超常ミステリ メタフィクション探偵出臼タチバナの事件簿【地下1000mの密室!裏国技館ゴリラ力士消失事件】~改造奇人ソロ男爵 登場~

鮎河蛍石

超常ミステリ メタフィクション探偵出臼タチバナの事件簿【絶対密室!下着の中の球袋左キンタマ消失事件】~改造奇人・ソロ男爵登場~

【プロローグ】ソロ男爵誕生


 世界征服を企む秘密結社『朱染しゅぞめのマントヒヒ』アジトにある改造手術室。

 手術室の床は謎の配線がむき出しで、労働基準監督署が査察に来れば「作業者が躓き転倒する危険がある」と絶対に指摘を受ける危険な配置。

 嗚呼なんと邪悪な組織か。


「起きよソロ男爵」

 手術室の壁に掛かる赤いマントヒヒを模したレリーフの目が怪しく光りソロ男爵に語り掛ける。

孤独岳信二こどくだけしんじは不幸にも国技館前で秘密結社に捕らえられ超常奇人スーパーナチュラルミステリーヒューマンにされてしまったのだ。

「むむむ……ここは何処いずこか?」

 手術台からむくりと体を起こすソロ男爵。

「貴様は我ら朱染めのマントヒヒが、新たに命を与えた超常奇人スーパーナチュラルミステリーヒューマンソロ男爵だありがたく思え」

「おやおや群体の香りがしますぞ?」

 ソロ男爵は孤独を愛する怪紳士ミステリージェントルマン、超常奇人センサーによりソロ以外の物を敏感にかぎ分ける。

「貴様に授けた奇人能力ミステリースキル、念じた複数をソロにする単独魔術ソロイリュ―ジョンによって、憎き五人の戦士達を四人葬り去り、相手をソロヒーローにするのだ」


「ソロイリュージョン!」


 ソロ男爵が能力を発動するとマントヒヒのレリーフは目から光を消し沈

 黙した。単独魔術によって

 そして一人の怪人だけが残った。

 孤独を愛し孤独に哀される者ソロ男爵。


「臭いますぞ世界にあふれる醜き群体の香りを」

 彼は己の股間シークレットスポットを睨み付けニヤリと笑みを浮かべると快活に叫ぶ。


「ソロイリュージョン!」


 世界の危機が産声をあげた。



【出題編1】ブリーフのおじさんと片キンタマ消失現象


 春それは木が芽吹く季節。

 陽気に誘われ天然奇人ナチュラルミステリーヒューマンも虫のように湧く。

 日中の公園を歩くブリーフのおじさん孤独岳真一こどくだけしんいち、彼も天然奇人ナチュラルミステリーヒューマンの一人である。

 「あっ!?」

 圧倒的な喪失と孤独の感覚を股間プライベートスポットに覚えたブリーフのおじさんは、ブリーフのゴムを伸ばしキンタマに語り掛ける。

「一体どうした?」

「左キンタマが……左キンタマが無くなっちゃったよお……」

 。加えて皮膚の防御を破らずして、左キンタマだけが突如消失した。

 これはだ。

 

 右キンタマとおじさんの慟哭どうこくを咲き始めた桜並木だけが見ていた。



【出題編2】裏角界アンダーはっけよい揺れる


 世界から片キンタマが消失して2時間後。

 国技館直下1000mに位置する裏国技館アンダーバトルドームで今まさに、定例神事相撲裏取組アンダーグラウンドはっけよいが開始されようとしていた。


西に~し~珠算花しゅざんはな

 彼の取る頭脳的な相撲に惚れ込んだ親方が「算盤ソロバンみたいな相撲をするので」と付いた四股名が珠算花。


ひが~し~、ゴリラ」

 彼は神事相撲の為、上野動物園直下1000mに位置する裏上野動物園かわいそうなどうぶつえんより召喚しょうかんされた特殊な訓練を受けたゴリラ力士だ。


 神聖なる土俵で立ち合いの姿勢に入った二者が、神が見守る仕合バトルの中で最強もともと特別なナンバーワンを奪い合わんと睨みあう。

「はっきよい! 残った!」ソロイリュージョン!

