良木さんほどの美貌をもってすれば余計に。

 あ、照れてる。かわいい。


「それに男ってすぐそういうことばっかり考えるでしょ……?」

「そういうこと?」

「その……えっちなこと……」


 やっべ。えっちなこと……っていう時の恥ずかしそうな表情やっべ!!


「ちゃ、茶化さないで!!」


 思考がだだ漏れだった。


「まぁ、男はみんなそんなだしな。否定はしない。俺だって、沢良木さんとお付き合いして将来的にそういうことができたらなって何度妄想したことかっ!!」

「さっき、恥ずかしくて告白できないタイプって言ってたのにその告白はいいの?」


 ……だって本当のことだし。だけど、俺が沢良木さんを大好きな気持ちに嘘偽りはない。だって、今もすんごくかわいいし、良い匂いがするものっ!!


「はぁ……こんなことで悩んでるなんてバカらしくなってきた……」

「それでも本当に沢良木さんが本当に嫌だというなら、俺はもう沢良木さんに近付かないよ。だって好きな人に嫌な気持ちになってほしくないからね」

「〜〜〜っ!!」


 なんだか急に真面目になってしまったがこれは本心だ。好きな女の幸せを考える男。これって最高に格好良くない?


「べ、別にいい……沢野森のはなんか……ストレートだし……その……えっちなことも考えてるかもしれないけど……あんまり嫌な気持ちはしない」

「マジで!?」

「……私のこと好きなの?」

「愛してる。目に入れたい」

「それは怖いけど……沢野森の本気度は分かった。……いいよ。心読まれても良いなら」

「え? マジ?」

「まじ」

「つ、付き合ってくれるの?」


 こくりと彼女は恥ずかしそうに頷いた。


 ひゃあっほおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーやったぜ、今畜生!!!!

 信じるものは報われました! 私、キリスト教へ鞍替えします!!!


 そういうわけで俺と沢良木さんは晴れて恋人になった。




 それから数日。俺は雪女こと沢良木さんを射止めた男として大注目を浴びていた。

 しかし、そんなことはどうでもいい。

 だって、彼女がかわいい。


「は、恥ずかしいからあんまり心の中で考えないで……」

「無理」


 かわいい。かわいい。かわいい。かわいい。かわいい。かわいい。かわいい。かわいい。かわいい。かわいい。かわいい。かわいい。かわいい。かわいい。かわいい。かわいい。かわいい。かわいい。かわいい。かわいい。かわいい。かわいい。


「ば、バカっ!!」

「あでっ!?」


 そう雪はそう言って、俺を軽く叩いて顔を真っ赤にし、そっぽを向いた。

 そんな彼女が愛おしくてたまらない。

 ああ。やっぱり大好きだ。


「ちょっと! こんな人前で好きだなんてっ!!」

「何も言ってませんが?」

「──ッ!!」


 やっぱり雪はかわいい。俺の重い愛を受け止めてくれる。

 そんな雪といつまでもこうやって一緒にいたいと思う。


「〜〜〜〜〜っ!!!」


 ああ、これも聞こえちゃうのね。



                               ──了



──────────


後書き


特に何にも考えず作りました。

よく、主人公が心を読むものは多いけど読まれる方はあまりないかと思い、この設定にしました。

感想があればぜひ、お願いします!


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