門前の小僧

 年配の方の門番に許可を取り、門の端の方に座り込む。

 この人たちからも、もう少し話を聞きたい。




 壁に体を預けて、体育座りをする。

 少し考え事をしよう。



 歩き出してからのこれまでの流れを確認する。

 少し気になることがあるし。


 考え、行動し、反省し、実行する。PDCAサイクルだっけ?異世界でもちゃんとやらないとな。

 ノートまとめは、テスト勉強の定石だ。



 まずどこからいこうか、歩いていた時のことも少し補足しよう。



 回想開始



 前半の24時間は、色々考えながら歩いていた。

 

 怒りが収まってからは、だけど。


 初めに考えたのは、というか考えようとしたのは、あの神をどうやって倒すか。だった。

 今の自分からするとあまりに現実味がないため、考えるのをやめたけど。



 次に考えたのは、これからの生活についてだった。

 生活基盤がどうにかならないと、将来の話ができないから。

 

 そのことに関しては、取り敢えず町に行ってから、ということでこれも保留になった。

 生活の様子とか、判断材料が少なすぎた。



 三番目、与えられたアイテムについて。

 最大限有効活用してやるつもりだったから、このアイテムたちの情報も欲しかった。

 

 実験。検証。試験をしよう。


 ってなわけで、歩きながら色々試してみた。

 わかったことをまとめておこう。



”叡智の宿る愚者を滅しし暗澹と残痕”

 こと、ノート。大学ノート。


 これは便利だった。

 見たいものや知りたいことが一通り見ることができる。

 声に出して見たいものを言えば、ノートに現れる。

 文字、絵、図、として。

 

 後から試したら、方角もこれで確認できた。

 遠くの景色も、見ようとすればノートの上に絵として書き込まれる。


 ただし、神との会話は、気が付けば消えていた。

 実験のために色々出していた文字も、後になると消えていた。

 よく言えば、残ページについては考えなくてもいい優れもの。


 知れないこと、見えないものとして今のところ分かっているのは、

・未来のこと(現在、過去は大丈夫)

・あまりに遠くにあるもの(有効範囲の詳細は不明)


 十分すぎる、強力なものだった。

 





”軽薄な嗜虐心の護体と無体”

 こと、消しゴム。新品。


 角も取れていない、真新しく、真っ白な消しゴム。

 紙のカバーもしっかりついている。


 効果は先に試した通り、物質を消すこと。

 試せる範囲のものは、全て消すことができた。触れただけで消せるのも確認済み。


 草、土、木、花。

 試せたもの自体が少ないけど。


 本来試したらダメなものとも、事故で接触した。

 自分の体とか、アイツから貰ったほかのアイテムとか。

 消えなくて安心。


 僕自身とこの文房具たちは例外なのだろう。

 それ以外はどう足掻いても消してしまう。

 

 消す判定は、消しゴムそのものに触れること。

 カバー越しに触れただけでは消えない。

 いつか使うかもしれない豆知識。


 消える範囲も試した。

 何でも試さないと。

 結論として、少なくとも消しゴムの当たった範囲、大きくても物質全体。ということが分かった。

 どこまでを消したいか、と僕が考えるだけでいいらしい。


 強すぎる分、使用場面が限られそうだ。






”写実嗚呼一滴のペイン”

 こと、シャーペン。普通のシャーペンにしか見えない。


 文字を書き込んだら、かなり何でもできるアイテム。


 旅路で自分に使いながら、人間ならどうとでもできることはわかった。


 他のものにはどうかと、道中見つけた木を実験台にした。

 ”燃焼”と書き込む。

 燃える燃える。よく燃える。

 

 ただし、ここからが少しややこしい。

 

 燃えているというのに、木自体は何の変りもないように見えた。全然炭にも灰にもならない。

 元からそういう特性のものだったかのように。


 でも、落ちている枝を近づけたら延焼した。

 実際熱かった。


 思わず落とした枝から草にさらに燃え広がる。

 これはやばい、と消しゴムで消火。消化、昇華?なんて言えばいいんだろう。とにかく消す。

 追加で、炎も消しゴムで消せることがわかった。


 シャーペンらしく、芯を出していないと効果はなかった。

 あと、芯は無制限のようだった。





 わかったのはここまでで、残ったアイテムについては、何が何だか、といった感じ。


”定めし運命の規範奇譚終焉”

 こと、定規。


 透明、15cm。クラスでも何人か使っていそうな、無個性そのもの。

 一応、メモリがあるから、ただの定規としては十分使えるけど。

 特殊能力とかは、まるでわからない。


 いろんなものに押し当てたり、思い切り殴ったりしたけど、反応なし。

 保留。




 前半の24時間は、こうやって色々試しながら歩いていた。


 


 後半の24時間は、無心で歩いていたため割愛。




 町が見えてからの、僕の動きについても整理しよう。

 ちょっと気になることもあるし。



 人工物らしきものが見つかったから、そこにつながる道を探した。

 そこまでは、まあいいだろう。




 道に辿り着いてから、一回休憩したとき。

 そのとき、実はやることやってた。

 町に入るための作戦を練ったり。

 身の安全のために当然。

 


 まずはノートを使った。

 ノートの有効範囲内だったから、その段階で門辺りの様子を調べた。

 門番が二人、片方はベテランでもう片方は新人。

 ノートを使えば多くのことが分かる。応援がなさそうなのも、二人とも油断しているのも。

 

 だから、突撃を決行。

 無策じゃなかったんだよ、とだけ。



 次にシャーペン。

 これを作戦の要とした。

 シャーペンの効果は既によくわかっていたから、うまく使えば楽勝だと判断した。


 ”許容”と書いとけば、違和感とか諸々無視してくれるだろうと、楽観的に思った。

 シャーペンの理不尽さもよくわかっていたから、これ位適当でもいいだろうと。

 油断、慢心、傲慢。


 結局うまくいったからいいんだけど。



 

 作戦ができたら、すぐに歩き出した。

 疲れ自体はなかったし。



 

 歩き出して暫くしてから、自分に”理解”を書き込む。

 ついでに、”俊足”も書き込んだり。

 門番に対して、できるだけ速く距離を詰めたかったから。



 結果、滅茶苦茶カクカクした。

 動画の早送りみたいな感じ。自分でも驚いた。

 大凡まともな人間の動きじゃなかった。


 失敗だったかな、と思いつつも町に向かって歩いた。




 門番の人にも申し訳ない。多分あれのせいであんなに驚いていたんだろうな……。

 

 

 


 門番が視認できる範囲になってから、ホールドアップ。

 敵意の無さをアピールするため。



 なんてのは建前で、ホールドアップも作戦の内。

 普通に両手に物持っていたし。

 敵意有りまくり。

 右手シャーペン、左手に定規。


 シャーペンは勿論書き込むため。

 定規は特に理由なし。保険と実験を兼ねて、一応持っとくみたいな感じ。



 そこからは特筆することもないかな。


 変な格好で、変な動きをする、変な物持っている不審者の襲来に、パニックになっている大人相手に落書きをして終了。

 中々酷いな。



 以上回想。



 さて、ここから先はどうしようかな?





 膝を抱えてボーっとしていると、ベテランの方の門番が話しかけてきた。


「坊主、これからどうすんだ。当てでもあるのか?」


 少し身構えながらも、素直に答える。


「ないんですよ、それが」

「じゃあ、ついて来いよ。一日位の宿だったら貸せるぜ」

「ホントに?」



 なんだか都合良すぎる気がしたけど、他にどうしようもないのでお言葉に甘えよう。

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