 

 行司が儀式開始を告げた刹那、ゴリラが土俵から消失した。

「おい! なんだ!?」

 客席にいた神があまりの出来事に土俵へ駆けあがる。


「はっはっはっはっはエキセントリック!」

 鼻につく高慢な笑い声が裏国技館アンダーバトルドームに響き、土俵を照らすスポットライトが客席に向く。光の只中にすっくと立った怪しい仮面の男は、シルクハットを被り、マントを纏っている。

「好きな武将は独眼竜伊達政宗レッツパーリィ! 取組相手をワタクシ、ソロ男爵がいま全て消した! この世に残ったのは珠算花貴公のみ! おまけに二子山ふたごやま部屋を一子山ひとりっこ部屋に改めさせてもらった! ではさらば!」

 ソロ男爵はマントを翻すと霞の如く姿を消した。

 客席には仮面、マント、シルクハットのみが残っている。

 

 「なんだアイツは?」

 「俺の仕合を返せ!」

 神は只々困惑し、珠算山は行き場を失った闘争心で体を震わせる。


 「中止!取組中止!」

 行司が仕合中止を宣言する。


 「もしもし日本探偵組合ですか?」

 特別招待された相撲ファンの一人、国民的ロックバンドを率いるメインボーカルの悪魔、デビル夕暮が探偵組合へ通報する。

 国家の行く末を維持する神事を行う裏国技館。

 その施設はである。

 これはだ。

 定例神事相撲裏取組アンダーグラウンドはっけよいの会場たる聖域内には力士、ゴリラ、行司、神、デビル夕暮れしか居なかった。

 ソロ男爵はどうやって裏国技館アンダーバトルドームに侵入したのか?


難事件わけわかんねえが起きたので助けてください」


 悪魔は人に助けを乞うた。



【解決編1】メタフィクション探偵出臼タチバナ


 日本探偵組合は世界探偵組合の日本支部、国家の危機から日常の謎まで幅広く扱う組織だ。

「はい日本探偵組合北条です」

 日本探偵組合序列第2位のコールセンター探偵、北条タマキが上位探偵控え室にある緊急通報回線直通電話を取った。


「もしもし日本探偵組合ですか?」

「夕暮さんお久しぶりです」

 通報受付の段階で9割の事件を解決する彼女の優れた頭脳が即座に受話器の先にある相手を言い当てる。

「先日はお世話になりました」

「いえいえ。連続悪魔払ダイナミックエクソシズムい事件。大変良い頭の体操になりましたので」

難事件わけわかんねえが起きたので助けてください」


 事のあらましを夕暮が聴くものをとろけさせる蠱惑的な悪魔声デビルボイスで説明する。

「確かに難事件わけわかんねえですね。取り次ぎます」

 北条には恋人がいるので悪魔声では蕩けない、話の腰が折れなくてよかったね。

しかし彼女の極まった安楽椅子探偵頭脳であっても、理解し難い怪事件に早速降参をした。ソロイリュージョン!

「バディ探偵さん。あれ?」

 序列3位の2人でセットのバディ探偵、安倍あべのハルアキと芦屋あしやミツル。

 その片割れのハルアキのみが控室に設置された室内用ハンモックで眠っている。ミツルはトイレにでも行ったのだろうか。

「ミツルさんは何処に?」

したようだね」

「タチバナさん。これは一体?」

 困惑する北条に超絶謎推理なんでわかるんだよを披露した彼女こそ序列1位、最強至高のメタフィクション探偵、出臼デウスタチバナその人だ。

 世界キャッチコピー、あらすじ、地の文を読み解く異常過ぎる鋭敏な推理力が一連の謎を強引に紐解く。

「これはだね世界同時発生睾丸単独化現象ワールドハーフキンタマジェノサイドソロボールミステリの犯人が起こした事件さ。本作のキャッチコピーとあらすじ欄を読んだら瞭然だね。【ワタクシ、ソロ男爵! 単独魔術でノックスの十戒をノックスのソロ戒に改た!】 【ノックスのソロ戒 1.犯人は、物語の当初に登場していなければならない】 」

「そんな滅茶苦茶ですよ」

「滅茶苦茶な事件こそボクの専門分野さ」

 ソロイリュージョン!

「おや? 3つのWもWhydunito、なぜ犯行に至ったかだけになったようだね」

 ソロイリュージョン!

 受話器がデスクに落ちバウンドして床に転がる。

したな! ソロ男爵! ボクはお前は絶対に許さない!」

「ソロ男爵っていったい何ですか!?」

 受話器の落下で切れた保留電話から夕暮れの困惑が漏れ聞こえた。



【解決編2】進め探偵ビークル! 出臼タチバナVSソロ男爵


 裏国技館アンダーバトルドームの堅固な外壁は物理結界と霊的結界に守護されている。

「痛い!痛い!痛い!」物理結界が叫び。

「入らないでください!結界ですよ!」霊的結界が必死に抵抗する。

 しかし日本で一番堅固な外壁は豆腐を殴ったが如く吹き飛んだ。

 探偵組合特別条項の定める❝国家の危機に類するミステリーに於ける超法規探偵活動を認める❞を行使した出臼タチバナが駆る探偵ディテックビークルの仕業に他ならない。

 探偵ディテックビークルのフロントに装着アタッチされた禍々しいデザインの地層掘削機ウルトラドリルが回転を止めると、ビークルのハッチが開きタチバナは垂直にジャンプ、に向かって45度の角度を保ち魚雷が如きドロップキックを「犯人はお前だ!」と叫び叩き込んだ。

 珠算花、神、悪魔があまりにも早すぎる展開に困惑の色を隠せない。


「「「行司が何をしたってんだよ!?」」」


 蹴り飛ばされなかった三人が同時にツッコミを入れた。

 行司が手放した軍配をキャッチしたタチバナは、客席で伸びている行司改めソロ男爵を指し推理を披露し始めた。

「第1の謎、全世界の男性が有する密室、下着と球袋の防壁を無血開城したのは奇人能力ミステリースキル単独魔術ソロイリュ―ジョン。第2の謎、密室裏国技館アンダーバトルドームの警備を破った侵入と怪人出現消失のトリックは職業が行司の孤独岳信二こどくだけしんじにのみ可能だ。あらすじに【孤独岳信二 職業、行司】プロローグに【国技館前で秘密結社に捕らえられ】と記されている点から明らかだ。ソロ男爵は手始めにキンタマをソロ化した後に裏国技館アンダーバトルドームに出勤する。そして【念じた複数をソロにする】単独魔術を仕合開始と同時に発動させゴリラ力士を消失させた。ゴリラ力士消失の混乱に乗じてソロ男爵は客席に行き、用意していた仮面にマントとシルクハットを身に着け出現する。そしてマントを翻すと衣装だけを残しソロ男爵は行司の姿に戻り土俵へワープする。あらすじに【超常奇人はワープができる】とある」

「はっはっはっはっはエクセレント! エクセレントだお嬢さん!」

 ソロ男爵はむくりと客席から立ち上がる。

「それではお聞かせ願おう嬢さん唯一のW! なぜ犯行に至ったかを!」

「出てこい! ブリーフのおじさん!」

 探偵ビークルの操縦席からブリーフのおじさん孤独岳真一こどくだけしんいちがボロンとまろび出る。

「信二……信二なのかい」

「兄さん……兄さん!」

 客席からソロ男爵が、探偵ビークルからブリーフのおじさんが土俵目掛けて駆け寄る。そして二人は土俵でがっぷり四つと抱き合った。

「そうか! 二人は生き別れた双子」

 探偵序列66位の力士探偵でもある珠算花が、超常奇人スーパーナチュラルミステリーヒューマン天然奇人ナチュラルミステリーヒューマンの関係性を言い当てる。

「そうさ二人は生き別れの双子。あらすじを見れば明らかさ。ソロ男爵とあろう者が双子の兄を真っ先に消さなかった違和感の正体がこの様だよ」

 QED.

 変態と変態がぶつかり倫理矛盾あってはならないが発生、ソロ男爵の躰が徐々に光の粒に変わりブリーフのおじさんだけが土俵に残り泣き崩れた。

 勝負あり。

 そして怪人消滅後のお約束現象、消えた全てのモノが世界に帰ってくる。

 おかりなさい。


 ブリーフのおじさんの左キンタマが安らかなる揺り籠へ帰ってきた。

「ずうっと一緒だよ」 

 左キンタマは右キンタマにそう囁いた。




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